初期のAccordina2016/02/24

とても珍しい初期のアコーディナの修理を承りました。
ご依頼主はプロの奏者です。


金属外装のスリムなアコーディナは、最初に考案されたオリジナルの
アコーディナです。


側面に A.BOREL の表示が入っています。
1950年代から製造されたアコーディナに間違いありません。


底にある蓋を外しました。
気密を保つパッキンは古くてダメになっています。
開閉するバルブのゴム部分は綺麗なので後に交換された物かも知れません。
蓋の底は二重になっていて、最初に蓋の外を息が通り、
冷却されて水分が結露した後の空気をバルブに送るという凝った作りです。
その後作成されたクラビエッタも同じ構造を持っています。


この楽器は海外オークションで購入したものらしいですが、
修復の跡が見られます。
底の蓋を留めているネジですが、本来全て同じ物の筈です。
マイナスネジの頭の丸いネジがオリジナルですが、
3本は後に替えられたプラス頭の物です。
しかも一本は木ネジみたいな物で、本体の雌ネジが心配です。


溜まった水分を抜くドレンバルブのパッキンは
2枚重ねの適当なゴム板に変えられています。
これも交換が必要です。


ボタンの動きが悪い箇所が依頼主より指摘されています。
分解して正常な箇所と比べました。
バネが変な物に変えられているかと思いましたがそれはありませんでした。
バルブへ繋がる芯の途中に縞模様が付いているので
これを研磨すれば直りそうです。


側面に並ぶリード部分ですが、驚きの状態です。
リード自体は錆もなく良い状態ですが、
本来必要のないリードバルブが貼ってあります。
アコーディオンでは蛇腹の操作により、空気の向きが入れ替わり
対抗する1対のリードの鳴らない方から無駄に空気が出ないように
する為にリードバルブを使いますが、
アコーディナは息を吹き込むだけなので反対向きのリードはありません。
なので、リードバルブも不要の筈ですが..
貼ってあるのはアコーディオン用の物です。
リードバルブが長い為、本体の一部に接触する問題も起きています。


反対面のリードにもリードバルブが貼ってありますが、
一部には硬くて厚い変な物が貼ってあります。
これでは音が出にくいですし、音程も安定しません。
リードバルブが何故貼ってあるのか意図は不明ですが、
貼ると音の余韻が減る効果はあると思います。
ですが、ボタンから指を離せばすぐに止まるので
意味は無いと思います。
調律の問題も出るので全て外すしかありません。


冒頭でとても珍しい初期のアコーディナと書きましたが、
その理由はこれです。
なんと、真鍮リードです。
量産品ではステンレスリードの筈ですので、
初期の頃の物かプロトタイプでしょうか?
元々、柔らかい音のするBORELのアコーディナですが、
真鍮リードの効果で更に柔らかくて厚みのある独特な音が出ています。
貴重な楽器ですがその後のリード折れが心配です。
交換部品はありませんし、一部だけステンレスにするとバランスが悪くなります。
リードの可動部分だけを作成して入れ替える必要が出るでしょう。


内部を清掃してパッキンも改めました。


オリジナルのアコーディナには面白い機構が付いています。
両側にあるリード列を覆うカバーが可動式になっていて
手で押さえると閉まり、手を緩めるとバネで戻って開きます。
これによりハーモニカを手のひらで覆って行うのと同じような
エフェクトが得られます。
上の写真では片側だけ指で閉めています。

アコーディナを演奏する時に本体を持つのは片手だけで
それなりに重いのでしっかりと握る必要があります。
でも、しっかり握ると蓋が閉じるので実際の演奏で
自在に開閉させるのはかなり難しそうです。
バネがかなり重くて簡単に閉まらないのであればできそうです。
現在のアコーディナではこのような機構は省略されています。


当店で販売しているMARCELのアコーディナと並べてみました。
BORELの復刻として作られただけに、デザインはよく似ていますが、
BORELの方がコンパクトです。
(ボタンの色は全て白も作成可能です)


違う角度から見てもデザインの共通性が見られます。
吹き口の位置や形状も似ています。
楽器の厚さはBORELの方が薄いですね。
とても珍しい初期のアコーディナですが、
状態は良いのでまだまだ現役で行けそうです。