ピアニカの修理2016/05/16

大変珍しい鍵盤ハーモニカの修理を承りました。

ピアニカと書いてありますが、ヤマハではありません。
東海楽器というメーカーの物ですが、そういえば以前に
Tokai と書いてあるアコーディオンの修理をした事がありました。
ピアニカはヤマハの商標と思っていましたが、
元になったのはこのメーカーのようです。


ある程度古い物のようですが、ケース、説明書まで残っていて、
楽器もとても綺麗です。


外観はシャープでアルミニウム外装を樹脂で挟んだ構造や、色あい、
殆ど淵なしで鍵盤だけのような楽器のデザインはイタリアで製造されていた
クラビエッタにそっくりです。
依頼者の方もクラビエッタが原型ではないか?という意見をもらっていたとのことです。



本体に貼ってあるステッカーです。
モデル名はPC-1ですが、名前の通り、市販のピアニカ1号という事でしょうか?


分解してみると、鍵盤のバルブが外れている箇所がある事が分かりました。
鍵盤を押さなくても音が出ているのはこれが原因です。


外れているバルブをとりはずしました。
かなり小さなバルブです。
バルブ側にはシール材が全くなく、ただの金属板です。
バルブが当たる方の面に柔らかいシール材が貼ってあります。
これは製造する時には楽な方法ですね。
バルブ材は樹脂ですが、驚いた事に何十年と経っているのに
柔軟性を保っていて劣化があまり進んでいません。
恐らく、軟質塩化ビニルと思います。


バルブを位置に戻してみました。
シール材に段差が付いているので正確に元の位置へ戻さないと
空気漏れが出る可能性があります。
取り敢えず、今は固定せずに漏れの確認だけします。


音域によってバルブサイズが変わっている事に気づきました。
空気消費が多い低音は少し大きめの穴になっていて、
途中から穴が小さくなっており、それに合わせてバルブサイズも変わっています。
元々、小さめの穴とバルブですが中音域からは更に小さくなります。
恐らく、子供が使う教育楽器なので空気消費を抑える為でしょう。
クラビエッタやアコーディナでは大きく開口するので
大人が大音量で演奏できるようになっています。


外装を外したところですが、驚いた事に本体そのものは木製です。
下部の金属ケースと木の本体は金属のクリップだけで留まっています。
ネジを使っていないのは見事です。
クリップで挟んでいない方の淵は単に溝に挟んでいるだけです。
この構造は調律の時に大変貢献します。
鳴らして調律を確認して調整を繰り返す際、簡単に開閉できるからです。
ネジで留めたらとてもやっていられません。


金属クリップを全て外し、合わせ目の隙間をちょっとこじったらケースが空きました。
シール部分は先の鍵盤のバルブ部分と同じ白い樹脂です。
こちらも柔軟性を残しており大変良い状態です。
クラビエッタなどでは大抵シールがダメになっていますので優秀ですね。


密閉部分のケースにはクラビエッタや最初のアコーディナであるBORELの物と同じような
二重底構造が見られます。
これは吹いた息の水蒸気を先に凝縮してリード周りに水滴が
付きにくくなる事を狙っています。

恐らくクラビエッタを参考にしたものと思いますが、決定的な違いがあります。
クラビエッタやアコーディナでは吹いた息は先にバルブ側に入り、
鍵盤を操作した時に開いたバルブからリードへ空気が抜けます。
このピアニカや殆どの鍵盤ハーモニカでは、吹いた息はリードに先に当たり、
リードの後に付いているバルブが開いた時に音が出ます。
この違いは外からは判断しにくいですが、大きな違いがあります。

先にバルブがあって後にリードが来る構造ではリードを密閉部分ではなく
楽器の外に近い部分へ開放状態で取り付けられます。
この事で得られるメリットは多く、音が大きく抜けやすい構造にできたり、
調律で密閉部分の開閉を不要としたり、息の水蒸気が付きにくく、
開放なので自然に乾燥するという点です。

バルブがリードより後になる場合はリードは密閉系の中ですので、
調律は鳴らす時と削る時で毎回分解する必要があります。
息は先にリードに通る為、水蒸気が付きやすく
体温も伝わりやすく温度変化でピッチが変わります。
密閉空間のリードは乾燥せずに湿った状態が続き
腐食の原因になったり、菌が繁殖したりします。

メリットの多い先バルブ方式ですが、鍵盤ハーモニカで採用されないのは
恐らく、特許の関係ではないでしょうか?
本当のところは知りませんが、後バルブ式のメリットは
リードが内側にある事による音へのエフェクト程度でしょうか?
これはデメリットにもなり得るので何とも言えないところです。


リードは幾つかに分かれたプレートに並んでいてクラビエッタやアコーディナのように
独立していません。
リードが折れた時は厄介ですね。
やはり吹いた際の水蒸気でそれなりに腐食しています。
調律のズレが出ている原因にもなっていると思われます。


高音域のリードもリードの先端と元で幅が変わらない形です。
これはバンドネオンのリードに似ています。
先が細くなっていないので弱い息での反応が悪いかも知れません。
これは調整で何とかします。


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