鍵盤の修理2021/01/27

楽器店経由で高級アコーディオンの修理を承りました。
主な症状は鍵盤の高さの不揃いと鍵盤の作動不良です。


指摘箇所は矢印のある鍵盤です。
高さが少し高くなっていて弾きづらいということです。
確かに他より1ミリ程度高くなっています。
恐らく、楽器を上げ下ろしする時や、ケースへの出し入れのときに
指やベルトの一部で持ち上げてしまったのでしょう。
でも良く見ると全体に鍵盤の高さが高い感じがします。
大体、7~8ミリ程度の高さがあります。


楽器を上から離れて見ると鍵盤の高さが低音から高音に向かって
段々と高くなっていることに気付きました。
これは指摘されていませんので使っている方は気付いていないと思います。


鍵盤の低音付近ですが、高さが5~6ミリ程度で、これは正常な値です。
高音側に向かって通常より高くなっているということですね。
鍵盤がこのようになる場合、大きな問題がある場合が多いです。


点検してみると鍵盤の高音側のフレームというかボディーそのものが
割れている事が分かりました。
割れているというより木の色が変わっている境目が剥がれている感じなので
接着部分が破壊したのか剥がれたのか?というところです。

この部分が割れて鍵盤に問題が出る事例は時々見られます。
アコーディオンのボディーの中でも細くて弱い部分なりますので。
この部分が割れると鍵盤の数だけ付いているバネにボディーが押されて
ボディーが鍵盤と反対向きに押されて歪む事で鍵盤が全体に高くなります。
つまり、鍵盤が高くなったのではなくて、下のボディーが下がったということです。
片側が割れた時は今回のように傾斜が付きますが、
両側が割れると全体が高くなります。

一般的にこの部分はもっと厚くできており、接着だけでなく、ネジ留めや
金具の補強がしてあります。
この楽器は軽量をアピールポイントの一つとしていますが構造的に弱さを感じます。
一般的な重さより軽い楽器では強度を犠牲にしている部分がありますので
使う時には気をつける必要があります。


こちらは低音側の割れていない方の同じ場所です。
木の色が変わっている境目に隙間はありません。
ですが、とても薄いですし、ネジも金具も無い構造です。


こちらは当店にある別のメーカーの同じような仕様の楽器です。
(41鍵盤、HMML、ダブルチャンバー、木目)
ただし、こちらにはマスターパームスイッチがあります。

鍵盤の幅と横のボディーの厚みの比率を比較してみれば構造の違いが分かります。
こちらもネジや金具の補強はありませんが、かなり厚い部材です。
因みに、この楽器の重さ(実測値)は11.6kgでした。(カタログ値は11.5kg)
同じ条件で修理の楽器を測定すると11.2kgでした。(カタログ値は10.8kg)
400gの差をどう考えるか?ですね。
強度などを取るか、少しでも軽い事を重視するか..
マスタースイッチの分を考えると本体部分の重さの差はスマホ1台分程度です。

カタログ値との乖離はどのメーカーにもありますが、
その程度でメーカーの誠実さが測り知れます。
今回の値は私が過去に計測して知る範囲では特異な事例ではありません。
メーカーは天然素材によるバラつきという事で責任回避をしていますが、
いつも実際より軽めに表記するメーカーがあるということです。
カタログやメーカーサイトの表示を信じてはいけません。
また、そういうメーカー発表値で話をしてくる営業も信用してはいけません。
皆さんも一度、自分の楽器を測ってみてカタログと比べてみてください。
当店では必ず、実測での表示をしています。


さて、この楽器には別の問題もありました。
鍵盤を操作すると異音と変な手応えがあるというものです。(計2箇所)
原因は鍵盤を押すと持ち上がって開くバルブの横が隣の鍵盤のバルブへの
アームと接触していることでした。
例のボディーの割れによる歪みが原因かと思いましたが
ボディーを修理しても症状が残ってしまいました。
恐らく、最初からあった不具合ではないかと思います。
指摘の不具合とボディーの割れは全て修理してお客様へお返しし、
後に何も問題はないという連絡を頂きました。