ビンテージの再生92012/04/09

70年以上前のアコーディオンの修復をしています。
長くかかりましたがこれで最終回です。
前回の記事はこちら。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/04/05/6489315


調律はスムースに行う事ができました。
それ以前の修復、調整がきちんとなされていれば現代の楽器と変わらなく
調律をする事ができます。
逆に言うと、調律だけしてもうまく行かないという事です。

調律と関係ありませんが、新たな問題を発見しました。
ボディーと蛇腹が合わさる面が並行ではなくてボディー側が
カーブしています。まっすぐな定規を当てると最大3mm程度の
大きな隙間ができています。
このままでは空気漏れしますので修正しました。


ここまでで楽器としての修復は完了し、後は外観の修復です。
グリルに張ってある布は汚れが目立ち剥がれかけています。
グリルのメッキも汚れて曇っています。


グリルを外して裏を見ると更に汚れが目立ちます。
この楽器は、グリルのサイドにも透かしがあり、布が張ってあります。


グリルの布を剥がしました。
グリルの模様が転写されています。


新しい布に交換し、グリル表面も磨いてピカピカになりましたが、
ボディーのコーナー部分のセルロイド剥がれがある事に気付きました。
白と黒の二層で貼ってある手の込んだ仕上げ部分です。
この部分も同じ様に修復しました。


鍵盤のある方の角が割れています。
空気漏れする箇所ではありませんが目立つので修復しました。


楽器に蛇腹を取りつけ、空気漏れのチェックをすると、
蛇腹の一部から漏れが確認できました。
角の部分が摺れて開口していました。
ボディーとの界面ですが、他の蛇腹の角には金属のカバーがあるので
摺れても削れませんが、この部分だけはカバーが無く、足と接触するので
穴が空いてしまいました。
これも塞いで修復。


蛇腹留めがありません。
過去に何度か修復したのでしょう、幾つもの穴が残っています。
穴を修復した後、新しい蛇腹留めを取り付けました。


修復完了です。
ボディーを少し磨きましたが、装飾のペイントにトップコートが無いので
ペイントを損傷しないレベルで綺麗にしました。
これで、外観、機能共に生まれ変わりました。
試し弾きしましたが、現代の楽器とは違う何とも良い響きでした。
時間と費用は掛かりますが、元が良い楽器なので修復した価値は
十分にあると思いますし、70年以上前の楽器が普通に使えるという事は
単なる置き物としてではない訳ですので大変貴重な存在と思います。
別に古いからと言って、そーっと弾く必要はなく、普通にガンガン弾けますし、
それで壊れる事もありません。


綺麗になってメーカーロゴや周囲の装飾が喜んでいる様に見えます。
(私には..)


ベースの小窓も綺麗になり周囲の装飾も華やかです。


蛇腹留めは現代の物に交換しましたがデザインの
クラシックなタイプにしましたので違和感は少ないです。


修復で取り外した消耗部品全てです。
交換したという証しと、長く頑張った部品を見て頂く為に
依頼した方にお返ししています。


ところで、こんな本が手元にある事をすっかり忘れていました。
HOHNERのアコーディオンの歴史が書いてあります。


それで、本を見てみると修復した楽器と同じ物が載っていました。
色違いですがデザインは全く同じです。
ベースボタンの変色までソックリ。
1055という機種で1929年製造という事です。
という事は、83年前の楽器という事になります。
当時は大変高価な物だったと思います。
このような楽器の修復に携わる機会が得られた事に感謝しています。
この楽器がこれからも多くの人を幸福にして行ってくれるかな..
と、思うと嬉しい気持ちになります。