鍵盤張り付き現象の修理2020/02/02

購入から15年程度経ち、鍵盤の動作に不具合が出てきた楽器の修理を承りました。
私のよく知る人の楽器です。


鍵盤の不具合ですが調律もかなり狂いが出てきているので
まずは内部の点検を行いました。
この楽器はチャンバーのあるアコーディオンですので、
木枠に取り付けられたリードの向きが90度違う物が2つずつ入っています。
画像の左側はチャンバーのLとMで、右側はチャンバー無しのMとHのリードです。



購入から15年、調律も何もしていないです。
チャンバーのLリードのリードバルブが重力で反っています。
チャンバーのリードは楽器を置いた時に地面と水平になるため、
Lリードの低音部分の長くて重いリードバルブが重力で開いたままになり
反り癖が付いてしまいます。

リードバルブは重力の影響がない場合でも演奏により開閉するので
使っていれば段々と反りが出てきます。
経年で反りが出たり、開く時の抵抗が下がると音は良く鳴るようになります。
楽器を使って行くと鳴りが良くなるというのは殆どの場合、
リードバルブが開きやすくなる為です。
偶に、リード自体が変化した結果という人がいますがそれはありません。
金属が変化して鳴りが良くなる程の変化があれば
調律が大きく変わってしまう筈ですので、リード自体の慣らしが進むとか
金属疲労による変化という事はあり得ません。

リードバルブが開きやすくなる(反りが出始める)と鳴りが良くなるのであれば
好都合と考えられますが、実際にはそれによる弊害が出るので簡単ではありません。
具体的には調律のズレと蛇腹開閉時のノイズ発生や弱い音での異音などです。
ですので定期的に調律を行い、同時にリードバルブも修正を行います。
内部の清掃などもできるので定期的な調律は必要です。
この楽器のように15年調律していなくても演奏はできますが
気持ちよく使う為には必用な作業です。

調律はリードを削りますので消耗があります。
ですが、経年で音程を修正するような調律であれば削る量は極僅かです。
ですので、何度も調律しても問題ありません。
リードの消耗を気にして調律を控えるような必要は全くありません。
ただし、調律が不慣れな人(端的にに言うと下手な人..)の場合、
リードを削る量が増えますし、リードを変形させてしまい修正する事で
金属疲労がおきてリードを傷めてしまいますので要注意です。



鍵盤部分の不具合を修理する為にグリルカバーを取りました。
15年何もしていないので埃が沢山あります。
時々、グリルカバーを外して演奏する人がいますが
埃や異物を楽器内に引き込む可能性が高くなるので行わない方が良いです。
実際、カバーを外しても音の変化は僅かですし、
何かにぶつけて内部を損傷する機会を増やしますし、
僅かですが調律も変化してしまいます。



演奏する時は鍵盤の高音部が下になるような姿勢になるため、
鍵盤の最高音の下に埃が溜まります。



鍵盤を全て取り外しました。
鍵盤の下の部分にも最高音のところに埃が滞積しています。



15年分の埃を綺麗に除去しました。
画像の木の部分の上の扁平な長方形の空間がチャンバーです。
チャンバーのあるアコーディオンは、こんな風な空間が
リードの空気の出入り口に設けられています。
意外と狭いという感じではないでしょうか?
チャンバーは音を共鳴させて響かせるという人もいますが、
実際、これを見るとバイオリンやギターのような共鳴を期待する事はできません。
共鳴する音域もかなり狭いと思いますし、
どちらかというと音の出口を曲げて高音成分を遮断しているだけという方が
合っていると思います。



チャンバーのあるアコーディオンは、リードの数は同じで鍵盤の数も同じなのに
とても高価です。
何故でしょう?
それは組み立て、調整が難しく手間が掛かる為です。

チャンバーの楽器には鍵盤の先のアームが2つに分かれ、
空気の出入りを止めるバルブがそれぞれに付いています。
画像のようにY字型になった先にバルブが2つあります。



楽器に鍵盤が付いている状態で見るとこんな感じです。
下段はチャンバーの中にバルブがあり、上段通常の楽器のように
オープンな空間にバルブが出ます。

このバルブはリードへ繋がる四角い2つの穴のある面に対して
完璧に平行でなければ空気が漏れてしまいます。
また、2つあるバルブは1つの鍵盤に繋がっていますので
両方が完璧に同時に面に着地しないと
遅れて着地する方は隙間が空いて空気が漏れてしまいます。
なのでバルブ面を完璧に平行に保ちつつ、両者が同時に面に当たるように
調整しながら組み立てて行く必用があります。

更に、バルブの当たる位置により、鍵盤の高さも変化しますので、
鍵盤の高さを他の鍵盤と同じにしつつ、鍵盤の深さを適正にしつつ、
2つあるバルブの着地を同時にしつつ、バルブ面を平行に着地させる、
という沢山の事を同時に実現するように組み立てる必要があります。
これがとても大変なのでチャンバーの楽器は高額になります。

出来の悪い楽器は蛇腹を閉じる時に影響が出ますので、
アコーディオンの空気漏れは蛇腹を閉じる方向でテストします。
よく蛇腹が段々開いて行く..という不具合がありますが
これはバルブの良し悪しを判断できていませんので、
空気漏れをきちんと判断するには閉じる方もチェックする必要があります。



さて、今回の不具合ですが、鍵盤のバルブの皮から何か粘着性のある物が出てきて
バルブが張り付いてしまう現象です。
鍵盤を押そうとすると抵抗があり押す力を増して行くと突然、
コクンという感触と共に鍵盤が下がるという感じです。
これは時々ある不具合ですが、意外と新しい楽器でも起きる時があります。
一度、鍵盤を押してしまえば2回目からは普通に押せてしまうので
そのまま使っている人も多い気がします。
暫く放置すると再び張り付いて鍵盤を押すのに力が必要となります。
このままでは弾き辛いので修理が必用です。

この原因はハッキリ分かっていませんが、皮を貼る時の接着剤の成分が
皮を通過して染み出て来る説、皮自体から何か粘着成分が出てくる説などありますが
本当のところは分かりません。
比較的早い時期に出る場合と10年以上経過してから出る場合があります。
今回は15年なので後者ですね。

画像の右のバルブの皮表面にシミが出ている部分が粘着の不具合です。
左のバルブは正常です。
今回、不良部分は全体の1/4程度の数ですのでまだ良かったです。
最悪の場合、全ての鍵盤、更にベースのバルブにまで不具合が出る時があります。
そうなると全ての皮を張り替えるので大変なことになります。
先のバルブの調整で説明したとおり、バルブは完全に平行で当たっている必用があり
高さが変わると調整が狂うので張り替える時は調整も同時に行う必要が出てきます。
特にチャンバーの楽器はシビアですので大変な作業になります。



背負いベルトですが、金具と接する部分が消耗しています。
これも15年替えていないという事なので交換です。
ベルトは切れると演奏不可になりますし、楽器を落として壊す原因になるので
早めに交換する事をお勧めいたします。



左手のバンドですが、これは見た目にも傷んでいませんし、
切れる心配もないので通常なら交換しませんが、
このバンドは力を入れると僅かに伸びる癖がある物なので
新しい物に交換する事にしました。
アコーディオンのベルト類(背負いベルト、ベースのバンド)は伸縮性があると
蛇腹に加えた圧力が逃げるので、演奏で急峻な変化を付けても
マイルドになってしまい音のアタックが弱まります。
柔らかいベルトは当たりが良くて気持ちよい感じがしますが
良い演奏の妨げになりますので全くお勧めしません。
ちょっと引っ張ってみて伸びる感触があるベルトは硬い物に交換しましょう。
蛇腹のコントロールがダイレクトに音に出て良い感じになります。

今回は鍵盤の修理とベルトの交換だけを先に行いましたが、
日を改めて全体の調律を行うことに決めていただきました。
15年経過ですから本当なら2、3回はやっていてもおかしくありません。
ピアノのように毎年の必要はありません。


日本製ビンテージ32020/02/09

日本製の60~70年前のアコーディオンの修理を行っています。
最初に発音に関する修復を行いました。
前回の記事はこちらです。




今回は右手側の空気の制御部分、バルブを含めた鍵盤の修復です。
鍵盤の高さが大きくばらついています。



鍵盤の高さが大きく変化している場合、原因はバルブに使われているフェルトが
虫害で食われていたり、取れて無くなった事で高さが変わるか、
鍵盤部に力が加わってアームが変形した場合です。
機械的な損傷の場合、高さの変化は一部に留まる場合が多いですが
今回は平均的にばらつきがあります。
ですが、この楽器にはバルブにフェルトが無く皮しか貼ってありませんので
フェルトや皮の損失で高さが変化した訳でもなさそうです。

いずれにしても鍵盤とバルブの修復を行い高さと深さを適正にする必要があります。
皮は古くなって硬化や段付きがあるので全て交換します。




鍵盤を取り外すには軸になっている心棒を抜き取る必要があります。
通常、白鍵と黒鍵で軸の取り付け位置が変えてあるため心棒は2本ありますが
この楽器は古い設計の為、全ての鍵盤を1本の軸で留めています。
このタイプは修復が面倒になります。

古い楽器の場合、心棒が固着していて抜けない場合があり、
心棒が細くて弱い物もあるので心棒を抜くのはとても気を遣う作業です。
これが抜けなかった場合、楽器を破壊する以外に鍵盤を外す手はありません。
幸い、今回は比較的楽に心棒が動きました。



心棒を抜いて鍵盤を全て取り外しました。
鍵盤の下には埃が沢山堆積していますがこの楽器はさほどでもありません。



演奏姿勢では楽器の下部となる高音鍵盤の下に埃が集まっています。
心棒には錆が出ています。



白鍵の先端が当たる部分に緩衝材としての皮が貼ってあります。
これも硬くなっているので交換です。
近年の楽器ではフェルトが貼ってあります。



バルブが当たる面は何故か茶色です。
ここはアルミニウム合金の板の場合が多く、とても古い楽器では木です。
この楽器は茶色ですがアルミニウムに色が塗ってある物でした。
位置決めの為のケガキ線は塗装を引っ掻いて書かれたものです。



黒鍵の端には鍵盤を押し切った時の当たりを和らげてノイズが
出ないようにする為に緩衝材が貼ってあります。
フェルトが貼ってある場合が多いですがこの楽器は木綿のようです。
一部、はがれてなくなっている箇所もあります。



独特な形状をしたバルブです。
空気を止める為の皮が1枚貼ってあります。
近年の楽器では閉じた時のノイズを減らす為にフェルトが重ねて貼ってあります。



バルブと鍵盤から延びるアームの接合部は白くて硬い何かで接着してあります。
修復するには一旦、ここは分離して綺麗に接着剤を取り除く必要があります。
簡単に外せると良いのですが..

近年の楽器ではロウで固定してありますので、溶融する事で
分離したり位置を変更する事が容易です。



鍵盤を外してみると鍵盤表面の樹脂と下部の木が剥がれて
樹脂部分が反っている物が多数見つかりました。
鍵盤の高さが大きくばらついている理由はこれでした。



鍵盤の樹脂部を剥がしてみると木からヤニが出て樹脂部品を
押し上げて剥がしたような感じがあります。
接着剤自体が劣化して剥がれている感じもあります。
いずれにしても剥がして綺麗にしたのちに再貼り付けする必要があります。



という訳で鍵盤の貼り直し作業です。
剥がして、磨いて、接着、を剥がれた鍵盤全てに実施します。
剥がれていない鍵盤もいずれ問題が出るので接着剤で補強します。
固定用のクリップを総動員していますが、鯉のぼりみたいです。



バルブとアームを分解してみました。
思ったより接着が脆くてさほど苦労せずに分離できました。
接着剤はおそらく、ニカワに石膏か粘土を混ぜた物と思います。



バルブをアームから分離して、古い皮をはがし、バルブに残った
接着剤や皮の断片を綺麗に取り去った状態です。
これを34鍵盤分行います。



34個、全てのバルブを綺麗にしました。
これだけでもかなりの時間を要します。



バルブから剥がした皮と化粧布です。



鍵盤を分解したタイミングで鍵盤の清掃、磨きも行います。
修復して組み付けた後では細かい部分を綺麗にするのが困難なので。
画像の左二つは磨いた後です。
綺麗にしなくても修復は可能ですし、機能もしますが
見た目も含めての修復を心がけています。
ただ単に修復するより時間と手間が掛かります。



バルブに新しい皮を貼り付けました。
今回は薄いフェルトも入れました。
これで鍵盤を離した時の閉じる音が小さくなります。



黒鍵の裏に貼ってある古い木綿の緩衝材をはがしました。
ここには新しいフェルトを貼ります。
実際に鍵盤を組み付けてみて鍵盤の高さ、深さを見ながら
貼り付けるフェルトを選定します。



引き抜いた鍵盤の心棒です。
かなり錆が出ています。
これは取り付ける前にピカピカに磨きます。



楽器本体に鍵盤を戻しました。
と、書くと一瞬の事ですが、実際にはバルブを取り付けて、
鍵盤の高さ、深さを調整して、最後にバルブをロウで固定するという
作業をしていきますので何時間も必要です。
時間は掛かりましたが見た目も綺麗に収まりました。



鍵盤の高さが揃って美しいです。
鍵盤の下の古い皮は赤い薄いフェルトに交換し見た目も良くなり
押し切った時の感触も良くなりました。

これで右手側の修復は完了です。
同じように左手側のバルブも貼り替えしますが、
この作業は右手側以上に困難な作業になります。



アコーディオンの梱包方法2020/02/10

少し前に宅配で送られてきた楽器の輸送による損傷の修理の事を書きました。

日本の宅配便は優秀なのできちんとした梱包であれば心配は要りません。
仮に自分で運んでも事故などあれば同じですし、保障も得られない事もあります。
という事で、アコーディオンを送る場合の梱包方法について説明させていただきます。



ハードケースがある場合はハードケースに入れます。
ハードケースが無い場合はソフトケースに入れます。
ベルトは外す方が収まりが良いでしょう。
ベルトを付けたままにする場合は楽器に金具が当たって傷が付かないように
金具部分に柔らかい物を巻いて保護します。



ケースに入れる場合、隙間に緩衝材を入れるようにします。
特に楽器の下部と角に重点的に入れます。
画像のように横に回りこむように入れて角を保護します。
ケースに隙間が無い場合は無理に入れず、後に説明しますが、
ケースの外に緩衝材を敷いて段ボール箱に入れます。



楽器の左右のスペースがある場合はその部分にも緩衝材を入れます。
緩衝材は、いわゆる「プチプチ」というやつか、発砲スチロールなどです。



楽器の厚さ方向にも空間ができる場合はケースの蓋と
楽器の隙間が埋まる程度に緩衝材を入れて楽器がケース内で
ガタガタと動かないようにします。



ハードケースよりひと回り大きい段ボール箱を用意します。
意外と見つからないかも知れませんが、無ければ箱を組み合わせて作ります。
楽器を購入した時の箱がある方は輸送用に畳んで保管しておくと良いでしょう。

楽器を送る際は画像のようにハードケースの取っ手が
上になるような向きで行います。
楽器の向きとしては、ベースの手の当たる所が床面で、鍵盤の先が天井です。
この事はとても重要なので必ず守ってください。



段ボールとハードケースの隙間に緩衝材を入れます。
やはり下部となる部分に重点的に入れます。



緩衝材をハードケースの周囲に敷き詰めて段ボール箱内で揺れないようにします。
ソフトケースで送る場合やケースなしで楽器を送る場合も
同じように下部を重点的に周囲を緩衝材で囲みます。
段ボール箱の外に緩衝材を敷いたり巻いたりするのは殆ど無意味なので
楽器の下と箱の底に入れるようにしてください。



箱の上を閉じてテープで留めます。



楽器が重いので箱の底が抜けないようにPPバンドで巻きます。
PPバンドが無い場合は丈夫な紐で縦方向に2箇所巻いて縛ります。



箱の外に壊れ物表示と、輸送時の姿勢を表示するステッカー等を貼ります。
これは宅配業者からもらう事ができます。
利用する宅配業者が使っている物以外の場合、無視される可能性もあります。
それと、箱のどの位置から見ても分かるように
全ての面へ表示する事が重要です。



更に大きく楽器であることの表示などを付け加えると尚良いです。
送り状を上面に貼って完了です。
自分で持って行くのが大変な場合は業者に連絡すれば取りに来てもらえます。
この位の梱包をすれば余程の事がない限り安全に輸送できます。
仮に何かあってもダメージは最小限で済む筈です。
業者の過失が認められれば保障も出ます。
逆にテキトウな感じで送ると何かあっても保障が受けられません。

楽器の発送先は下記の通りとなります。

〒456-0003
名古屋市熱田区波寄町4-21 津田ビル101
モンテアコーディオン
電話 052-618-8914

大きな箱や梱包材が準備できない方は連絡をいただければ
箱と梱包材を発送いたします。(送料のみご負担となります)

日本製ビンテージ42020/02/18

日本製の60~70年前のアコーディオンの修理を行っています。
発音に関する修復の後、右手側の空気の出入りに関する部分、
鍵盤部分の修復を行いました。
前回の記事はこちらです。

今回はベース側の空気の出入りに関する部分、ベースのボタン操作に関わる
機構の修復を行いました。



これはベースのリードが付いている木枠を外したところです。
一番高音のリードは直付けされているので残ったままです。
右手側と同様にリードの直下には空気が通る穴があいていて
その下には空気を止めたり、通したりを行う開閉するバルブがあります。
茶色の所はバルブの表面の皮が見えていて、白い所は皮が剥がれているところで、
空気を止められなくなっています。



ベース側のボディーをひっくり返して底板を外すと複雑な機構を持った
ベースメカニックが見えてきます。
左手を通すベースストラップは古くなって傷んだ革の周りに
木綿の布を丁寧に縫って修繕されています。
これは使えませんので新しい物に交換します。



ベースメカニックを眺めてみると、とても古い楽器の割には
埃などが堆積しておらず綺麗な状態です。
また、金属部分の錆などが出ておらず良い状態を保っています。
金属はアルミニウム、銅合金、鉄の3種類が使われていますが
日本の気候にあって、とても古い場合は、アルミや真鍮でも錆が出ても
おかしくないのですがとても綺麗な状態です。
やはり蔵での保存というのが良かったのでしょうか。



さすがに皮の部品は古くなっているので要交換です。
複雑なベースメカニックの一番底にバルブがあります。
画像の四角の木の部品がバルブです。
この部分の皮を交換するにはベースメカニックを全て取り出す必要があります。



ベースメカニックを取り出すと言っても、塊の状態で取り出せないので
部品を一つずつ取り出す事になります。
まずはベースボタンの7thからです。
この楽器は80ベースなのでdimがありませんので7thのボタンが
メカニックの一番上になりますので。

外したボタンには4つの小さな突起が付いているのが分かると思いますが、
これはとても古い楽器の特徴です。
50年以内の楽器では7thのボタンは3つの突起が付いています。
突起の数は和音の数になりますが、7thは4音構成なので、majやminの3音の
ボタンと違い、4つの突起が付いています。
ただ、4音全て鳴ると他の和音との音量バランスが変わったり、
消費空気量が変わったり、ボタンのバネの重さが変わるので
1音を省いて3音とするように変わってきました。
他にも大きな理由があり、1音省く事で他の和音のボタンと組み合わせて
別の和音とする時に応用が利く為です。
楽器によって省かれている音が違っていて、ルートだったり5度が省かれています。



これはmajとminのボタンを外したところです。
突起は3つになっています。
この後、さらにベースのボタンを外して80個のボタンを全て取り出します。
ボタンを支持している部品なども取り外します。



ボタンとそれに付随する部品を全て取り出しました。
だいぶスッキリしましたが、まだ横に走る部品が24本残っています。
なのでバルブはまだ全て見えていません。



バルブの上にある24本の棒状の部品を外しました。
これには直行する短くて細い棒が幾つも取り付けてあり、
まばらな、くし形の部品になっています。
そういえばイタリアでベースの組み立てを習った時に、
この部品の名前は聞かなかったなぁ..
現場では大抵見た目で名前を付けている感じなので「くし」とか
そんな風かも知れません。
機会があれば聞いてみよう。



ベースメカニックを全て取り出しました。
これでやっとバルブが見えるようになります。
ここまで来ると全体の重さがかなり軽くなります。



分解を進めると狭い所に虫の抜け殻が集まっていました。
衣類に穴をあける虫のものですが、さすがに生きている虫は出てきません。



バルブを横から見たところです。
薄い木でできたバルブに皮が貼ってあり、金属のアームが接着されています。
上からバネで押さえつけられていますが、スチールのバネにも錆はありません。

バルブの向こう側に変わった形のナットが2つ見えます。
ナットと言えば通常は六角形ですが古い物だと色々な形状があります。
これは日本固有の部品と思いますが、これはちょっとした萌えポイントですね..
ネジ類もプラスではなく最近は殆ど見ないマイナスの頭です。



バルブのバネの付け根にも虫の抜け殻が集合していました。
修復と同時進行で清掃もして行きます。



空気ボタンのバルブを外しました。
ベースのバルブは空気ボタンを入れると全部で25個あります。



バルブも全て取り外しました。
こうなると穴の空いた、ただの木の箱です。
重さも超軽い。



外したバルブです。
24個ありますが、バルブに付いているアームの形状は全て違いますので
組み立てる時に間違えないようにする必要があります。



外したバルブの皮のある面です。
穴の形状がクッキリと段付きになっています。
白い物は皮が剥がれて下のフェルトが見えているのかと思っていましたが、
実は白い皮でした。
この楽器のベース側のバルブにはフェルトは使われていませんでした。
これは右側も同じですが、フェルトを入れる方がバルブが閉じる時の音を
小さくする事ができます。



バルブから古い皮を剥がしました。
再利用はできません。



バルブから皮を取り、アームも取り外し、古い接着剤を取り除きました。
これでやっと新しい皮を貼る準備ができました。
書いたら一瞬ですがここまででかなりの時間を使っています。
皮を剥がしても糊と皮の一部が残るので綺麗な面を作る作業が必要です。



そして、新しい皮をバルブに貼りました。
薄いフェルトも貼ってあります。
と、料理番組みたいに出来上がって行きますが、
実際にはとても時間が掛かっています。



でも、本当に大変なのはバルブを楽器に戻す作業です。
これは右手側の時も同じです。
大変というより難しい作業です。
皮を張り替えると厚さが変わりますのでバルブの面の平行が出なくなります。
なので楽器の面に対して完璧に平行を出すように調整して
取り付けて行く必要があります。
それ以外にも調整が必要な個所があるので25個のバルブを楽器に戻すには
朝からやってもその日に終わるかどうか..という感じです。



バルブの取り付けができたら分解した時と逆の手順で部品を戻して行きます。
どの部品も同じ形ではないので元と同じ物を元の位置に戻す必要があります。
勿論、向きも同じにする必要があります。
バルブは25個、くし形の部品は24本、ボタンは80個、それ以外に
部品を支持する為の部品が幾つもあります。

元の位置に戻すだけではなく、元とバルブ高さが違ってきているので
調整をしながら戻すという途方もない作業になります。
途中の調整が悪ければ最後に全て終わった後に空気漏れが残るので
また分解してやり直す事になります。
アコーディオンの価格が安くならない理由の一つです。
この作業は低価格な楽器でも同じように必要なので
アコーディオンはエントリーモデルが他の楽器より割高になってしまいます。
これは仕方がない部分ですが、アコーディオン普及の妨げにもなっているでしょう。
だからと言って古くて整備ができていない安い中古では
アコーディオンの良さに気づく事もできず、上達の妨げにもなり、
止めていってしまう事になるので無駄な時間と費用を使う事になります。



ベースボタンを戻す作業に入りました。
やっとここまで、という感じですがこの作業も調整しながら、
また鍵盤の時と同様、清掃しながらになりますので大変です。



ベースボタンが戻りました。
後は和音のボタンを戻すだけです。



majとminのボタンも戻しました。
後は7thだけです。



ベースボタンを全て戻し、全てのメカニックを元に戻しました。
これで空気漏れもなく、きちんと操作した通りの音が出れば完了です。
問題があればまた分解となります。



「古い楽器あるある」ですが、ベースの印がCにしかありません。
このままでは使いにくいのでA♭、Eに触って分かるような印を付けます。
これでベース周りの修復が完了です。
後は細かい部分の修復と調律を行えば全て完了となります。


開かずのクラビエッタ2020/02/22

クラビエッタ(Clavietta,クラヴィエッタ)という
鍵盤ハーモニカの修理を承りました。
クラビエッタは60年ほど以前にイタリアで作製されていた楽器ですが
今はもう作っていません。
ですが2年に一度くらい、修理のご依頼を頂きます。



鍵盤ハーモニカと同じ原理で発音し、形状も似ていますが
最大の特徴は吹き込んだ空気が通る順番が逆になっているところです。
これはクラビエッタと兄弟楽器となるアコーディナ(Accordina,アコルディーナ)
と同じ構造ですが、吹き込んだ空気は閉鎖された空間に入り、
鍵盤を押す事で開いたバルブから空気が抜けた後にリードへ抜けて発音します。
なのでリードは圧力のかからないケースの外に配置されます。
これにより、音が良く出る、調律が容易、リードが乾燥しやすいなどの
特徴があります。

一般的な鍵盤ハーモニカでは先にリードが来てリードの後にあるバルブが開いて
空気が抜けて音が出ます。
なのでリードはケースの内側になる為、音の抜けが悪く、ケースを開けないと
リードに触れないため調律が大変ですし、乾燥しにくい閉鎖空間に置かれるという
点でクラビエッタやアコーディナよりもデメリットが多いです。
ですが、殆どの鍵盤ハーモニカ類似楽器ではこの順路になっています。
何か利点があるのかも知れませんがちょっと考えてみても思いつきません。



修理のご依頼内容は、空気を吹き込んだ後のバルブ手前の空間を作っている蓋を
留めているネジが折れてしまい、閉める事ができないという事です。
確認してみると4つのネジで蓋が留まっていて、うち1つは折れていました。
2つは緩めて外す事ができました。
残り1つはネジが空回りしていて幾ら回しても外せない状態です。
画像の矢印部分がネジの頭です。



取り外したネジです。
折れたネジは画像の矢印の物です。
特殊な形状をした物で、同じ物は手に入りません。
また、折れて中に残ったネジ部分は錆びていて外す事はできませんでした。

4本中、1本は空回りして本体から外す事ができないので、
このままでは蓋を開けられません。
これでは修理も不能ですし、折れたネジもあるので閉めて
楽器を使う事もできません。
蓋を開けなければ修理不能楽器として廃棄するしか道はありませんので、
なんとしてでもネジを外して蓋を開ける必用があります。
折れたネジの修理は中を見てからでしか方法を考えられません。



という訳で、空回りして外せないネジは仕方なく破壊しました。
取り敢えず、蓋は開きました。
これは折れたネジの本体側の根元です。
錆びがでていますので、これが原因でネジが固着し、
外そうとして強く回した時に折れたのでしょう。



こちらは破壊したネジの本体側の残りです。
やはりこちらも錆びで固着していて、外そうとして強く回した時に
本体のナットで留まっている方が回り始めて、一緒に回るので外せなくなりました。



こちらは正常に外す事ができたネジの本体側です。
やはり少し錆びが出ています。
さて、残ったネジ部分は使えそうにないですし、蓋をきちんと留められなければ
空気が漏れるのでしっかりと留められる方法を考えなくてはいけません。
修理というより改造になりそうです。

以前に修理したブログ記事を見ると、この部分のネジは今回と違う形状で
本体側は穴しかないタイプがある事が分かりました。
恐らく、錆びによるネジ固着の問題があり、後に改良されたのでしょう。



今回、折れてしまったネジは錆びで固着していたので仕方なかったと思いますが
元々、あまり太くありませんので無理をすると折れます。
また、バルブを留めている特殊な形状のネジは更に細く2ミリもありません。
よくクラビエッタを自分で修理しようとして、このネジを折ってしまう方がいます。
特殊な物で手に入りませんので不必要に自分で分解しないようにしてください。

蓋を開けて分かりましたがケースのパッキンは古くなって交換が必要な状態です。
恐らく、空気漏れがかなり酷くなっていたと思います。
それから、バルブの方もだいぶ劣化してきているので
機会を見て交換する方が良さそうです。
取り敢えず、今回はパッキンの交換をする事にしました。



蓋のネジ部分は色々と考えてなんとか閉じられるように修復しました。
古いパッキンも交換して空気漏れが殆ど無い状態になりました。
これで再び、この楽器を使って行けるようになります。