二枚貝5匹?2012/07/28

ちょっと珍しいデザインのアコーディオンの修理を承りました。
恐らく30年以上は経過している楽器と思います。


グリルカバーに丸い金属のパーツが5つ載っています。
茶色のセルロイドで木目の様な模様も珍しいですね。
メーカーはイタリアのScandalliです。


グリルの上に載っている丸い金属のパーツは、スイッチ操作で
二枚貝の様に開閉する事ができます。
思ったほど大きくは開きませんし、音の変化もさほど大きくは変化しません。
どちらかというと、見た目のアピールに重点を置いている感じがします。
丸い形状のスイッチも面白いですね。
ちなみに、蓋の開閉のスイッチにはPIANO、FORTEと書いてあるので、
音量変化を狙ったものと考えられます。


修理のご依頼内容は、ベースボタンの陥没です。
輸送中の衝撃によるものと思われます。


ベースボタンの裏から見た状態ですが、かなり大変な事になっています。


幸い、この楽器はベースメカニックが簡単にごっそりと外せるタイプなので、
修理には長時間を要しないと思います。
ご覧の通り、1分もあればベースバルブが見える状態にまで分解できます。


ベースメカニックを取り外すと、あまり見たくない光景が..
本来、アコーディオンのリード側のケース内に収まっているはずの、
サブタ皮を押えている樹脂製のバネとそれを貼り付けている丸い皮が
ベースバルブを通り抜けてケースの外に出ています。
これはベースボタンの陥没よりも深刻な事態です。


ベースメカニックの周辺に落ちていたパーツを集めてみました。
全てサブタ皮を押えているバネと革の部品です。
写真の様に、演奏により開いたバルブから外れた部品が空気と共に
外へ放出されたという事です。
これは、貼ってある物が全て、かなり外れやすい状態になっている事を示唆します。


右手側のリードです。
激しくサブタ皮が反っています。
樹脂製の押さえバネも同様です。
結局のところ、全てのサブタの交換が必要な状態でしたので、
部品が外れ易くなっている事は大問題になりませんでした。
どのみち取り外しますので。


ベース側のリードです。
こちらもリードバルブは激しく反っています。
年数や皮の状態から、全て交換する必要があると判断しました。
接着が弱っていますので、貼りなおしをするために取り外すなら、
交換した方がかけたコスト分だけの恩恵があります。


スイッチの開閉にも問題があるようです。
シャッターの位置がきちんとしておらず、全開になりません。
これも要修理です。


この楽器にはグリルカバー上の開閉する機構以外に、
もうひとつ特徴的な機構が付いていました。
蛇腹の自分のお腹の当たる辺りに、金属製の回転するツマミがあります。
このツマミを使って、蛇腹のロックとアンロックを行う機構です。
なので、蛇腹の上下に蛇腹留めが付いていません。
ですが、ご覧の通り、この機構も壊れてしまっています。


別な角度から見たものです。
本来、シャフトにネジ止めされているロック機構2つが、両方ともネジが無くなり、
位置がフリーになっており、また、激しく変形しています。


蛇腹ロックに関わる部品を取り出しました。
シャフトは曲がっていますし、部品は変形、破断があります。
不足している物もありそうです。
完成図が無いので修理できるか分かりません。
最後はこれを使わずに、通常の蛇腹留めを付ける手はありますが。


蛇腹と本体の合わせ目にある皮製のパッキンも交換時期です。


ベースのストラップですが、ここまで使えば本望でしょう。
要交換ですね。


ベースの底板にある開口部です。
埃除けにネットが張ってありますが、汚れと何故か、境目のハッキリした
変色があります。
こういう部分を交換すると見違える様になります。

鍵盤のバルブです。
フェルトがかなり薄いタイプです。
隙間が狭すぎて虫食いが起きないという説があります。(持論..)
ロウ接着ではなくてゴムのパーツで連結されています。
今の時点では空気漏れなどありませんので、取り敢えずこのままで行けそうです。
ゴムの部分には細かいヒビが入っていますし、鍵盤も深くなっていますので、
年代を考えても近いうちに交換、調整が必要になると思います。

という訳で、年代なりに整備する箇所が沢山ありそうですが、
この珍しい楽器を復活させる意義は大きいと思います。
ブランドが途絶えた古い名機の復刻が時々ありますが、
オリジナルを再生するという事に拘るのも良いと思います。

調律終了、そして..2012/07/28

60年前のアコーディオンの修復をしています。
前回の記事はこちらです。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/07/17/6580921

リードの修復を全て終えてから1週間以上経ってしまいました。
と言っても、何もしていなかった訳ではなくて、調律をしていました。
この楽器は元々、HMMLだった物をMMMLに改造してあります。
通常、MMMを持つ楽器は標準の調律のMに対して、ピッチを高くしたMと、
ピッチを低くしたMという具合に調律し、独特の揺れを伴った
派手な音に仕上げて行きます。
このタイプの場合、大抵、ピッチのずらし量は多めにとり、派手な音にします。
そういった音色が欲しくてMMMの楽器を選ぶ人が多いという事です。

この楽器の調律は依頼主さまのご希望により、MMMLの4つのリード
全てを標準の調律、つまり、ずれ無しで調整しました。
私としても初の試みでしたが、なかなか面白い仕上がりとなりました。
スイッチを切り替えても音色はあまり変化せずに音量が増えるという事になります。
ですので、沢山付いているスイッチはあまり意味が無くなります。
その代わりに得られる物は、芯のある強い音です。
特にアコーディオンの様なリード楽器は高音になると音が痩せて行きますが、
3つ鳴っている事で音の痩せが減ります。
この調律はクラシックに向いているのではないかと思います。
という事で、無事、調律が終了しました。


これはベースの底板ですが、この楽器にはベース部分に開口がありません。
時々、この様な楽器がありますが、音色の調整の為でしょう。
全て塞がっていると音が柔らかくなりますが、一方で音量は下がり、
クリアな感じではなくなります。
ご依頼主さまの要望で、ここへ開口を作る事になりました。


という事で、開口を作りました。
ただ穴を空けただけですが、このサイズの穴を綺麗に空けるのは
案外難しく、目立つ部分だけに作業は緊張します。

今朝、出勤する前にロンドンオリンピックの開会式がテレビで放送されていました。
そんな事もあって、五輪を意識したデザインにしてみました。



左右、二箇所にまとめて開口を作り、埃避けと防虫の為にネットを張ると
なかなかの出来栄えです。
と言っても、ベースストラップで殆ど隠れてしまいますが..


修復を始めてから長らく作業を続けて来ましたが、楽器の機能の部分の
修復はやっと終了しました。
長年、酷使されてきた楽器ですので、深い傷が沢山ありますが、
細かい傷を手作業で仕上げて行けば艶は戻ってきます。
深い傷も取る事はできますが、これは大変な作業ですので、
必要があれば別途という事になります。


蛇腹留めも新しくしました。

ボロボロだった胸当ても新品に交換です。
見た目が蘇って来ると、いよいよ、この楽器をお返しする時が近づいてきます。