リードの位置ズレ2021/05/07

フランスの有名メーカーのボタン式アコーディオンの調律を行っています。

これは右手側のリードの木枠です。
空気が出入りする穴が1音に1つずつ空けてあります。
この穴の幅は11mm程度です。


これは本体側の木枠が接する部分で、空気が漏れないように
スウェード革が貼ってあります。
こちらには木枠に対応した穴が空いていて、幅は8mm程度です。
木枠が多少ずれても必要な面積が確保できるように
木枠側は11ミリと少し大きくなっています。

スウェードの面を良く見ると木枠の穴の痕が残っていて、
かなりのズレがある事が分かりました。
木枠の穴の痕に11mmの枠を書いてみると実際には、
6mm程度しか有効になっていない事が分かります。
これは25%のロスがある事になります。
木枠の位置を調整してもこれ以上、位置を合わせることは不可能でした。
これは新品の時からある問題ですが、この状態でも音は鳴りますので
不良扱いにはならなかったのでしょう。
ですが、25%のロスは無視できません。
このような空気の通り道にロスがあると音量の減少や、大きな音を出した時の
ピッチの低下、他の音程との音量差などの問題が出ます。
このような事は有名メーカーの高価な楽器でも普通にあります。
当店で販売する楽器は全て修正してお渡ししています。
また、全体の調律を行う楽器でも問題があれば修正しています。


この楽器も修正を行いました。
これにより調律も変わってしまいますが、
どのみち全体の調律を行うので問題はありません。
実際にはどの程度、演奏上の影響があるのかは不明ですが
やはり、その楽器の能力を最大に引き出す方が気持ちが良いです。
輸入してそのままの楽器は不良品と判断しない程度の問題は必ずあります。


この楽器ですが、ベースメカニックの点検と清掃の為にベースの蓋を外しました。
すると、ボタンの裏面の脇のあたりに鎖のような部品が見えました。
こんな所に鎖があるなんて、さすがフランスの楽器、イタリアとは違う構造か?
と思って良く見ると、なんと!乾燥したムカデでした。
取り出して置いて撮影しましたが、虫が苦手な方は画像を拡大しないでください。
最初は黄色の矢印の先の奥の方にありました。
ベースメカニックのある部分には虫が入る事がよくあります。
衣類を食べる虫の抜け殻、くもの巣、ゴキブリの卵等々..
生きたクモや蜂の幼虫(とっくり蜂の小さな巣)が出てきたこともあります。

アコーディオンも長く使っていれば空気の出入りによる埃が溜まったり、
色々な物が楽器に入り込みます。
当店では調律の際に内部の清掃を行い、埃や異物を除去します。
定期的な調律で音も中身もリフレッシュする事をお勧めいたします。

内蔵マイク除去2021/05/14

古いアコーディオンの内蔵マイクを除去して欲しいというご依頼を承りました。


グリルカバーの裏面には大きなマイクが3つ付いています。
その他、2つのボリュームと1つのロータリースイッチ、小さな回路基盤などあります。
ボリュームとロータリースイッチは除去するとカバーに穴が残るので今回は
ツマミと共に残すことになりました。
穴を塞ぐ加工もできますが費用が多く掛かります。


蛇腹内に伸縮可能な配線があります。
これも取り外します。


ベース側にマイクが1つ、スポンジに囲まれて取り付けられています。
勿論、これも外します。


取り外した部品です。
それなりに重さがあるので楽器が少し軽くなります。
使わない物を残しておいてもトラブルの原因になるので外す判断は正しいでしょう。
中にはこのようなマイクを使いたいと思って残す人や、わざわざマイク付きを
選んで楽器を購入する人もいるかも知れません。
ですが、それは悪い選択です。


取り外したマイクですが直径が45ミリ程度、厚さが6、7ミリ、そして軽いです。
これは間違いなく、クリスタルマイクという種類のマイクです。
今はほぼ絶滅していて、このような物が使われていたのは50年以上前です。
こういうマイクが付いているのは楽器の年代も大体分かります。

クリスタルマイクは元々、周波数帯域が狭いので楽器用としては不適です。
内部にあるロッシェル塩という圧電効果のある結晶が湿度に弱く、
経年で劣化していて、たとえ使えたとしても良い音は望めません。
このようなマイクがある楽器をオークションサイトなどで
マイク付きアコーディオンなどと標記して付加価値を高めるような事を
している事がありますが、使えたとしても「使えない物」なので
そういう中古楽器に飛びつかないようにしましょう。
恐らく知識がないだけで悪意は無いのだと思いますが..

また、既に内蔵されている楽器をお持ちの場合は除去をお勧めします。
内蔵マイクが必要という事であれば現代の技術でアコーディオン用として
設計された内蔵マイクがありますのでそういう物を利用すると良いです。
古いクリスタルマイクよりずっと良い音でノイズも少なく、安定して集音できます。
当店ではイタリア製のアコーディオンマイクの取り付けを行っています。
詳しくは下記をご覧ください。

バンドネオンの修復122021/05/15

バンドネオンの修復を行っています。
前回の記事です操作系から発音系に至るまでの修復を完了しました。


あれから調律を行っていました。
そして右手側が完了しました。
バンドネオンの調律はアコーディオンと比較して大変な部分が多いです。
調律そのものはリードを削って行うので差はありませんが、
その構造やリードの配置の違いからバンドネオンの方がかなり大変になります。

バンドネオンはオクターブ違いの同音が鳴ります。
アコーディオンで言うところのMLです。
ですが、アコーディオンのようにスイッチがないので調律する場合は
片方を鳴らないようにする手間が必要です。
リードの取り付け方向から来る作業のしにくさもあります。
最も大変なのは、コンサーティーナでもそうですが、
上の画像のように調律の為に分解して音を出す時と、
下の画像のように楽器として使う状態の時にピッチが変化する事です。
規則性がなく、変化する量、変化する方向もバラバラ。
一々、蓋をして確かめて、また蓋を取って、を繰り返すことになります。
4箇所にあるネジを締める、締めないでも変化します。
これをボタンの数の4倍あるリードで調整する必要があります。


右手が終わったので後は左手側の調律を終えれば完了です。
もうひと踏んばり!

Cooperfisa入荷2021/05/17

イタリアCooperfisaから鍵盤式アコーディオンが入荷しました。

白いボディーにライトブルーとシルバーを基調とした装飾が入った美しい楽器です。
画像では伝わらない程のとても美しい楽器で、店頭に並べると誰もが反応します。
よく聞かれたのは「アナ雪」のイメージという事です。
これでアナ雪のコスプレしてLet it goを演奏したら最高でしょう。
個人的には初音ミクでもいけるのでは?と思います。


鍵盤はパール仕様で、黒鍵とスイッチの一部はパールのライトブルーです。
ライトブルーですが僅かにグリーンが入った絶妙な色合いです。
グリルカバーはライトブルーとシルバーのペイントと、ラインストーンによる
装飾が入っています。
カバーの内側には銀線入りのライトブルーの網が張ってあります。


表の部分はメーカーロゴとその両脇に花柄の装飾があります。
この部分もラインストーンが入っています。


ベース側はItaliaの文字と花柄の装飾があり、ベースボタンは黒鍵と同じ
パールのライトブルー樹脂です。
蛇腹の内側もライトブルーの布が使われています。


音はCooperfisaらしい力強い音です。
リードはハンドメイドタイプが使われています。
CooperfisaはPerla、Diamante、Super Cesare、の3段階でモデルのクラス分けが
されていますが、この機種は中間グレードのDiamanteです。
下位グレードのPerlaが標準モデルなので中間グレードと言っても
十分な性能を持っています。

ちなみに、3段階のグレードは楽器の外観では判別できず、また、モデル名などは
楽器の外にも中にも書いてありませんので、中古など販売している場合、
グレードが表記されていない物は注意が必要です。
言ってみれば意図的にグレードを偽る事もできます。
日本では当店だけが正規輸入代理店ですので、
ルートが怪しい物は型番もどうなの?という感じでしょうか。


ところで、楽器のケースの中に綺麗な小さな枕が緩衝材として入っていました。
随分綺麗な緩衝材だな..と思って取り出すと、ずっしり重い!
感触は、そば殻の枕ですがもっと重い。
イタリアではこんな枕を使うのか?と思いましたが..


付いていた札を見て理解しました。
これはイタリアの高級米、Carnaroliでした。
CooperfisaのあるVercelliはお米どころなのです。
私がVercelliに滞在していた時も6月になると日本のように湿度が高めで
蚊も出てきましたが、郊外には水田が沢山ありました。
滞在中に「お米のお祭り」もありました。

思いもよらぬCooperfisaからの贈り物を頂きました。
Carnaroliはリゾットに適したお米なので、これはリゾットを作らないといけません。

バンドネオンの修復 完了2021/05/18

バンドネオンの修復を行っています。
前回の記事では右手側の調律が完了したところまでです。

そしてやっと、左手側の調律も完了し、仕上げの作業も完了しました。
下記リンクは、この楽器をお預かりした時の記事です。


左手側の調律を完了しました。
右手側よりも幾分楽にできますが、蓋の開閉やネジ締めでピッチがずれるのは
右手側と同様です。


機能と発音に関する修復が完了したので仕上げの作業に入ります。
主に外観に関する作業です。
上の画像は左手側のカバー側面に空いた円弧状の穴ですが、
網がめくれていますので修理します。


カバー部分をはずしました。
バンドネオンの左手側には開口部の上に木製のカバーが付いており、
アコーディオンで言うところのチャンバーのような役目をしています。
殆ど覆われていますが一部、開口していてその部分にある網がめくれています。
黄色の矢印のところです。


網を張り直しカバーを元に戻しました。
新品の網に張り直すこともできますが、この楽器は楽器自体に意味があるので
機能上問題がない部分はオリジナルを残します。


空気バルブを操作するレバーが掛かる部分ですが、
革のパーツが劣化しているので交換する事にしました。


これは同じ部分の内側ですが、こちらには空気漏れを止める革のパーツが付いています。
こちらの革は綺麗ですが穴が広がって空気が漏れているので併せて交換します。


古い革の部品を外しました。


新しく革パーツを作りました。


作製した革パーツを元通りに取り付けました。(黄色矢印のところ)
画像は内側から見たところです。
空気レバーが繋がるワイヤーの先には紐が付けてあり、滑車で90度向きを変え、
大きな空気バルブの先に繋がっています。
空気バルブもメンテナンスのために外そうと思いましたが、ネジ留めだけではなく
接着してあるので分解するのは諦めました。(赤矢印部分)
機能的に問題があれば分解しますが、接着を取ればバルブ革も張替えになりますので。


バルブは外さずにバルブ面の清掃を行う事にしました。
これは清掃前の画像です。
バックスキンのバルブ材が貼ってありますが、中央のバルブとして
機能していない部分には飾りの赤い紙が貼ってあります。
埃とカビのようなものが付いているので清掃しました。


空気バルブを表から見たところです。
バルブの開口部からは内側に貼ってある飾り紙が見えるようになっています。
この部分を清掃したので外から見える部分が綺麗になりました。


本体表面は塗装仕上げですが、塗装にヒビが入っています。
研磨は止めて表面を拭き掃除する事にしました。
ちょっと拭いてみると茶色い汚れが多量に付きます。
これはタバコが原因でしょうか?
全面、水拭きする事にしました。
何度か拭くと艶がでてきました。
塗装剥がれてくる兆候はありませんし、ヒビも均一に細かく入っているので
これはこれで味わいのある模様に見えてきました。


手を通すストラップもそれなりに劣化していますが、使える範囲なので
今回は敢えて残すことにしました。


革ストラップも洗浄すると綺麗になります。


本体の角の部分には金属製のモールが付いています。
茶色に変色(赤矢印)しているので磨くことにしました。
磨くと綺麗な金属光沢が出ます。(黄色矢印)


ストラップの台座部分の金属カバーも艶がなくなっています。


磨けば鏡のようになります。
ネジの錆も落としました。


外観の整備も完了し、これで全ての修復が終わりました。
とても時間が掛かりましたが良い経験になりました。


取り外した革の部品です。
後は持ち主にお返しするのみです。
長い期間、使われる時を待っていた楽器と思います。
故人の遺志を継いで長く使われて行くことでしょう。