コンサーティーナの調律2021/08/28

コンサーティーナの発音に問題があるという事で修理を承りました。
海外の工房から購入した新品という事ですが、コンサーティーナは国内では
低価格のエントリーモデルしか購入できないので、良い物を探すとそうなるのでしょう。
いずれにしてもコンサーティーナは初期の調整が不足している事が殆どですので
新品、中古に限らず、調整が必要な楽器です。(アコーディオンもですが..)


内部を点検しました。
ダイアトニックアコーディオン用のリードが木の板にネジ留めされている構造です。
元々のコンサーティーナの構造に近いのでロウ留めの物より良いと思います。
リードはある程度良い物が付いている事も分かります。


購入後、暫く使っていたからでしょうか、リードバルブの反りが少しあります。
とても弱い音で弾かなければ問題になる程ではありません。


リードが傾いて取り付けられている箇所がありました。(画像左側)
空気漏れ、振動が本体に伝わるロスが出る可能性がありますので直します。


発音に問題がある箇所のリードを外すと木の加工をした時のバリがあり
内側のリードバルブと干渉している事が分かりました。
全部のリードを外して点検する必要がありそうです。


リードの隙間の調整がバラバラです。
手前の物は先端が下がっていますし、奥の2つは隙間が多いです。
典型的な新品楽器の調整不足状態です。
これはアコーディオンやアコーディナでも頻繁に見られます。
輸入代理店や販売店の物でも、直して売っていないと判断できる事例が大変多いです。
この状態では弱い音の発音が悪かったり、強い音で発音しない場合が出たりします。

リードの調整は隙間以外にも必要な項目がありますし、
リードを触れば調律もズレますので、絶対に自分で調整しようと思わないでください。
単に隙間を調整するだけでは済まない難しい箇所です。


新たな不具合を見つけました。
画像の上下2つのリードですが、赤い矢印部分と黄色い矢印部分を比べてみてください。
リードがリベットで留まっている四角い部分の淵とリードフレームの周囲までの
距離が違うことが分かると思います。
赤矢印の方はリードの終わり部分とフレームの終わり部分までの距離が狭く
1ミリもありませんが、黄色矢印の方はその3、4倍の距離があります。
この事自体は何も問題ありません。

青い矢印部分、リードフレームがネジ留めされている所は木の段差が付けてあり、
リードフレームの端が引っ掛かってネジで固定できるようになっています。
赤矢印のリードは画像では表向きですが実際には内側に向いて固定されています。
木の段差部分の長さが赤矢印のリードとフレームの距離より長いので
木枠の段差部分にリードの淵が当たってしまいます。
そうするとフレームと木枠の段差部分に隙間ができるので空気漏れが起きます。
またリードの固定も面で受け止められないので固定が不安定になったり、
振動伝達のロスになります。
これは木の方を削って修正するしかなさそうです。


もう一つ、別の問題を見つけました。
これは少し珍しい事例ですが、薄い樹脂製のリードバルブの重なっている部分に
油?のような乾燥しない液体が僅かに入っているようです。
重なっている上側の樹脂が透明なので様子が見えて気付きました。
この状態だと2枚重なっている樹脂が僅かな液体で密着してリードバルブの
開閉に抵抗が生じます。
結果として開きが悪くなったり閉じるのが遅くなったりして発音に悪影響が出ます。
この1箇所だけですので恐らく、製造時に何かが付いてしまったのだと思います。

楽器全体ではここまで書いたような細かい不具合が無数にある状態でした。
当店では全体の調律を行う場合、発音に関わる不具合は全て修理するので
全体の調律をお勧めいたしました。
元より、リード周囲を修理する事で調律も変化するので結局、調律が必要になります。

この楽器は構造的には良くできた良い物と思いますが調整が足らないと思いました。
こういう事は本当に普通にあります。
個人輸入した物、海外で購入した物は勿論ですが、
日本国内で輸入販売されている物でも普通にある事です。
発音の問題や調律の問題がある場合、国内で販売されている物であれば
保障がある筈ですのですぐにクレームとして相談する事が大事です。
保障なく販売しているような場合は論外ですが、クレームできちんと
応じてくれなかったり、そういう物ですよ..とか、使っていれば段々と良くなって来ます..
の一言で終わるような場合、状況をきちんと判断できる人を介して
相談してみるしかありません。
どうしようもない場合、当店できちんと精査、修理する事もできます。
ただし、アコースティックの楽器ですので電子楽器のように全て完璧に同じ発音、
完全に狂いがない調律というのはあり得ませんので、
異常ではない範囲の細かいバラつきは許容しなければならない部分もあります。
それもまた電子楽器には無い良さでもありますので。

オークションの楽器2021/08/28

オークションで落札した楽器の点検と整備を承りました。
落札後、実際に使う前に点検をして必要があれば整備をしたいというご依頼です。
結論から言うとこの楽器はとても悪い状態で整備に至りませんでした。
先日もオークションで購入した楽器の事を書きましたが、
一定数、使えない物を落札する方がいるということなのでしょう。


こちらが落札された楽器です。
見た目はそんなに悪くありませんが40~50年前の物でしょう。
この見た目でとても安くて、全部の音が出ますと書いてあったら
買う人もいるかも知れませんね。
実際、音は全部出ています。


楽器のケースの中に手製の使用説明書のようなものが付いており、
その中にオークションに書かれていた文面も入っていました。
内容を見ると、本当?という部分が幾つかあります。
その中で特に気になったのは黄色の枠で囲った部分です。
文面の後半には「素人ですので..」とありますが、素人はこんな事しないです。
まあ、「時間をかけて」行ったという作業の出来栄えを見てみましょう。


右手側のリードです。
反りや変形のあるリードバルブが目立ちます。
リードバルブはリードに貼ってある薄い革の部品ですが、先の文面の中にある
「革サブタ」のことです。


リードバルブが長くなる低音域では更に反りが酷くなっています。
ここまで酷いと発音に影響が出てきます。


こんな風に酷く変形している箇所もあります。
右側の物は酷い変形がすぐに分かりますが、左側の物も中央が凸に変形していて
このような変形は発音への悪影響が大きく出ます。


ベース側のリードですが、こちらは内側に巻いた変形が殆どのリードバルブにあります。
やはり外向きの反りよりも問題が大きな現象です。
これらは革の経年劣化によるもので、楽器の年代から考えて
全て交換が必要な時期に来ています。
経年劣化のことを除いても文面にある、時間をかけて修正したというのは
一体、どのことを言っているのでしょうか?
状況からみてハッタリですね。
この時点で、全てのリードバルブの交換、全体の調律が必要なので
費用としては10万円を越えます。


そして、最もダメな不具合があります。
リードを留めているロウが劣化して、ひび割れが起きています。
経年劣化でロウが硬く脆くなっていて、リードをきちんと留める事ができていません。
40年以上経過した楽器ではこの問題が出てきます。
この場合、リードを全て木枠から外して古いロウを除去した後に
改めてリードを木枠にロウで接着する作業が必須となります。
時間が掛かる作業になるので費用はとても大きくなります。
楽器の外見が良くても古い物は内部が劣化していると思ってください。


蛇腹と本体の合わせ目に入っているパッキンの劣化も激しいです。
空気漏れの原因になりますのでこれも要交換です。


外から見てすぐに分かる不具合もあります。
鍵盤の高さのバラつきがかなりあります。
ここまでバラつきが大きい時は何か大きな問題が起きている場合が多いです。


高くなっている所では鍵盤の深さが9ミリもります。
通常、鍵盤の深さは5~6ミリです。
この楽器では一番低い所でも6ミリを超えています。
勿論、このままでは演奏がとてもしづらいので修理が必要です。


グリルカバーを外してみました。
鍵盤の高さが高くなっている原因はこれです。
鍵盤から伸びるアームが開閉するバルブに連結されていますが、
この楽器ではゴムのような合成品の部品でバルブと繋げています。
ゴム状の部品は劣化して大きく変形しており、鍵盤のバネで押し下げられている
力によってゴム部品が変形し、アームの先端位置が下がっています。
その証拠にアームの上に隙間があります。(赤矢印の部分)
アーム先端の位置が下がると軸で固定している鍵盤はシーソーの様に上がります。
これが鍵盤の高さをバラバラに高く上げている原因です。
ゴム部品は既に手に入りませんので修理するにはイタリアの楽器で使うバルブと
入れ替え、アームをロウ留めしますがとても時間が掛かる作業なので
高額な修理費用になります。


楽器のベルト部分は金具と繋がる部分が劣化で弱っているので
内側から革で接着補強してありました。
つまり、劣化を認識していたということですね。
こんな状態ならベルトは無しでお渡しする方がマシです。
という訳で、オークションで書いてある事は真実ではないという実例でした。

この楽器は「いかなる理由があっても」返品はできないという条件ですので
安いとは言え購入金額は全て無駄になってしまいました。
送料や点検の為の送料、ゴミの処理の手間、費やした時間も無駄になってしまいます。
安く買う事が目的ではない筈です。
アコーディオンには最低限必要な金額というのが大体決まっています。
これは物や食品、サービスなど全てに言える事です。
そこから大きく外れる場合は普通の物ではないということです。
良い物を必要な金額で購入し、問題のない楽器で不安なく思う存分練習したり、
演奏したり、というのが理想ではないでしょうか?