鍵盤周りの修理2022/04/19

先日右手側のレジスターを修理した楽器ですが、
調律の前にまだ修理が必要な項目がありました。




この楽器は鍵盤の高さにバラつきがある事と、
鍵盤の1音で空気漏れが出ているので修理が必要な状態です。



空気漏れがある箇所は鍵盤もベースボタンも何も押さない状態で
開いた蛇腹を強めに閉じる操作を行うと音が出る症状です。
今回の様な場合、蛇腹を開く時には症状が出ない事も多いので
楽器を購入する際は蛇腹を閉じる方での空気漏れチェックが必須です。
この操作で楽器が壊れる事はありません。

今回は音が出る程の漏れなので音程から位置を特定できました。
原因を探るためにリードを外してバルブの状態を見ると
バルブの端が本体とリードに通じる穴の周囲より
内側に入っていることが分りました。(矢印部分)



本体内側を暗くして表から光を当ててみると
隙間から光が漏れている事からそれなりの隙間がある事が分かります。



という訳で、鍵盤を外していきます。
該当箇所は最高音部であり、鍵盤は最低音側からしか抜けないので
全て外す事になります。



それにしてもこの楽器、芸術的とも言える鍵盤からバルブへと
繋がるアームの取り回しをしています。
上に乗る部品を避けたり、他の鍵盤のアームを避けるために
複雑に曲げられていますが、こんなに曲がりが多彩な楽器は珍しいです。
そして、鍵盤を外す時、付ける時に先に嵌める順番が決まってくるので
作業する場合や厄介な構造です。



鍵盤を全て抜きました。
まずは堆積した埃の除去です。
何かなければ分解する事もないのでこの機会に清掃します。



空気漏れのあるバルブです。
空気が漏れている所は黒く汚れています。
漏れがあるバルブはチャンバー側のMリードです。



漏れがあるバルブをアームから取りました。
この楽器はチャンバーがあるので1つの鍵盤から2つに分岐して
先端にバルブが2個あります。
チャンバーが無い楽器と比較して鍵盤数の倍の数、バルブがあります。



漏れのあるバルブが何故ずれて隙間ができたのかが判りました。
バルブに繋がるアームが長過ぎてバルブ先端の壁にアームの先が当たり、
それ以上バルブの位置を手前に持ってくる事ができず
穴の全てをカバーする事ができなかったということです。
アームの先端を切断したのでバルブを正しい位置に置けるようになります。



鍵盤を取り付け、バルブを置いて位置を調整します。
ダブルチャンバーの楽器ではこのように1つの鍵盤で2つのバルブがあり、
沢山の条件を全て満たす配置にして固定する必要があります。
その条件とは、
2つのバルブがリードへの穴を完全に隠す事、
2つのバルブが完全に同時に面へ接地する事、
2つのバルブが完全に面と並行である事、
鍵盤の高さ、深さが最適かつ他の鍵盤と同じになる事、
バルブやアームが他の部品と干渉しない事..

これらの条件を完全に満たす必要があります。
その為にチャンバーの楽器は調整がとても大変になり、
価格も高くなるという訳です。

今回もこの条件を全て満たすように調整し、最後にバルブとアームを
ロウで固定してバルブ修理の作業は完了です。



バルブの修理が完了したら鍵盤を元通りに戻して行きますが、
この楽器では鍵盤高さにバラつきがあるので
それを修正しながらの作業となります。

鍵盤を戻しながら他の問題がないか確認し、鍵盤の清掃もして行きます。
一つの鍵盤でバルブが他の部品と干渉しているところを見つけました。
矢印部分ですが、バルブの端が本体から出るネジの台座に当たっています。
このネジはレジスターのスイッチ部品を固定するものです。
このような干渉は空気漏れや異音発生の原因になる事があります。
鍵盤を戻しつつ、様々な部分に気を遣いながら作業を進めていきます。



全ての鍵盤が戻りました。
空気漏れの症状もなくなりました。