中古アコーディオンの整備2014/02/04

中古で販売しているアコーディオンの整備をしています。
ありがたい事にご購入を決めていただいたのですが、
現状、ご注文いただいた後に整備という事になっており、
お待ちいただいている状況です。


ベースのバルブです。
ベースメカニックを全て取り外さないとこの部分にアクセスする事はできません。
製造から40年程度経過している為、バルブに貼ってある皮とフェルトを交換しました。
既に交換は済みましたので後はメカニックを戻すだけの状態です。
と言っても、調整を行いながら組戻すのでかなり時間が掛かります。


取り外したバルブ材です。
グレーのフェルトに焦げ茶色のバックスキンが貼ってあります。
ベースには24個使われています。


新しく準備したバルブ材が手前です。
奥が古い物ですが、楕円の跡が少し残っているだけで、
虫喰いも無いし、交換するのは大袈裟じゃないの?
と思う方もいるかも知れません。


という事で、違いをお見せします。
古いバルブ材の端を指で挟んで持ち、
反対側の端に洗濯バサミの様なクランプを付けました。
重さは14グラム程度の物です。
ご覧の通り、バルブ材は軽く曲がる程度でクランプの重さを支える事ができます。


こちらは新しく準備したバルブ材です。
材料は元と同じフェルトと皮で、厚さも同じです。
同じようにクランプを付けて手で持つと、
柔らかいので大きく曲がり14グラムを支える事ができません。
40年経過したフェルトと皮は見た目に変化が無くてもかなり硬化しているという事です。
使われている材料や置かれた環境でも違いは出ると思いますが、
大体同じ結果になると思います。
この部分が古くなるとバルブが閉まる時のノイズが大きくなったり、
空気をきちんと止める事ができなくなります。
古くて整備ができていない楽器も音は出ますが色々な影響が出ています。
新しい楽器を使った事が無い人には比較ができないため、
細かい不具合に気付く事ができないという問題があります。


ベースメカニックを戻し、ボタンを取り付けています。
残り80個ですが、ここからがまた大変です。


バルブはベース側だけではなく、右手側にも付いています。
ベースよりずっと多く、鍵盤の数だけあります。
チャンバーの付いている楽器は更にその倍の数になります。
写真は交換した後の状態です。
右手のバルブが劣化している場合も特有の症状が出ます。
主な症状は、離鍵時のノイズが大きくなる、空気が漏れて蛇腹の開閉が速くなったり
蛇腹の反応が鈍感になる、鍵盤の高さにバラツキが出て全体に高さが増して
ストロークが増える...など。
鍵盤を離すとパチパチ音が大きかったり、鍵盤が深くて速く弾き難い、
何も鍵盤を押していないのに蛇腹を閉じる事ができたり音が出てしまう..
という症状はありませんか?
それらはバルブ材を改める事で改善します。

ならば自分で張り替えよう..と思う方もいるかもしれません。
張替えは簡単です。
ですが、その後の調整が大変難しいです。
折角、張り替えても元より空気漏れが大きくなる場合が殆どです。
それでは時間と苦労が報われません。


という訳で、消耗品の交換から調律まで全て終えて、
後は出荷するだけの状態になりました。
40年以上前の楽器ですがきちんと手を入れれば新品の様に使って行く事ができます。
整備がされていない40年以上前の楽器は手を入れるとかなり変化します。
整備が不十分な古い楽器は本来の性能を発揮できていません。

整備済み中古や新品などの高価な楽器を購入することも、
古い楽器の整備をするほどの資金も準備できない場合はどうすれば良いでしょうか?
なんとかお金を貯めてできるだけ新しい中古を購入するか中国製の新品を買う事です。
新しく始める方は34鍵盤、60ベースで中国製新品がお勧めです。
それでも8~10万円程度しますが古い中古で練習するより遥かに良い結果が出ます。
用途にもよりますが、これより安い(小さい)物はお勧めしません。
有名ブランドでも、41鍵盤付いていても、古くて整備が不十分なアコーディオンでは
良い結果は出ません。


バルブ交換もう一丁2014/02/06

手前の記事で中古楽器のバルブ材交換の事を書きました。
http://accordion.asablo.jp/blog/2014/02/04/7336889

今日は修理で入って来た楽器のバルブ材交換です。


古い国産のアコーディオンです。
40年程度は経っているでしょうか。
メーカーでは修理打ち切りになっている製品です。
バルブ材交換のために全ての鍵盤を外しました。


全開の記事ではフェルトと皮でしたが、この楽器はスポンジと皮です。
スポンジは柔らかいので作成時の位置決めがアバウトにできますので、
量産に向きますが劣化が早く、劣化後の影響も大きいです。
国産の低価格なアコーディオンで使われた事がありますが、
海外ではHOHNERで採用された楽器があります。
写真はバルブの皮を剥がした(剥がれた)後の物です。
フェルトと違い、薄く潰れてボロボロになっています。


こちらは皮の方です。
使用中に剥がれてしまった箇所もあります。


鍵盤の後端の下にあるクッションとしてのスポンジも
劣化していますので交換しました。
この部分に後からフェルトなどを重ねて貼ってある楽器は要注意です。
バルブ材の劣化による鍵盤の上がりをごまかす為に鍵盤下の高さを上げて
鍵盤のストロークを見かけ上、少なくしている手抜き修理です。
そういう楽器はバルブ材の交換が必要になりますので後で大きな出費となります。
見分けが難しい場合は鍵盤の高さを見れば分かります。
通常、最高音と最低音の白鍵の脇にあるボディーより鍵盤は低くなっています。
鍵盤が上がっている場合はボディーより高くなっています。
そういう楽器は何か訳があって鍵盤が元の状態よりかなり高くなっている証拠です。
良い状態ではありませんので、中古を買う場合はチェックする事をお勧めします。


バルブ材をフェルトと皮に交換しました。
スポンジではありませんので位置調整が難しいですが、
交換すれば離鍵ノイズが減り、空気漏れが減り、深さも適正になります。

そしてバルブ交換2014/02/11

このところバルブ材交換の事を続けて書いていますが..
http://accordion.asablo.jp/blog/2014/02/06/7340605

今日もまた、バルブ材の交換です。
古いアコーディオンを再生する場合のお決まりコースは、
バルブ材交換、サブタ皮交換、調律という流れなので仕方ないですね。


今回はベース側のバルブの交換です。
仲間内からの依頼です。
ベースボタンを離した際のパタンという音が大きい事と、
ボタンの操作音がガシャガシャうるさい事からバルブ材交換と
ベースメカニックの調整が必須という事になりました。


アコーディオンは既にメーカーが無いFratelli Crosio です。
以前にパリにショールームがあり、一度連れて行ってもらった事がありますが、
大変良い楽器を作っている印象でした。
この楽器もその店にあった中古を買って持ち帰って来た物です。
その後、Crosioを触る機会がありましたが、いつまでも弾いていたくなる楽器でした。

写真の一番下にあるSTRADELLA は、イタリア北部の都市の名前ですが、
この地区では、やはり無くなってしまったDallape や私が勉強に行った
Cooperfisa など、幾つかのメーカーがある地域です。
いずれのメーカーも、中部イタリアのCasterfidaldo とは一味違う、
良い楽器を手作りしているメーカーです。
Dallape やCrosioの中を見ると、各部にCooperfisa と共通の調整方法が見受けられ、
地域性が見られます。 


これはベースメカニックですが、古い楽器なので現在のシステムと少し違う部分があります。
殆どは同じですが、少しロシアのバヤンのベースに似た感じもあります。


ベースのバンドは要交換ですね..

ベースのバンド調整のダイヤルですが、ネジがかなり緩んでいて外れそうです。
これが外れたら演奏続行不能ですので危険です。
この部分は何度も往復の力が掛かるのでネジが緩む事もあります。
定期的な調律などのメンテナンスを行っていれば不意のトラブルも防げます。


画面中央の真鍮の部品は大量生産の工業製品には無い造形ですね。
微妙な曲げや、ひねりが加えられています。


ベースメカニックを全て取り出すと、ようやくバルブにアクセスできます。
これがバルブの当たり面ですが、皮は硬化しています。
皮もフェルトも剥がして新しい物と交換します。
数は24個ですが、右手以上に調整が難しいです。
ただ貼り替えても上手くは行かないのです。


ベースのバルブを取り去ると鉛筆書きが見つかりました。
MODELLO NUOVO 416...と、モデル名が書かれています。
NUOVOですから当時の新製品でしょうか?


バルブ材の交換を終えて、取り出したメカニックを戻しているところです。
ベースボタン3列まで戻しました。
この楽器は古い構造の為、高級器にある様なベースメカの消音機構が全くありません。
このタイプは、調整を限界まで極める事でボタンを操作した時の
ノイズを減らすしか方法はありません。
ここが腕の見せ所!

雪です2014/02/14

朝から雪が降っています。
名古屋にしてはそこそこ積もっていますが、
関東や甲信ではもっと降っているようです。


高級中型ボタン2014/02/17

高級な中型のボタン式アコーディオンが入荷しました。
96ベースなので中型ですがボタン式なので小型と言っても良いかもしれません。


Casutagnari というイタリアの老舗メーカーの楽器です。
右手側は、43音でMMLです。
ベースは96ベース(2列ベース)、4セットリードです。
ボタン式としては音域が少ないですが鍵盤のフルサイズより多いので
十分に色々と演奏できる物です。


外観はご覧の通り、木目です。
外装はチェリーウッドの無垢材です。
蛇腹には独特のデザインが入っています。
恐らく、メーカーの頭文字Cをデザインしたものでしょう。


メーカーのロゴも木で出来ています。
周囲にある象嵌細工はプリントではなくで本物です。


楽器背面のレジスターです。
色違いの木がツマミになっています。
背面の木のカバーにも細かい細工が施されています。
レジスターは3つですが上下に倒す事ができ、5種類の選択ができます。
ベースレジスターも木製で5つあります。


蛇腹留めもメーカーオリジナルという拘り。
革の裏側はオレンジ色のコーデュロイ生地です。
ベースの左手を通すベルトも同じ仕様です。


リードはイタリア製のハンドメイドです。
試奏しましたが、いつまでも弾いていたくなる心地の良い音と操作感です。
リードはロウ留めですが、釘留めの様な硬い音が出ます。
ですが、釘留め程ギラギラしておらず、かといって丸い柔らかいという感じも無く、
何とも丁度良いバランスのカチッとした音です。

調律はまだ不十分なので当店でやり直します。
細かい不具合も除去します。
イタリアの高級楽器であっても調律はあまりきちんとしていませんし、
新品には細かい不具合もあります。
これは、有名ブランドでも高級器でも皆同じです。
なので、楽器が届いてからの仕上げにより、本来の性能を引き出します。
楽器は何を買うかという事も重要ですが、それと同じ位、
どこで買うか(誰が仕上げるか)という事が重要です。
新品でも高級でも有名でも、届いてすぐにお渡しする事はできないのです。
違う言い方をすれば、良い楽器もきちんと整備されていなければ
本来の音は出ていないという事です。