金属アコーディオン2015/05/19

1953~1961年と、1973年に製造された
HOHNER製アコーディオンの調律を承りました。
HOHNERの中級機種ですが大変特徴のある製品です。



通常、殆どのアコーディオンにある蛇腹留めのベルトがありません。
代わりに、蛇腹の横に小さなツマミがあり、蛇腹を閉じた状態で
操作する事で内側から蛇腹をロックする機構になっています。
フランスのアコーディオンでは蛇腹留めも、蛇腹ロック機構も無い物もあります。
聞いた話では、無い方が見た目が良いという理由らしいですが、
本当のところは知りません。
この楽器も見た目の格好良さの為にこのような機構にしたのでしょうか?
操作に若干のコツが必要で、使い勝手は良くありません。



この機種は41鍵盤ありますが、一般的な37鍵盤の楽器より小さなボディーに、
標準より細い鍵盤を使用してかなりコンパクトに作ってあります。
写真は右手のバルブですが、通常、鍵盤側からアームが伸びて
バルブに繋がっていますが、この楽器はスペースを有効利用する為、
鍵盤と逆側からのアームでバルブを付けている箇所と、通常通りの鍵盤側からの
アームでバルブを取り付けている箇所が交互になっています。
その為、逆側からのアームと鍵盤を繋ぐ為にゴムの部品で吊っていますが、
これが劣化しやすく、空気漏れのトラブルが多発します。
この楽器は外観が非常に良いので恐らく、最後に作られた
1973年製ではないかと思われます。
その為か、バルブ材は一般的なフェルトが使われおり、空気漏れは起きていません。
以前見た同じ機種はスポンジ製のバルブ材の為、劣化して潰れて
空気漏れと鍵盤高さ(深さ)の増大を起こしていました。



他にも特徴があります。
一般的なアコーディオンは木製のボディーにセルロイドが貼ってありますが、
この楽器は金属(恐らくジュラルミン)のケースで出来ています。
一般的な物は金属のピンを刺してボディーと蛇腹を接合していますが、
この楽器は金属ボディーの為、上の写真の様に金属レバーの
固定金具で閉じられています。
因みに、表の2箇所は開閉できる金属レバーで、裏面2箇所は蝶番です。



蛇腹と本体を分離して内側から見たところです。
金属ケースに木製のリードブロックが取り付けられています。
上の端に見えているのが固定の金属レバーです。
90度に曲がった金属が回転して本体側の金具と勘合します。
この部分は空気漏れしやすく、
この画像でも根元に木工ボンドの様な物が盛ってあります。
ゴムのパッキンが貫通軸に通っていますが劣化して空気漏れを起こす為、
ユーザーか修理業者がボンドで補修したのでしょう。



蛇腹の内側に付いている、蛇腹留め機構のメカニックです。
調整できるようにネジ留めで移動できるようになっています。



蛇腹留め機構の全貌ですが、一般的な蛇腹留めのベルトを廃止して
これだけの重さのある複雑機構を内蔵したかった理由が分かりません。



鍵盤の留め方にも特徴があります。
一般的なイタリアの中級以上のアコーディオンは、
金属の軸に串刺し状にして鍵盤が固定されています。
その為、分解する時は端から順番に抜いて行く必要があります。
この楽器は根元にあるネジを半回転するとロックが外れて鍵盤が外れます。
その為、任意の位置の鍵盤を一つだけ抜くことができます。
メンテナンスや組み立ては楽ですが、コイルバネを根元に付けた鍵盤は
操作感が良くありません。
その為、一般的な中級以上のアコーディオンではこの方法を使いません。



右手の音色切り替えスイッチの調整部分も独特です。
一般的なイタリアの楽器ではネジ状の先端を持った金属棒で
スイッチと本体の可動部をリンクしています。
ネジ部分を回転する事で棒の長さを調整して開閉するシャッターの
全開、全閉状態を調整します。
この楽器では、薄い板状の金属が曲げてあり、その曲げ具合を調整して
リンクの長さを調整できるようにしてあります。
シンプルですが調整はやりにくいですね。



音色切り替えの動きを内部に伝える機構にも特徴があります。
タケノコ状になっている部分は4本の軸が同心円に太さを変えて貫通させています。
この軸の回転具合で内部のシャッターの開閉が決まります。
イタリアの一般的な楽器では、軸が4本並び、同心円にはなっていません。
作る上で同心円軸は複雑機構になりますし、この部分からの空気漏れが
このタイプの機種ではよく起きています。
回転可能な4軸同心円をきちんとシールするのは難しいと思います。



音色切り替えの為のシャッター機構ですが、これは一般的な楽器と同じです。
ハシゴ状の薄い板がスライドして開閉します。
ですが、HOHNERのこの年代の一部の機種では、この部分が分解不能になっています。
写真でも丸い点の部分はリベット留めで破壊しないと分解できません。
一般的な楽器はネジ留めなので分解清掃可能です。
このスライド部分は狭い隙間の可動部分なので、小さなゴミが入って
動きが悪くなる事があり、分解清掃の必要が出ます。
そういう時に分解不能なのは大変困ります。
以前に、ここへ油を注入された楽器が修理に来て大変困りました。
動きが悪いから油を入れたと思いますが、隙間に入ると余計に動きが重くなります。
分解できないので清掃も困難でした。
因みに、アコーディオンで油、グリス類を使う箇所は限定されています。
むやみに注油すると問題が起きます。



機構や作りの特殊な部分とは別に、年代なりの問題が出ていました。
リードを留めているロウの劣化です。
ロウが割れてリードが浮いています。
この問題は古い楽器の典型的な症状のひとつです。
古くても大丈夫な楽器もありますし、あまり古くなくてもダメな場合があります。
天然の蜜蝋を使うので品質で寿命に差が出ます。
いずれにしても古い楽器はこのリスクが必ずあります。
修理には時間と費用が多く掛かります。



リードが多数貼り付けてある木製のリードブロックの裏面です。
ブロックの底面の空気が出入りする穴の周囲にあるパッキンがずれています。
一般的なアコーディオンではブロック側ではなくて半対面のボディーの方に
革製のパッキンが貼ってあります。
この楽器は驚いた事に木製ブロックの底面は木ではなくて、
パッキンを兼ねた厚紙が使われています。
その部分がずれているのが上の状態です。



外観は驚くほど綺麗な楽器ですが、やはり年代なりの問題が出ています。
リードの錆がある程度の範囲で出ています。



リードを木枠から外すと裏面にも錆が確認できます。



きちんと錆を除去する為には木枠からリードを外す必要があります。
数が多い場合は時間と費用が多く掛かります。
錆が残っていると調律が安定しませんので楽器として問題が残ります。

HOHNERの古い中級クラス以下の楽器ではリードの錆がよく見られます。
イタリア製のリードと合金の配合が違う為ではないかと思います。



製造時の小さな問題もあります。
リードの貼ってある薄い樹脂製のリードバルブですが、
折れ目が付いています。
この状態の場合、蛇腹にかける圧力で調律が大きく変化します。


問題のリードバルブを外しました。
折り目が付いているだけではなく、幅も広くなっています。
この事から、製造時からの問題と思います。



ベースボタンの一番外側になるdimのボタンが斜めに曲がっています。
押し込むと戻らなくなります。
この部分はぶつけやすいので、曲がっている楽器を時々見ます。
低価格な楽器によく見られる、ベースメカニックが簡単に全て外せるタイプは
ボタン軸が薄い板状のスチールでできているので曲がりが起き易いです。
一般的な中級以上の機種では軸がアルミ合金製で、軸の断面は円です。

カバーの網も剥がれていますね..



ベースのボディーを外したところです。
ベース側のボディーも木ではなくて金属製です。



ご覧の様に、簡単にベースメカニックがごっそり取れるタイプです。
メンテナンス製は優れていますが、
押した感触は摩擦が多い感じがします。



ベースリードの方にも錆が出ています。



大抵、リード裏面の方が錆が多く出ています。
なので表からリード見ただけで判断すると失敗します。
まあ、殆どの場合、楽器を購入する時に中を見せてくれる事も無いと思いますが..



ベースリードのリードブロックも、底面は厚紙です。
厚紙と合成皮革の様な物が積層されています。



ベース側のリードを外したところです。
金属ボディーでできている事が良くわかります。
こちらの音色切り替えの為のスライド機構も分解不能なので、
トラブルがあると修理が困難になります。

と、数々の特殊な機構を持っている、ドイツ製の楽器です。
この年代のHOHNERの中級クラス以下では、これと同じ作りや、
共通する作りの部分がある楽器が多いです。
金属ボディー故の特殊な音は個性があって好きな人もいるかも知れませんが、
メンテナンスや耐久性などで気を遣う部分が多い楽器なので、
このタイプの中古楽器はそれなりに覚悟をして選ぶ必要があります。


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