クラヴィエッタの修理2023/11/05

現在は作られていないイタリア製の鍵盤ハーモニカ、
クラヴィエッタ(Clavietta)の修理を承りました。

主な不具合は、空気漏れと発音しない音がある事です。
原因は気密室のパッキンシールが劣化なので交換します。
発音しない音はリードの詰まりが原因でした。

クラビエッタの初期の物はバルブの樹脂(ゴム?)が硬化、変形して
大量の空気漏れと鍵盤の高さがバラバラになる状態になりますが、
この楽器は後期の物でしょうか?
その後の楽器でもバルブのゴムは黒い物が多いですが、これはシリコーン製です。
ただ、シリコーンは強度が低く、この楽器でもバルブが薄いので変形して
鍵盤が深くなっている状態です。
もう少し厚さがあれば解消しますが、バルブ受けるネジ側の隙間が細いので
厚みを増やすことは簡単にできません。


付いていたパッキンシールを取り除きました。
この後、本体に残った古い接着剤も綺麗に取り除きます。


パッキンシールを貼り換えました。
これで空気漏れが解消する筈です。

クラビエッタは同時期のBorelのアコーディナとメーカーが同じで、
構造など共通部分が多い楽器です。
大きな共通点はアコーディナと同じように、
吹き口→気密室→バルブ→リード という空気の流れです。
上の画像でも気密室の中はシンプルにバルブのみが見えています。
上にリードが見えていますが、これは気密室の外になります。
気密室を閉めていてもリードが表にあるので、
発音が大きく、調律も楽にできます。

先日行ったピアニカの調律の画像を見ると違いがよく分かります。
ピアニカなど多くの鍵盤ハーモニカは、
吹き口→気密室→リード→バルブ という空気の流れです。
なので、ピアニカは気密室の中にリードが並んでいます。


気密室に溜まった凝縮水を排出するバルブのパッキンも交換します。
ここからも空気漏れが起きますので。
形状がアコーディナとそっくりです。


修理が完了しました。
今回、調律は行わないのでこれで完了です。
一緒に送られてきたケースは革製の純正品のようですが、珍しいですね。
大体、木でできたスリムなハードケースに入って来る事が多いので。

ピアニカの調律2023/10/24

ヤマハの鍵盤ハーモニカ、ピアニカの調律を承りました。

恐らく元々は子供さんが使っていたのでしょう、鍵盤にシールが貼ってあります。
演奏活動に使うにあたり、調律が他の楽器と合わないという事で
調べてみると、個々の音程の狂いもある程度ありますが、
全体がA=442Hzになっている事が問題である事が分かりました。
他の楽器はA=440Hzで演奏されているようです。


ネジを抜いて最初に分解できたところです。
これは表面のカバーが取れただけなので、この状態で音が出ます。
この状態ではリードは見る事も触る事もできないので更に分解します。


気密になっている部分を開けるとリードが出てきました。
この状態にすると吹いても空気が逃げるので音は出なくなります。
調律の確認で少し吹いただけですが、吹き口に近い低音のリードの
表面には水滴が付いています。
これは呼気中の水蒸気がリード表面で冷やされて出てきた凝縮水です。
この水でリードが錆びないようにリードは銅合金でできています。
ちなみに、アコーディオンのリードはスチール製(鉄)です。


偶々ですが、新品のアコーディナを調整中なので比較してみましょう。
アコーディナの外側のカバーを外したところですが、
既にリードが見えています。
この状態で音が出せますので、鳴らしながら調律を行う事ができます。
アコーディナも呼気の水蒸気が出るのでリードが錆びないように
ステンレスでできています。
この事で銅合金のリードとは違った音色になります。


アコーディナの気密部分を分解したところです。
鍵盤ハーモニカではリードが並んでいるところですが、
気密室の中はボタン操作で開閉するバルブがあるだけです。
この構造が一般的な鍵盤ハーモニカと全く違うところです。

鍵盤ハーモニカは吹いた息がリードに入って、
リードの後にあるバルブを抜けて音が出ます。
なので、気密室を開けないとリードが見えません。
また、その状態では吹いて鳴らす事はできません。

アコーディナは息がバルブを通って最後にリードから抜けます。
なので、リードは本体の外にあります。
この違いは音質や音量への影響が大きいです。
箱の中にリードがある鍵盤ハーモニカは音が小さくなります。
またアコーディオンで言うところのチャンバーのような音になります。
アコーディナは外にリードがあるので、大きくて鋭い音が出ます。


アコーディナを分解したところの拡大ですが、
バルブから入った息は側面のリードから出て行きます。
呼気中の水蒸気はバルブのある箱の所で先に凝縮するので
リードは濡れにくくなっています。
また、リードが外側で外界と繋がっているので乾燥しやすいです。

この構造はメンテナンスでも有利です。
気密室を閉じたままで音が出るので、
吹いて音を確認してすぐにリードを削って音を確認できます。
これは調律する時にとても楽ですが、鍵盤ハーモニカは気密室を閉じないと
音が出ませんので、リードを削った後に蓋を閉めてネジ留めしないと
音程を確認できないので大変です。


このピアニカはリードが1枚のプレートに複数取り付けられています。
アコーディナは1音ずつ分かれているのでリードが折れた時は
1つ交換すれば済みます。
複数リードが載っているピアニカはリードが折れた時は
プレート自体を交換する事になるでしょう。
この楽器は全音域が3枚のプレートに分割されていました。
矢印部分が切れ目です。

上の画像はピアニカの低音部のリードです。
低音を作る為には長いリードが必要になりますが、
楽器のサイズの制限でリードの長さを無制限に長くできないので
途中から先端を重くして低音を作っています。
鍵盤ハーモニカは楽器の幅方向にリードが付いているので長さに余裕があり、
低音のリードも無理なく鳴ります。

アコーディナはリードが楽器の厚さ方向に配置されているので
長さをあまり長くできません。
なので最低音から3つ目位までは発音が悪く、ピッチも安定しません。
これはアコーディナの欠点ですが、
音域は44音あるのでそんなに困る事はありません。


ピアニカの高音部のリードです。
矢印部分がプレートの切れ目です。
アコーディオンやアコーディナのリードはフレームに
リベットで留めてありますが、この楽器はスポット溶接で留めてありました。
安く量産する為でしょう。
リードが折れてもプレート単位で交換するので、
スポット溶接を外す必要はありません。

調律を確認していくと、プレート単位でズレ幅が違っている事が分かりました。
この楽器では低音のプレートに載っている音は比較的正しく、
その他のプレートの音はズレが大きかったです。


リードの調整は見たところ、大体という感じです。
恐らく、調律は何等かの方法で自動で行っていると思います。
安く量産するにはそうするしかないでしょう。
この楽器は敢えて調律を行う訳なので、
リードの調整、音程の調整ともにキッチリ行います。
音程の調整は、何度も気密室の開閉を行う必要があり時間の掛かる作業となります。
リードの調整をきちんと行えば、弱い音が出やすくなり、
強い音で発音しない限界値も上がります。


空気漏れが僅かにあるので確認すると、一番低い音の
リードの下にあるパッキンシールがズレていました。


少しのズレですが修正しておきます。


取り敢えず調律は完了しましたが、まだ終わりではありません。
この楽器は最後にカバーが付くので、このカバーを付けた状態で
音程を確認する必要があります。
実際に使う時の状態にすると、調律がズレる為です。
完成状態で測定してズレがあれば、分解、調整を繰り返します。
鍵盤ハーモニカの調律はきちんとやると大変なのです。
と言っても、
アコーディオンやコンサーティーナ、バンドネオンでも同じ事が起きますが。

Accordina マイナーチェンジ2023/06/30

フランス Marcel Dreux からアコーディナが届きました。
在庫品として注文していた物です。


金属製の模様切り抜き外装、横向きのマウスピース、白黒ボタンという、
Marcel Dreuxの最も標準的なモデルです。
これは表面が艶消しの仕様ですが、ピカピカに磨いた物もできます。
その他、外側が木でできた物や、金属でも穴の空いていない物など
多数のモデルがあります。


今回届いた楽器は今までと少し違う部分があります。
まずは外観ですが、ボタンの下の部分の造形が以前と違います。
以前はボタン式アコーディオンのような階段状でしたが、
新しい物は高さの違う筒状になっています。
少し有機的なデザインになった感じがします。
私は以前の方が好みですが、実際に殆ど見えない部分なので
特に問題はないでしょう。
操作感などは何も変わりません。


一番変わった部分はこれです。
以前はリードの固定は溶けたロウで接着していました。
鍵盤式のアコーディオンと同じような方法です。
新しい物はネジで留めてあります。
紫色のアルマイト処理された軽量なネジでガッチリ留まっています。
リードの根本部分だけ隙間を埋める為でしょうか、
特殊な接着剤のような物でシールされています。

リードがネジ留めの構造は、一番最初に考案されたアコーディナ(Borel)と
同じ方法です。
フレンチタイプのボタン式アコーディオンもロウを使わずに
釘やネジでリードを固定してあり、独特の音を作っていますが、
今回の固定方法の変更で音質が少し変わったかも知れません。
私にはハッキリと感知できませんが、2種類を交互に比較したら
分かるかも知れません。


もう一つ、外観の変更があります。
楽器裏側の樹脂製パネルにMarcel Dreuxのm.dマークが付きました。
以上が変更点です。
ご来店いただければ実際の楽器を見たり、試す事ができます。


Claviettaの整備2022/10/18

1960年頃にイタリアで製造されていた鍵盤ハーモニカ、
クラビエッタの修理を承りました。


見た目は普通に鍵盤ハーモニカです。
製造していたのはオリジナルのアコーディナと同じなので
構造や部品が共通の部分も多いです。
外観は問題ありませんが、空気漏れがとても多く、
まともに使う事ができないような状態の楽器です。



空気室を分解しました。
クラビエッタや当時のアコーディナは吹き込みの後の空気の処理が
同じような構造になっています。
吹き込んだ空気は二重底になっている底の方を通って行きます。
上の画像の金色の部分は上下を分離している板です。
吹き口から入った空気は、この板の下の空間を最初に通ります。



二重底の下を通った空気は吹き口から一番離れた所の仕切り板の切れ目から
上の空間へ入って行きます。
上の空間の天井には鍵盤操作で開くバルブがあり、
バルブを抜けた空気は最後にリードを通って外に出ます。
なのでリードは一番外側の圧力がない空間に設置できます。
音が良く出てメンテナンスも容易です。
鍵盤ハーモニカではリードが先で最後がバルブなので
リードは本体内の空気室にあるので音がこもりますし、水が付きやすいです。
調律作業も大変になります。

クラビエッタへ吹き込んだ息は二重底の下の
冷えた空間を先に通る事で呼気中の水蒸気を凝縮水に変えて落とします。
バルブ以降のエリアで凝縮水ができにくいようにする凝った構造です。
当時のアコーディナも同じ構造を持っていますが、
現在のアコーディナでは省略されています。
二重底でも長時間吹くと内部が暖まって冷却効果が薄れるので
実際の効果がどの程度あるかは不明です。



鍵盤操作で開閉するバルブです。
形や構造、サイズまで当時のAccordinaとそっくりです。
このバルブはエンジンのバルブと似た構造をしており、
内圧でバルブが閉じる方向に力が掛かるので空気漏れしにくい構造になっています。
強く吹く程、バルブは閉まるように動きます。
現在の鍵盤ハーモニカでは殆どの場合、圧力が抜ける方へ動く構造なので
ある程度、鍵盤のバネを強くしないと空気漏れします。
あまり鍵盤のバネを軽くできない理由ですが、
空気の方向が演奏中に入れ替わるアコーディオンでも同じ事が言えます。



バルブは専用の特殊ネジで留められていますが、
僅か1.5ミリ程度の細いステンレスネジなので、少し無理をすると折れます。
このネジは鍵盤に繋がる長い物で、代わりの物はありませんし、
バルブのネジ内に折れた物が残り、それを抜くのが困難なので
どんな事があっても折りたくない部分です。
自分で分解してこの部分を折った楽器を今までに何度か見てきました。
年数が経っていて固着している時もあり、難しい作業になります。



今回の空気漏れの原因はバルブのゴム部品の劣化です。
バルブを全て外しました。
見ただけでは劣化が分かりにくいですが、
硬化と変形で役に立っていない状態です。



ネジ部分からバルブ材を外そうとすると簡単に割れ、この通りです。
薄いせんべいのように大変脆い状態です。



別で作っておいた新しいバルブ材と交換したところです。
もちろん現在では専用部品はありませんので手作りします。



古いバルブ材を全て取り外しました。



そして新しいバルブ材を取り付けました。
これを行うと手が痛くなります。



バルブを全て外したらバネで押さえられていた板がフリーになって
接着がダメになっている事が分かりました。
バルブを戻す前に本体の接着修理が必要です。
多分ですが、以前に接着修理をしたような跡があります。



空気漏れの主な原因はバルブですが、その他にもあります。
空気室の合わせ目に入っているパッキンシールも劣化して硬くなっているので
貼り替えします。



バルブを戻し、シールを貼り換えました。
バルブを戻すのはネジを締める作業なので、
外す時と同様、とても気を遣います。



空気漏れの原因はもう一つあります。
空気室の下にある凝縮水を抜くドレンバルブです。



ドレンバルブのバルブ材は革ですが、劣化していますので貼り換えます。



ドレンバルブの修理を行い、空気室を組み戻してバルブ周りの修理は完了です。
これで空気漏れは激減し、大きな音が出るようになりました。



本体の一部が破損しているので修理します。



後は全体の調律を行いますが、先だってリードの発音調整をします。
外さずに調整できるところもありますが、必要があればリードを外して調整します。
発音の調整などを行い、最後に調律を行います。



そして、調律完了!
これで楽器として普通に使える状態になりました。



今回、これで終わりではありません。
同じ物が複数あります。
Claviettaを愛用する方は壊れた時の為に予備を持っている事が多いです。
古くて手に入りにくい事や、プロ奏者が仕事で使う場合が多いためです。



2台目も全く同じ症状と内部状態です。
という訳で、同じ作業をもう一度おこないます。


未整備アコーディナの調整2022/05/31

海外在住の方が現地で購入したアコーディナの発音が悪いということで
調整を承りました。
機種は、当店で取り扱っているフランス Marcel Dreux のAccordinaです。



楽器を受け取ったらまずは分解と洗浄を行います。
同時に点検と見積りを行います。
見積りを確認いただいて同意が得られれば作業を開始します。
この楽器では弱い音の発音が悪い個所、強い音で発音しない箇所が
幾つもある事を確認しました。
これは当店でメーカーから輸入した時の状態と大体一致します。



高音部のリードを取り外しました。
これは調整の為ですが、実際の発音状況に関わらず、
最高音からこの辺りまでのリードは無条件に外して調整します。



そして低音部から2つ目までも無条件に取り外して調整します。
その他のリードは取り外さないまま調整を行いますが
取り外す必要があれば外して調整します。



アコーディナは両側面にリードが並んでいますので、
片面が終わったら反対側も同様に高音部のリードを外して調整します。



そして低音部も同様です。
中音域は外さずに調整しますが、リードの半分以上を外す事になります。
調整は殆んど全てのリードに対して行います。



リードの調整後、全ての発音をチェックして悪い所はもう一度外して調整します。
全てのリードの発音が改善するまで繰り返します。



全ての発音に問題がなくなれば最後に調律を行います。



調律が完了したら一度分解します。
調律は吹いて行うので内部に結露水が付いています。



外した蓋とふき口は洗剤で洗います。
本体側の水洗いできない方はアルコールで消毒します。
この作業は新型コロナが出てくる以前から行っています。



洗浄、消毒を終えて、蓋部分、外装部分を組付け作業完了です。
これでこのアコーディナが持つ性能を最大に使える状態になります。
ここまでの作業は当店で輸入販売する全てのアコーディナで
行ってからお渡ししています。