ベースの不具合2012/02/05

ベースの音が出たままという楽器の修理を承りました。
受け取ったアコーディオンのベースボタンですが、異常が分かるでしょうか?
ベースボタンの高さというか、突き出し量がバラバラで、しかも、
一定の方向にかけて均一に変化している訳ではなく、本当にバラバラです。
これは何だ?という印象で蓋を開けてみましたが、意外にも
ベースメカニックは整然としていて異常がなかなか見つかりません。

空気漏れがあり、弱くベースの音が鳴ったままです。
リードを外して良く見るとバルブに僅かな隙間がある箇所が見つかりました。
写真の黄色い矢印が異常個所で、赤い方は正常です。

分解せずによく観察し、ようやく原因を突き止めました。
黄色い矢印のところです。


拡大するとよく分かります。
場所はベースメカニックの一番底にあるバルブの軸を受けている木製の台が
割れて浮いています。
これが原因で空気漏れしたり、ボタンの高さがバラバラになっている様です。
ここを修理するには殆どのベースメカニックを取り出す必要があります。
ベースメカニックがユニットになっていて簡単に外せる機種もありますが、
殆どのアコーディオンは部品を一つ一つ外して行く必要があります。

という訳で、ベースメカニックを外しました。
スッキリ、バルブがよく見えます。

最初に確認した異常個所です。
邪魔なメカが無いので写真が撮りやすいです。
台座が割れているだけではなく、浮いているのがよく分かります。
修理するには更にバルブを全部外す必要があります。

上から見えていた部分よりも、ずっと広い範囲で台座が浮いている事がわかりました。
ボタンの高さがバラバラになる訳です。

バルブを外したので台座の異常が良く分かります。
この木製台座はベースのスイッチがあるため、一体ではなくで分割されています。
ですが、割れや浮きが個々に起きています。
どうやったらこうなるのか..
これは謎です。

台座を修理してバルブを戻しました。
過去にバルブの修理をしたらしく、貼ってある丸いシールが同じではありません。
バルブの皮は古いままですし、全体を修復したのであれば同じシールを使うはずなので、
応急的に修理されたのでしょう。


分解すると色々な不具合も見つかります。
ネジとバルブが干渉しています。
これは製造時からでしょう。


ベースボタンが変形している異常も見つかりました。

この楽器、TITANOというブランドの物です。
多分、40年程度前の物ですが、製造はVICTORIAです。
面白いのは、ご覧の様にリードが真ん中で二分割されていることです。
以前のVICTORIAもこのような構造でした。
長い物を2点で固定するよりしっかりと固定できてリードの振動を
ボディーに効率良く伝えられるというのが狙いでしょうか?

チューブチャンバーという独特の機構が備わっています。
これはグリルカバーが二重構造になっており、ストレートに音が抜けない様になっています。
その結果、チャンバーに似た音がチャンバー構造なしで得られます。
欠点は全ての音に効果が出てしまう事や、ON/OFFできない事でしょう。
これもVICTORIAの古い機種に見られます。

二分割リードブロックやチューブチャンバーは特許なのでしょう。
内部にこのシールが貼ってあります。

ベースの修理が完了したTAITANOですが、リードのサブタ皮は酷く反っています。
これは右手側。

ベースのサブタ皮もかなり重症です。
これに起因するノイズも修理依頼を頂いていますので全て張替えです。


リードを固定しているロウもひび割れが見られ、上から補修した跡があります。
この部分はロウの修復が悪く穴が空いています。(光が漏れているところ)

リードの錆びも出ています。
当然ですが、調律はかなり狂っています。
今回、すぐに使用するとの事で、ベースの修理とサブタ皮の修復のみでお返ししましたが、
この楽器は、全てのバルブ交換、リードの錆び除去、リードの再固定、調律と、
必要な修理が多数あります。
とても興味深い楽器ですが、古い故、本調子にする為には時間と費用が必要になります。