クリスタルマイク2021/06/29

ボタン式アコーディオンの修理、調律を行っています。
先日書いた右のレジスター修理をした楽器です。


ベースリードのロウ留めの蝋が経年劣化している為に全て
リードを取り外して施工し直す必要がありました。

ロウ留めをやり直して新品のようになりました。


修理している時、ベース側の本体の向きを変えるとコロコロと
何かが中で転がっている音がする事に気付きました。
蓋をあけてみると、中にマイクが2つ仕込まれていて、
そのうちの一つが外れて動き回っている事が分かりました。


壊れている可能性も高いですし、性能的に使える物ではないので取り出しました。
裏面には黒い粘度のような物、恐らくブチルゴムが付いていて
これでマイクを貼り付けていたようです。


ベース内部ではフェルト部品の剥がれも見つかったので修理しました。
古い楽器は経年で劣化する部分が出てきますが、
代表的な物は、革、ロウ、接着剤です。
接着剤は多くの場所で使われていますが、天然の膠(ニカワ)が使われている所は
案外長持ちですが、合成接着剤は経年劣化で多くの問題を生みます。
その為に修理でとても多くの費用が掛かる古い楽器もあります。


取り出したマイクです。
直径4センチほどで軽量です。
クリスタルマイクと思われます。
クリスタルマイクは50年ほど前は多く使われましたが性能や耐久性が乏しく
近年は殆ど残っておらず過去の技術となりました。

何故かこの楽器にはベース側にしかマイクが付いていませんが、
先月、古い楽器から取り外したマイクと同様の物と思います。


裏面には粘着性のある黒い物質が付いていてこれで楽器に固定していたようです。
ブチルゴム思われますが、ネジ留めや接着はされていないので
マイクの重さで剥がれて楽器内で転がっていたのでしょう。


ブチルゴムを剥がしました。
粘度状なので丸めることができます。
防振性があるので音響関係や防音関係に使われます。


折角なのでマイクを分解してみました。
表の網のある部分は本体ケースと接着されていました。
剥がしてみると直下にアルミニウムの薄膜の振動版がありました。
剥がした際に振動板も破れてしまいましたが、下にオレンジ色の物が見えています。


振動板を外すと中に正方形の薄い物体が一枚貼ってあり電極が付いています。
振動板から1本の細い柱があり、その一端が正方形の板の上に貼り付けてあります。
振動板を外した際に表面のオレンジ色の電極が一緒にはがれました。


アルミニウム箔の振動板と柱で繋がる電極です。


振動板から柱を介して電極が付いていた正方形の薄い物体は
ロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム)という塩みたいな結晶です。
この結晶には圧電効果があり、振動や力を加えると電圧が発生します。
音を振動板で拾って結晶に伝えて電気信号を取り出すというしくみです。
結晶なのでクリスタルマイクと言われています。


結晶を剥がしてみたところです。
1ミリもないような薄い物です。
クリスタルマイクの分解は小学生の時にも試みた事があるので2回目ですが、
当時と何も変わらない構造でした。
というか、このマイクが当時の物なのでしょう。


結晶表面の薄い金属メッキを剥がそうとしましたが割れてしまいました。
結晶自体は透明ですが電気を取り出すために両面に金属のメッキがあり、
銀色に見えています。
塩のような結晶故に水分で溶けてしまったり、強度が弱いので割れてしまったり
マイクとしては扱いにくい物で、周波数特性も音楽用としては向いていませんので
今はマイクとしては使われていません。
圧電効果を利用したピックアップはギターなどで今も活躍していますが
素子は塩結晶ではなく、セラミックの物に置き換わっています。


当店で扱っているアコーディオン用のマイクのユニットと並べてみました。
基盤上に載っている小さな円筒がそれです。(矢印部分)
これはエレクトレッコンデンサーマイクという物で、クリスタルマイクとは
動作原理が違いますが、小さくて周波数特性、感度が良いので
色々なところで使われています。
携帯やスマホのマイクもこれですね。

クリスタルマイクは人が話す声の周波数付近の感度が高く、それ以外は弱いので
会話の音声を伝える分野(アマチュア無線とか)ではファンがいるようです。
私も昔は無線をやっていましたがマイクはダイナミック派でした。
コンデンサーマイクは楽器用としては良いですが
声の場合、高い方を拾い過ぎるのでそのままでは使いにくいです。

下記のオーディオテクニカのサイトではマイクのことが分かりやすく纏まっているので
概要を知るにはお勧めです。