クロスカウンター2012/04/02

ボタン式アコーディオンの調律を承りました。
楽器を開けたら面白い状況がありました。


リードバルブ(サブタ皮)が向かいのリードの物と接触し、
そのまま交差して開いたままになっています。


上から見た状態です。
正に、サブタのクロスカウンター! (何のこっちゃ..)

周辺のサブタは反っていませんので、偶々、この二つの音を同時に
鳴らした時にサブタ同士が接触してこんな風になったのでしょう。
フレンチタイプのボタンアコはリードの間隔が狭い物がよくあります。
なので、こんな事が起きる場合もあるのでしょう。
片方のサブタ皮の幅がちょっと広いのも原因でしょうか。

破断2012/04/02

当店で購入頂いたアコーディオンの空気ボタンが押されたまま
戻らなくなるという不具合が起き、楽器を修理しました。
空気ボタンが戻らなくなるというトラブルは時々見られることで、
稀なトラブルではありません。
そうなってしまうと空気が漏れ続けてしまうので演奏できなくなってしまいます。


空気ボタンが戻らない原因で一番多いのは、押し込んだ際に
ボタンが中に入り込み、位置が穴からずれることで戻らなくなるケースです。
他には、ボタンの下にあるリンクを構成する金属部品が曲がってしまう事です。
これは安い中国製の楽器で強度設計に問題がある場合や、材料の硬度が
製造ばらつきにより設計通りになっていない場合に起きます。

今回の原因は比較的、稀なケースでした。
押したボタンを戻すバネが破断していたのです。
ちなみに、この楽器は購入後2年程度経過したイタリア製の楽器です。
空気ボタンは、鍵盤やベースボタン程、使用頻度が多い箇所ではありませんし、
2年しか経っていない新品の楽器ですので、金属疲労で破断した訳ではありません。
これは、材料欠陥か、曲げ加工した際に欠陥ができたかどちらかと思います。
材料中に存在する欠陥が原因で繰り返しの使用により疲労破壊するという状況です。
欠陥が無ければ疲労しても十分に耐えられる設計なので幾ら作動させても破断しません。
これはリードも同じです。
金属疲労だけで破断するのであれば、古い楽器でよく使われた物は次第に
リードが折れて行くはずですが、そうはなりませんので。

原因はバネの破断ですので、交換して修理完了しました。
新品の楽器でも部品点数の多いアコーディオンはトラブルはつきものです。
当店で販売した楽器は1年間保障ですが、その後も30分以内で直る修理は
無料で修理する事にしています。それ以上時間のかかる修理や調律は
通常料金の3割引にもしています。
これが、一般の楽器店や、オークションで購入した物や、個人輸入した楽器だったら
都度、修理費はかかりますし、修理できるところまで転送されますので、
時間もかかります。
楽器を購入する場合、購入後にかかるコストや安心を考える事はとても重要です。

変な天気2012/04/03

今日は急に天候が荒れました。
突然、強風が吹き荒れました。
店の前にある観葉植物の鉢が倒れたので退避させて暫くすると、
折れた傘が店の前に飛んできたり、ごみが飛んで来たり..


外に貼っていたポスターも剥がれて飛びそうになって、間一髪で救出しました。


そして、暫くしたら風は止まり、代わりに豪雨に..
4月ってこんな気候があったかな?

ビンテージの再生82012/04/04

70年以上前のアコーディオンの修復をしています。
前回の記事はこちら。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/03/28/6467354


鍵盤側の発音関係の修復を行った後に、幾つかの短期間の別件修理を
行っていたのでまた少し遅れてしまいましたが、ベース側の発音関係の
修復を行っています。
これはベースリードですが、サブタ皮は反りが激しく出ています。
この為、演奏するとゴボゴボ、ガサガサというノイズが出ています。


先日のブログに向かい合ったサブタ皮がクロスしている状態の記事を書きました。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/04/02/6482355

この楽器もベースリードの間隔が狭い箇所があり、
サブタ皮の先端が向かいのリードブロックに寄りかかっていたり、
サブタの先端がくっついている物もあります。
これは正に、サブタkiss!(なんのこっちゃ..)

で、このままではダメなので全部取り外して、新しい皮に交換します。


ベースのリードブロックを外して行くとかなりショックな出来事が..
全部で3つのリードブロックがありますが、小さい方から2つ目まで外し
一番大きいブロックを外すためネジを外し、ブロックを掴んで持ち上げようとしても
ビクとも動きません。
古い楽器ではくっついている事があるので強めに引っ張ったり、
傾けたりしてもやっぱり動かない..
おかしいと思ってよく観察すると、このブロックだけ本体に接着されていました。
いかにも外せそうなネジ止め部分のデザインだったので全く予想外です。
この事実はショックです。
ここからの作業は本体に付けたまま行う必要がありますので。


本体にブロックが付いたまま、リードを外しました。
サブタが外れてブロック側に落ちている箇所もありました。

古いサブタを外し綺麗に掃除したリードです。


ベースリードの外したサブタ皮です。
奥にあるリードは取り外せた方のリードブロック2つ。


リードをブロックに戻してロウで接着しました。
これもリードブロックが本体に付いたまま行うのでやり難かったです。
その他、スイッチに関する修正など、発音部分の調整、修理を行いました。
これでやっと調律に取り掛かれます。

ビンテージの再生92012/04/09

70年以上前のアコーディオンの修復をしています。
長くかかりましたがこれで最終回です。
前回の記事はこちら。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/04/05/6489315


調律はスムースに行う事ができました。
それ以前の修復、調整がきちんとなされていれば現代の楽器と変わらなく
調律をする事ができます。
逆に言うと、調律だけしてもうまく行かないという事です。

調律と関係ありませんが、新たな問題を発見しました。
ボディーと蛇腹が合わさる面が並行ではなくてボディー側が
カーブしています。まっすぐな定規を当てると最大3mm程度の
大きな隙間ができています。
このままでは空気漏れしますので修正しました。


ここまでで楽器としての修復は完了し、後は外観の修復です。
グリルに張ってある布は汚れが目立ち剥がれかけています。
グリルのメッキも汚れて曇っています。


グリルを外して裏を見ると更に汚れが目立ちます。
この楽器は、グリルのサイドにも透かしがあり、布が張ってあります。


グリルの布を剥がしました。
グリルの模様が転写されています。


新しい布に交換し、グリル表面も磨いてピカピカになりましたが、
ボディーのコーナー部分のセルロイド剥がれがある事に気付きました。
白と黒の二層で貼ってある手の込んだ仕上げ部分です。
この部分も同じ様に修復しました。


鍵盤のある方の角が割れています。
空気漏れする箇所ではありませんが目立つので修復しました。


楽器に蛇腹を取りつけ、空気漏れのチェックをすると、
蛇腹の一部から漏れが確認できました。
角の部分が摺れて開口していました。
ボディーとの界面ですが、他の蛇腹の角には金属のカバーがあるので
摺れても削れませんが、この部分だけはカバーが無く、足と接触するので
穴が空いてしまいました。
これも塞いで修復。


蛇腹留めがありません。
過去に何度か修復したのでしょう、幾つもの穴が残っています。
穴を修復した後、新しい蛇腹留めを取り付けました。


修復完了です。
ボディーを少し磨きましたが、装飾のペイントにトップコートが無いので
ペイントを損傷しないレベルで綺麗にしました。
これで、外観、機能共に生まれ変わりました。
試し弾きしましたが、現代の楽器とは違う何とも良い響きでした。
時間と費用は掛かりますが、元が良い楽器なので修復した価値は
十分にあると思いますし、70年以上前の楽器が普通に使えるという事は
単なる置き物としてではない訳ですので大変貴重な存在と思います。
別に古いからと言って、そーっと弾く必要はなく、普通にガンガン弾けますし、
それで壊れる事もありません。


綺麗になってメーカーロゴや周囲の装飾が喜んでいる様に見えます。
(私には..)


ベースの小窓も綺麗になり周囲の装飾も華やかです。


蛇腹留めは現代の物に交換しましたがデザインの
クラシックなタイプにしましたので違和感は少ないです。


修復で取り外した消耗部品全てです。
交換したという証しと、長く頑張った部品を見て頂く為に
依頼した方にお返ししています。


ところで、こんな本が手元にある事をすっかり忘れていました。
HOHNERのアコーディオンの歴史が書いてあります。


それで、本を見てみると修復した楽器と同じ物が載っていました。
色違いですがデザインは全く同じです。
ベースボタンの変色までソックリ。
1055という機種で1929年製造という事です。
という事は、83年前の楽器という事になります。
当時は大変高価な物だったと思います。
このような楽器の修復に携わる機会が得られた事に感謝しています。
この楽器がこれからも多くの人を幸福にして行ってくれるかな..
と、思うと嬉しい気持ちになります。