新品の整備2014/07/24

仕入れをした新品の楽器を整備しています。


日本のブランドですが中国で生産されているものです。
アコーディオンとしては低価格な物ですが、楽器として使用できるレベルの物です。
この楽器は不良品という事でもなく、粗悪な製品でもありません。
むしろ、10万円を切る価格を考えると一体、どうやって利益を出すのだろうか?と、
考えてしまうほど、メーカーは大変、努力していると思います。
当店では、このようなエントリーモデルに限らず、100万円もするような高級器や
中古で販売する楽器も、必ず整備を行って販売するようにしています。

今日は、新品の楽器が持っている不具合の一例としてご紹介します。
細かい不具合が幾つもありますが、これは高級な楽器でも大差ありませんので、
この楽器が特に悪いという事ではありません。念のため..

リードに付いている薄い天然革(皮)のリードバルブという部品ですが、
曲がりがあるので新しい物と交換しました。
薄い色をしているのは新しい部品で、隣にある曲がった物が不良部品です。
天然革の部品なので交換した新品と元々の物は色合いが違います。
薄い色の交換した物はイタリアの楽器で使用されている一般的な物です。

リードは同じ音程で蛇腹の押し引きで音が出るように裏表で一対になっています。
ですので、表から見えていない裏側にも同じ部品が付いています。


これはリードの付いている木枠の穴から見た、裏側のリードバルブですが、
右上の物は垂れ下がっているので(開いたままなので)不良です。
問題の無い箇所はピッタリとリードのプレートに張り付いて平らになっています。
不良箇所は一旦取り外して原因を取り去った後に再度、取り付けを行います。


裏面のリードバルブが開いたままになっている原因は色々あります。
この写真の場合は木枠の加工が悪く、ささくれになっている部分に皮が干渉しています。


リードを木枠から取り外すと原因が見えてきます。
これも木枠の内側の加工バリが原因の例です。


木枠の内側にリードを留めているロウが流れ込んでいる箇所もありました。


リードを取り外すと流れ込んだロウが良く見えます。
リードがリードバルブが干渉しますので取り去った後にリードを戻します。


リードバルブが長くなると押さえの為の金属バネが重ねて付けられます。
写真中央のリードバルブは金属バネが斜めに取り付けられています。


更に酷い箇所は、リードの枠より外に押さえバネが飛び出す程です。


バネの加工不良で先端が広くなっているところもあります。


逆に先端が細くなっている箇所もありました。


これはリード周りの部品ではありません。
鍵盤を押した時に塞いでいる穴を開放して空気を通すバルブです。
鍵盤を押していない時には穴を塞いで空気を止める役目をしますが、
バルブの当り面に異物が入っています。


バルブの異物を取ったところです。
異物が入ると空気を止める能力が落ちたり、バルブが閉まる時に音が出たり、
剥がれた異物が内部に入り、リードに挟まって音が出なくなったりします。


これも鍵盤の先あるバルブです。
先ほどの当たり面は下になっていて、赤いフェルトを挟んでアルミニウムのプレートを
介してアルミニウムの棒を経由して鍵盤へと繋がって行きます。
赤いフェルトの部分は緩衝材としての機能を持っていて、バルブの当たり面の
並行を保ったり、鍵盤を離した時の閉じる音を減衰する役目があります。
なので、ここは柔らかくないといけませんが、写真の左側のバルブは、
接着剤が垂れてフェルト下の皮に到達した状態で固まっています。
これではこの部分の伸縮ができませんので害が出ます。
接着剤の垂れた部分を切り取る処置が必要です。


こちらは、右手のスイッチ操作でスライドして必要なリードの開口部を開閉する部品の、
位置決めとクリック感を作るバネの部品です。
スライドするアルミニウムに設けられた窪みにバネの凸部が噛み合ってきちんとした
位置を保つのですが、三枚あるアルミの板に三枚のバネがきちんと一致していません。
この楽器ではバネは4枚あり、1枚は使わないので曲げてあります。


バネの位置を正しく修正してアルミ板とバネが1つずつきちんと
噛み合うように修正しました。
このようにしないと、演奏中にズレて音がおかしくなったり、
スイッチを押した際の位置決めが悪く、音に異常が出たりします。
スイッチ操作時のクリック感も悪くなります。


これは、ベースメカニックの渕の部分です。
この楽器はベースメカニックが簡単に全て取り外せる構造をしていますが、
そのメカニックを固定しているのは、わずか2本のツメだけです。
その一方が外れています。
単なる取り付け忘れか、輸送時の衝撃で外れたのかは分かりません。


これが引っ掛けのツメを戻したところです。
簡単に戻せますが、ベースメカニックの裏蓋を開けて点検しなければ、
この異常に気付く事はできません。


ベース側のストラップの取り付け部分です。
左手の手の平を通して手の甲に当たるベルトの部分ですね。
2つの金具で金属の部品と繋げてありますが、片方はちょっと変形しています。


見た目が悪いだけならまだ良いのですが、横から見ると浮いていて、
取り付け自体が良くありません。
不良金具を取り去った後に新しい物で固定し直します。

ざっと、不良箇所を見てきましたが、これらは全て修正してお客様にお渡しします。
ここに書いていない不良も幾つかありますし、目には見えない部分の修正もします。
例えば、発音の具合や調律です。
発音調整や調律は大変時間のかかる整備ですが、全て行います。
多数ある目に見える不良箇所の復帰よりも時間のかかる作業ですが、
楽器として使って行くには必須の作業となります。

この楽器に限って言えば、2割引程度で販売している所もあると思いますが、
一般の販売では点検や整備はしていないでしょう。
メーカーから点検済み、保障付きという事で仕入れているので当然と言えば当然です。
これだけの整備、調律を行うと、安い楽器の場合、利益を考えると全く割に合いませんが、
専門店としては良い状態で出荷したいので妥協できません。

冒頭にも書きましたが、100万円もするようなイタリア製の高級アコーディオンの新品でも、
このような不良は多数存在する状態で入荷します。
たとえ、日本で有名なヨーロッパのブランドであっても同じです。
今は、アコーディオンを色々な所、方法で購入する事ができますが、
当店では専門店として、きちんとした状態で楽器をお渡しする事に拘りたいと思います。