BeBe Medusa2022/07/11

Bébé Medusaという耳慣れないブランドのアコーディオンの調律を行う事になりました。
この楽器、知っている人は知っているという、業界?では有名な物です。
楽器自体は中国のGolden Cupというメーカーの物で、当店でも取り扱いがあります。
今回は少し前に当店でレッスンを始めた方が使っている物で、
使っている人も音がちょっとおかしい所がある、と言っていましたが
教えている講師から、音が気持ち悪いので見て欲しいということで呼ばれ、
点検した結果、全体の調律が必要という事になりました。


こちらがその楽器です。
緑色のセルロイドが綺麗な小さなボタン式です。
同じ楽器を2016年に2台だけ輸入した事があります。
当時、低価格なボタン式が無かったので気軽に始められる楽器が必要と考えて
中国製のボタン式と鍵盤式を入れる事にしました。
当時の売価は税別12万円にしましたが、この機種はボタンの間隔が狭く
弾き辛い部分があったので最初の2台で止めて、もうひと回り大きな物に変えました。
1台の整備には何日も掛かるので全く割りに合わないのですが
必要な物として今も販売を続けています。

そして今、同じ事を考える人が同じように販売を開始したということです。
これを販売しているのは、チャラン・ポ・ランタンという姉妹ユニットで
アコーディオンを演奏している小春さんという方です。
当店にも来ていただいた事があるので実際にお会いした事もある方です。
同じ事をしても知名度が桁違いで、
一日で500台以上の受注が取れたという事なので驚きです。
ウチは2009年開業ですが、まだ500台も売っていませんけど..

以下は販売サイトからの一部引用ですが、コストを切り詰めて
可能な限り低価格で販売し、気軽に始められるように、という考えなのだと分ります。
実際、この楽器を買って当店にレッスンで来た人がいる訳なので
効果アリという事になります。

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「手頃なアコーディオンを販売したらもっと気楽にアコーディオンを手にしてなんだったら未来のアコーディオンプレイヤーがちゃっかり増えたりなんかするんじゃなかろうか。」
「こちらで販売するアコーディオンはおそらく高級な、しっかりとした、劇的に質の良い、といった楽器ではないかもしれない けれど 」
「Bébé Medusaは保証がつきません。
保証がつかないというのもありこの値段にすることができました。」




さて、調律を始める事になりましたが、同じメーカーの物を扱っているので、
単に調律をすれば済む物ではないという事は分っています。
程度の差はありますがイタリア製の高級機でもこれは同じです。

音程のズレは聴いて分りますが、発音の悪い箇所も幾つかあります。
この楽器は点検はされている筈ですが、調整まではしていないと思うので
これは当然のことでしょう。
そこは購入する人も理解している筈です。
まずは右手側のリードから点検です。


リードを多数取り付けた木枠の端を楽器に留めるとても重要な部分ですが
この金具がきちんと固定されていません。
ネジが完全に締まっておらず、金具も傾いています。
楽器として良い状態にする為に、ここの修正は必須です。


右手のリードですが、リードとリードの周囲にあるフレームとの隙間が
各音によってバラバラです。
これはリードの大きさによって最適な調整が必要な箇所ですが
そこまでの調整はできていない状態なので発音が悪い箇所が点在します。
調律の前に全てのリードの調整をして行きます。


こちらも右手のリードですが、やはりリードの隙間の調整がバラバラです。
まあ、このメーカーの物は自分でも販売しているので見慣れた光景です。


リードに貼ってある薄い樹脂や革の弁(リードバルブ)に反りがあります。
表側だけではなく、木枠の内側も同様です。
これも全て修正して行きます。


リードを木枠に留めているロウの質がイタリアの物と違うので
ロウがひび割れやすいという特徴があります。
上の矢印部分はちょっとヒビが入っています。
元からヒビが入っているところは少ないのですが、蝋が弱いので
リードの修正作業などでもロウに問題が出てきて作業が難航します。


ベース側のリードです。
表に見えているリードバルブの反りは既に修正してあります。


ベースの方も木枠の内側のリードバルブの反りがありますので
修正作業が必要です。



これは修正前の革製のリードバルブですが、反りがあります。
よくみると上に貼ってある金属のバネの変形も多いです。
このメーカーでは樹脂の方はそんなに変形はありませんが
革の方は新品の時から反りや変形が多数あり、いつも修正が大変です。


こちらもベースリードですが、革の上の薄い金属バネの変形があります。
本来は革に沿って隙間なく平面的に接していなければなりません。


これもベースリードの木枠の内側ですが、なんと、2箇所にクモの巣がありました。
楽器が完成した状態では密閉されていてこのような事にはならないと思いますので
恐らく中国での生産過程で木枠にリードを付けた状態で
楽器に取り付けられるまでの間の放置期間中のことでしょう。
蜘蛛は見つかりませんでしたが、リードに問題が出るので除去します。
こんな感じで外来種は入ってくるのでしょうか?
ヒアリとかセアカゴケグモみたいに害がある物は話題になりますが
気付かずに色々なものが入ってきているかも知れませんね。

という訳で、調律に入る前に行う事が沢山あります。
中国製の楽器ではいつもの事なので特に驚きはありません。
点検の結果はこんな感じですが、実際の作業はまた追って書きます。
過去にも当店で販売する楽器の事を書いた事があります。