イタリア製アコーディオンの調律2022/09/17

イタリア製アコーディオンの調律を承りました。
発音に関する部分や調律の狂いだけで、大きな不具合はないものです。


遠方からのものなので宅配で送っていただきましたが
ベースの音が出たままになっているという不具合がありました。
ベースボタンは全て出ていますが音が出たままのところがあります。


リードを外してみると1音のバルブが開いた状態でした。


ベースボタン1つに傾きがありますが普通に操作できるので
今回の件とは無関係のようです。


ベースの蓋を開けてよく観察すると問題箇所が見えてきます。
上の四角で囲ってある部分は通常の位置にありません。
問題箇所を少し触ると元に戻って問題は解決しました。
輸送の衝撃と、ちょっとした引っ掛かりが起きていただけのようです。


外周りから点検して行きますが、まず問題を感じたのはベルトです。
金具が当たる部分が消耗していますので交換時期です。
この状態ではいつ切れるか分りません。
切れたら演奏の継続はできませんし、最悪の場合、楽器の落下で壊してしまいます。
ベルトは数年は使えますので、年数で割ればコストは安いです。
必要経費と考えて早めの交換を推奨いたします。


ベースのバンドも劣化が進んでいます。
これが切れる事は滅多にありませんが劣化して見た目や
操作感が悪くなるので適当な時期に交換した方が良いです。
10年以上も使っている事がよくありますが、10年以内には交換した方が良いでしょう。


ベースボタンの裏側ですが大量の埃が付いています。
埃というより動物の毛のような感じです。
恐らく、犬か猫を飼っているのだと思います。


ベースメカニックの脇の部分にはクモの巣に毛が掛かった状態です。
当店では調律の時に楽器の内部の清掃を行います。
定期的な調律は内部の清掃の意味もあります。
埃が堆積すると何かのはずみでリードに引っ掛かり音が出なくなるなど、
トラブルの原因になります。


ベースのバンドを固定しているネジが1つ緩んでいました。
これもよくあるケースですが、最悪の場合、演奏中にバンドが抜けます。
そうすると演奏の継続ができなくなりますので本番中の場合は問題が大きいです。
バンドの取り付けはうまく施工されていないと、このようにネジが緩むことがあります。
この部分の取り付けは単純そうですが難しい作業の一つです。
問題が出た時の影響が大きいのでとても気を遣う作業です。


交換するベースのバンドの側面ですが、左は新品で右が付いていた物です。
厚さが全然違います。


作業中に貼ってあるエンブレムが取れました。
以前にも何回か記事にしたことがありますが、
この楽器は経年でエンブレムが取れるメーカーの物です。


背面にあるエンブレムは既に取れてありません。
両面テープだけが残っている状態です。


剥がれたエンブレムと本体に残った両面テープの粘着部を綺麗に取り除いた後に
新しいテープで貼り直しました。
使われているテープのスポンジ層が劣化して剥がれる訳ですが、
粘着層はしっかりと残っているので取り除く作業が大変です。
スポンジ層の劣化は15年程度後の事なのでメーカーは製作時に気付く事ができません。
恐らく、今は問題のない物に切り替わっているでしょう。


背面のテープの粘着層を取り除きましたが、楽器表面のセルロイドと反応して
跡が残っています。
背面なので目立つことはありません。


グリルカバーにもエンブレムがありますが、こちらは剥がれていません。
でも何か違和感があります。


手で剥がしてみると簡単に取れました。
接着剤で貼り直した跡があるので、一度は取れたのでしょう。


接着剤と古いテープを除去して貼り直しました。
違和感の理由は分りますでしょうか?
そう、向きが反対だったのです。
剥がれて貼りなおす時に反対向きにしてしまったのでしょう。


ベースリードの下のバルブへ通じる穴です。
音の切替のためのシャッターが全開になっていない箇所があるので修正します。


こちらは右手側の音の切替スイッチのクリック感を作っているバネの部品です。
ここにも動物の毛らしきものが沢山付いています。


バネを回転させて手が入るようにしました。
古いグリスと埃や毛が付いています。


綺麗に掃除して最適な位置へ戻しました。
新品の時はこんな感じだった筈です。
これでスイッチの操作感も改善します。


リードの隙間にも細い毛が挟まっています。
発音や調律に影響する事があります。


より繊細なHリードの高音部分です。
とても小さく隙間も狭いので、ちょっとした異物でも音に影響が出ます。
隙間が細いので埃などが詰まりやすい部分でもあります。
この部分も沢山の細い毛が入り込んでいるので全て取り除きます。


リードバルブは少し反りが出てきていますが交換時期ではありません。
修正で使って行けるでしょう。
部分的に交換された形跡があります。


ベースリードの方も右と同様にリードバルブの反りが出てきています。
こちらも修正します。


右手のリードで1箇所、外観がとても悪いところがありました。
リードが折れて交換した感じですが、周囲のロウは溶けきっておらず、
指で押し付けただけの感じもあります。
専門店が行った修理には見えません。


交換されたリードを外しました。
リードを留めるリベット部分が平らなので標準リードです。(右側)
この楽器は高級器なのでハンドメイドリードが付いています。
交換する為にハンドメイドリードを用意しました。
リベットは不規則な面を持っています。(左側)
これは手作業のハンマーで叩いた跡です。
安いリードは機械が打ち込むので平らな面になっています。


リードを交換しました。
ロウ留めも綺麗に仕上がっていて、パッと見では交換した事が分らないと思います。
下にあるのは取り外した物です。


蛇腹と本体の合わせ目にあるパッキンシールが劣化しているので交換します。
この楽器は少し空気漏れがあるので交換すると改善する可能性があります。


調整作業が終わり、調律に入る直前に気付きましたが、
本体にひび割れがありました。


割れた部分を確認すると内部にまで達していることが分りました。
空気漏れの原因の一つになっているでしょう。
このままだとヒビが進んで行くので修理を行います。
この部分に割れができる原因として、楽器の落下など以外に
楽器の分解作業での不適切動作によることがあります。
時々、ネットで楽器を分解したとか、分解してみましょう的な記述を見ますが
ちょっとした事でこのような大きな問題に発展する事もあります。
意味もなく分解は行わないようにしましょう。
分解してもできる事は殆どありません。
分解に興味がある人はジャンクを買って行うと良いでしょう。


割れた部分を修理して外観を整えました。
少し離れて見たら殆ど分らない程度になりました。
この後は全体の調律を行って完了です。


蛇腹の谷部分に埃や毛のようなものが堆積していました。
見た目が悪いので清掃しました。
修理、調整、調律を行い、内外の清掃を行う事で楽器を良い状態に保てます。
当店では全体の調律を行うという場合はこれらの作業も費用に含んでいます。
これは、ただ調律を行うだけでは良い結果にならないからです。
ピアノのように毎年の必要はありませんので、アコーディオンの維持費は
比較的安い方と思います。


新しいベルトに付け替え、楽器の試奏をひと通り行い、問題がなければ
後は梱包して発送するだけです。


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