ピアニカの調律 ― 2023/10/24
ヤマハの鍵盤ハーモニカ、ピアニカの調律を承りました。
恐らく元々は子供さんが使っていたのでしょう、鍵盤にシールが貼ってあります。
演奏活動に使うにあたり、調律が他の楽器と合わないという事で
調べてみると、個々の音程の狂いもある程度ありますが、
全体がA=442Hzになっている事が問題である事が分かりました。
他の楽器はA=440Hzで演奏されているようです。
ネジを抜いて最初に分解できたところです。
これは表面のカバーが取れただけなので、この状態で音が出ます。
この状態ではリードは見る事も触る事もできないので更に分解します。
気密になっている部分を開けるとリードが出てきました。
この状態にすると吹いても空気が逃げるので音は出なくなります。
調律の確認で少し吹いただけですが、吹き口に近い低音のリードの
表面には水滴が付いています。
これは呼気中の水蒸気がリード表面で冷やされて出てきた凝縮水です。
この水でリードが錆びないようにリードは銅合金でできています。
ちなみに、アコーディオンのリードはスチール製(鉄)です。
偶々ですが、新品のアコーディナを調整中なので比較してみましょう。
アコーディナの外側のカバーを外したところですが、
既にリードが見えています。
この状態で音が出せますので、鳴らしながら調律を行う事ができます。
アコーディナも呼気の水蒸気が出るのでリードが錆びないように
ステンレスでできています。
この事で銅合金のリードとは違った音色になります。
アコーディナの気密部分を分解したところです。
鍵盤ハーモニカではリードが並んでいるところですが、
気密室の中はボタン操作で開閉するバルブがあるだけです。
この構造が一般的な鍵盤ハーモニカと全く違うところです。
鍵盤ハーモニカは吹いた息がリードに入って、
リードの後にあるバルブを抜けて音が出ます。
なので、気密室を開けないとリードが見えません。
また、その状態では吹いて鳴らす事はできません。
アコーディナは息がバルブを通って最後にリードから抜けます。
なので、リードは本体の外にあります。
この違いは音質や音量への影響が大きいです。
箱の中にリードがある鍵盤ハーモニカは音が小さくなります。
またアコーディオンで言うところのチャンバーのような音になります。
アコーディナは外にリードがあるので、大きくて鋭い音が出ます。
アコーディナを分解したところの拡大ですが、
バルブから入った息は側面のリードから出て行きます。
呼気中の水蒸気はバルブのある箱の所で先に凝縮するので
リードは濡れにくくなっています。
また、リードが外側で外界と繋がっているので乾燥しやすいです。
この構造はメンテナンスでも有利です。
気密室を閉じたままで音が出るので、
吹いて音を確認してすぐにリードを削って音を確認できます。
これは調律する時にとても楽ですが、鍵盤ハーモニカは気密室を閉じないと
音が出ませんので、リードを削った後に蓋を閉めてネジ留めしないと
音程を確認できないので大変です。
このピアニカはリードが1枚のプレートに複数取り付けられています。
アコーディナは1音ずつ分かれているのでリードが折れた時は
1つ交換すれば済みます。
複数リードが載っているピアニカはリードが折れた時は
プレート自体を交換する事になるでしょう。
この楽器は全音域が3枚のプレートに分割されていました。
矢印部分が切れ目です。
上の画像はピアニカの低音部のリードです。
低音を作る為には長いリードが必要になりますが、
楽器のサイズの制限でリードの長さを無制限に長くできないので
途中から先端を重くして低音を作っています。
鍵盤ハーモニカは楽器の幅方向にリードが付いているので長さに余裕があり、
低音のリードも無理なく鳴ります。
アコーディナはリードが楽器の厚さ方向に配置されているので
長さをあまり長くできません。
なので最低音から3つ目位までは発音が悪く、ピッチも安定しません。
これはアコーディナの欠点ですが、
音域は44音あるのでそんなに困る事はありません。
ピアニカの高音部のリードです。
矢印部分がプレートの切れ目です。
アコーディオンやアコーディナのリードはフレームに
リベットで留めてありますが、この楽器はスポット溶接で留めてありました。
安く量産する為でしょう。
リードが折れてもプレート単位で交換するので、
スポット溶接を外す必要はありません。
調律を確認していくと、プレート単位でズレ幅が違っている事が分かりました。
この楽器では低音のプレートに載っている音は比較的正しく、
その他のプレートの音はズレが大きかったです。
リードの調整は見たところ、大体という感じです。
恐らく、調律は何等かの方法で自動で行っていると思います。
安く量産するにはそうするしかないでしょう。
この楽器は敢えて調律を行う訳なので、
リードの調整、音程の調整ともにキッチリ行います。
音程の調整は、何度も気密室の開閉を行う必要があり時間の掛かる作業となります。
リードの調整をきちんと行えば、弱い音が出やすくなり、
強い音で発音しない限界値も上がります。
空気漏れが僅かにあるので確認すると、一番低い音の
リードの下にあるパッキンシールがズレていました。
少しのズレですが修正しておきます。
取り敢えず調律は完了しましたが、まだ終わりではありません。
この楽器は最後にカバーが付くので、このカバーを付けた状態で
音程を確認する必要があります。
実際に使う時の状態にすると、調律がズレる為です。
完成状態で測定してズレがあれば、分解、調整を繰り返します。
鍵盤ハーモニカの調律はきちんとやると大変なのです。
と言っても、
アコーディオンやコンサーティーナ、バンドネオンでも同じ事が起きますが。
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