開かずのクラビエッタ2020/02/22

クラビエッタ(Clavietta,クラヴィエッタ)という
鍵盤ハーモニカの修理を承りました。
クラビエッタは60年ほど以前にイタリアで作製されていた楽器ですが
今はもう作っていません。
ですが2年に一度くらい、修理のご依頼を頂きます。



鍵盤ハーモニカと同じ原理で発音し、形状も似ていますが
最大の特徴は吹き込んだ空気が通る順番が逆になっているところです。
これはクラビエッタと兄弟楽器となるアコーディナ(Accordina,アコルディーナ)
と同じ構造ですが、吹き込んだ空気は閉鎖された空間に入り、
鍵盤を押す事で開いたバルブから空気が抜けた後にリードへ抜けて発音します。
なのでリードは圧力のかからないケースの外に配置されます。
これにより、音が良く出る、調律が容易、リードが乾燥しやすいなどの
特徴があります。

一般的な鍵盤ハーモニカでは先にリードが来てリードの後にあるバルブが開いて
空気が抜けて音が出ます。
なのでリードはケースの内側になる為、音の抜けが悪く、ケースを開けないと
リードに触れないため調律が大変ですし、乾燥しにくい閉鎖空間に置かれるという
点でクラビエッタやアコーディナよりもデメリットが多いです。
ですが、殆どの鍵盤ハーモニカ類似楽器ではこの順路になっています。
何か利点があるのかも知れませんがちょっと考えてみても思いつきません。



修理のご依頼内容は、空気を吹き込んだ後のバルブ手前の空間を作っている蓋を
留めているネジが折れてしまい、閉める事ができないという事です。
確認してみると4つのネジで蓋が留まっていて、うち1つは折れていました。
2つは緩めて外す事ができました。
残り1つはネジが空回りしていて幾ら回しても外せない状態です。
画像の矢印部分がネジの頭です。



取り外したネジです。
折れたネジは画像の矢印の物です。
特殊な形状をした物で、同じ物は手に入りません。
また、折れて中に残ったネジ部分は錆びていて外す事はできませんでした。

4本中、1本は空回りして本体から外す事ができないので、
このままでは蓋を開けられません。
これでは修理も不能ですし、折れたネジもあるので閉めて
楽器を使う事もできません。
蓋を開けなければ修理不能楽器として廃棄するしか道はありませんので、
なんとしてでもネジを外して蓋を開ける必用があります。
折れたネジの修理は中を見てからでしか方法を考えられません。



という訳で、空回りして外せないネジは仕方なく破壊しました。
取り敢えず、蓋は開きました。
これは折れたネジの本体側の根元です。
錆びがでていますので、これが原因でネジが固着し、
外そうとして強く回した時に折れたのでしょう。



こちらは破壊したネジの本体側の残りです。
やはりこちらも錆びで固着していて、外そうとして強く回した時に
本体のナットで留まっている方が回り始めて、一緒に回るので外せなくなりました。



こちらは正常に外す事ができたネジの本体側です。
やはり少し錆びが出ています。
さて、残ったネジ部分は使えそうにないですし、蓋をきちんと留められなければ
空気が漏れるのでしっかりと留められる方法を考えなくてはいけません。
修理というより改造になりそうです。

以前に修理したブログ記事を見ると、この部分のネジは今回と違う形状で
本体側は穴しかないタイプがある事が分かりました。
恐らく、錆びによるネジ固着の問題があり、後に改良されたのでしょう。



今回、折れてしまったネジは錆びで固着していたので仕方なかったと思いますが
元々、あまり太くありませんので無理をすると折れます。
また、バルブを留めている特殊な形状のネジは更に細く2ミリもありません。
よくクラビエッタを自分で修理しようとして、このネジを折ってしまう方がいます。
特殊な物で手に入りませんので不必要に自分で分解しないようにしてください。

蓋を開けて分かりましたがケースのパッキンは古くなって交換が必要な状態です。
恐らく、空気漏れがかなり酷くなっていたと思います。
それから、バルブの方もだいぶ劣化してきているので
機会を見て交換する方が良さそうです。
取り敢えず、今回はパッキンの交換をする事にしました。



蓋のネジ部分は色々と考えてなんとか閉じられるように修復しました。
古いパッキンも交換して空気漏れが殆ど無い状態になりました。
これで再び、この楽器を使って行けるようになります。