日本製ビンテージ32020/02/09

日本製の60~70年前のアコーディオンの修理を行っています。
最初に発音に関する修復を行いました。
前回の記事はこちらです。




今回は右手側の空気の制御部分、バルブを含めた鍵盤の修復です。
鍵盤の高さが大きくばらついています。



鍵盤の高さが大きく変化している場合、原因はバルブに使われているフェルトが
虫害で食われていたり、取れて無くなった事で高さが変わるか、
鍵盤部に力が加わってアームが変形した場合です。
機械的な損傷の場合、高さの変化は一部に留まる場合が多いですが
今回は平均的にばらつきがあります。
ですが、この楽器にはバルブにフェルトが無く皮しか貼ってありませんので
フェルトや皮の損失で高さが変化した訳でもなさそうです。

いずれにしても鍵盤とバルブの修復を行い高さと深さを適正にする必要があります。
皮は古くなって硬化や段付きがあるので全て交換します。




鍵盤を取り外すには軸になっている心棒を抜き取る必要があります。
通常、白鍵と黒鍵で軸の取り付け位置が変えてあるため心棒は2本ありますが
この楽器は古い設計の為、全ての鍵盤を1本の軸で留めています。
このタイプは修復が面倒になります。

古い楽器の場合、心棒が固着していて抜けない場合があり、
心棒が細くて弱い物もあるので心棒を抜くのはとても気を遣う作業です。
これが抜けなかった場合、楽器を破壊する以外に鍵盤を外す手はありません。
幸い、今回は比較的楽に心棒が動きました。



心棒を抜いて鍵盤を全て取り外しました。
鍵盤の下には埃が沢山堆積していますがこの楽器はさほどでもありません。



演奏姿勢では楽器の下部となる高音鍵盤の下に埃が集まっています。
心棒には錆が出ています。



白鍵の先端が当たる部分に緩衝材としての皮が貼ってあります。
これも硬くなっているので交換です。
近年の楽器ではフェルトが貼ってあります。



バルブが当たる面は何故か茶色です。
ここはアルミニウム合金の板の場合が多く、とても古い楽器では木です。
この楽器は茶色ですがアルミニウムに色が塗ってある物でした。
位置決めの為のケガキ線は塗装を引っ掻いて書かれたものです。



黒鍵の端には鍵盤を押し切った時の当たりを和らげてノイズが
出ないようにする為に緩衝材が貼ってあります。
フェルトが貼ってある場合が多いですがこの楽器は木綿のようです。
一部、はがれてなくなっている箇所もあります。



独特な形状をしたバルブです。
空気を止める為の皮が1枚貼ってあります。
近年の楽器では閉じた時のノイズを減らす為にフェルトが重ねて貼ってあります。



バルブと鍵盤から延びるアームの接合部は白くて硬い何かで接着してあります。
修復するには一旦、ここは分離して綺麗に接着剤を取り除く必要があります。
簡単に外せると良いのですが..

近年の楽器ではロウで固定してありますので、溶融する事で
分離したり位置を変更する事が容易です。



鍵盤を外してみると鍵盤表面の樹脂と下部の木が剥がれて
樹脂部分が反っている物が多数見つかりました。
鍵盤の高さが大きくばらついている理由はこれでした。



鍵盤の樹脂部を剥がしてみると木からヤニが出て樹脂部品を
押し上げて剥がしたような感じがあります。
接着剤自体が劣化して剥がれている感じもあります。
いずれにしても剥がして綺麗にしたのちに再貼り付けする必要があります。



という訳で鍵盤の貼り直し作業です。
剥がして、磨いて、接着、を剥がれた鍵盤全てに実施します。
剥がれていない鍵盤もいずれ問題が出るので接着剤で補強します。
固定用のクリップを総動員していますが、鯉のぼりみたいです。



バルブとアームを分解してみました。
思ったより接着が脆くてさほど苦労せずに分離できました。
接着剤はおそらく、ニカワに石膏か粘土を混ぜた物と思います。



バルブをアームから分離して、古い皮をはがし、バルブに残った
接着剤や皮の断片を綺麗に取り去った状態です。
これを34鍵盤分行います。



34個、全てのバルブを綺麗にしました。
これだけでもかなりの時間を要します。



バルブから剥がした皮と化粧布です。



鍵盤を分解したタイミングで鍵盤の清掃、磨きも行います。
修復して組み付けた後では細かい部分を綺麗にするのが困難なので。
画像の左二つは磨いた後です。
綺麗にしなくても修復は可能ですし、機能もしますが
見た目も含めての修復を心がけています。
ただ単に修復するより時間と手間が掛かります。



バルブに新しい皮を貼り付けました。
今回は薄いフェルトも入れました。
これで鍵盤を離した時の閉じる音が小さくなります。



黒鍵の裏に貼ってある古い木綿の緩衝材をはがしました。
ここには新しいフェルトを貼ります。
実際に鍵盤を組み付けてみて鍵盤の高さ、深さを見ながら
貼り付けるフェルトを選定します。



引き抜いた鍵盤の心棒です。
かなり錆が出ています。
これは取り付ける前にピカピカに磨きます。



楽器本体に鍵盤を戻しました。
と、書くと一瞬の事ですが、実際にはバルブを取り付けて、
鍵盤の高さ、深さを調整して、最後にバルブをロウで固定するという
作業をしていきますので何時間も必要です。
時間は掛かりましたが見た目も綺麗に収まりました。



鍵盤の高さが揃って美しいです。
鍵盤の下の古い皮は赤い薄いフェルトに交換し見た目も良くなり
押し切った時の感触も良くなりました。

これで右手側の修復は完了です。
同じように左手側のバルブも貼り替えしますが、
この作業は右手側以上に困難な作業になります。



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