鍵盤深さの調整2023/10/29

PIERMARIAの鍵盤式アコーディオンの修理を承りました。


一見普通の楽器に見えますが、グリルカバーに違和感があります。


グリルカバーに張ってある網が真っ白で目が開いていません。
網というより布です。


カバーを外して裏から確認すると白い布が張ってある感じです。
恐らく、最初からではなく、後で張り替えられたのだと思います。
端にマイクが付いていますが、この位置に1個だけでは
マイクから近い低音は大きく、高音部は小さな音になるでしょう。
マイク自体も何かから取り外した物のようです、


別の楽器のグリルカバーですが、一般的にはこんな感じの網が張ってあります。
これは開口部から中が丸見えにならないようにするだけではなく、
異物の侵入を防ぐ役割がありますが、
音が抜けやすい素材を選ぶ必要があります。


という訳で、この網に張り替える事になりました。


もう一つ、違和感がある部分があります。
弾いてみるとすぐに分かりますが、鍵盤が異様に浅いです。
測ってみると、2.5mm程度しかありません。
一般的には4~6mmなので、半分程度です。


鍵盤のバルブを見ても異常はないので、
恐らく最初から鍵盤が浅い仕様なのでしょう。


バルブを見ていてまた別の違和感を感じました。
黒鍵のバルブですが、何故かバルブの先に鍵盤からのアームが
5センチ程度、突き出ています。
通常はバルブまでの長さで切断される部分ですが、何故か残っています。
特に役割は無いので楽器の重さを無駄に増やしているだけでしょう。
鍵盤のバネ下加重も増えるのでレスポンスに影響します。
今までにこのような楽器は見た事がありませんが、何か訳があるのでしょうか?


この楽器はイタリア製ですが、鍵盤の固定は一般的なものではありません。
イタリア製のアコーディオンの鍵盤は殆どの場合
2本の軸で全ての鍵盤が串刺し状態で固定されています。
軸が2本なのは黒鍵と白鍵でそれぞれ軸が違うからです。
この楽器は鍵盤一つずつがバネで固定されています。
とても古いイタリア製では時々ありました。
中国製の楽器では今もこの方法です。
この方法は鍵盤の任意の場所を取り外しできます。
串刺し方式は端から順番に抜くしかありませんのでメンテナンス時は
大変になりますが、鍵盤の固定がしっかりしているので
演奏時のフィーリングは良いです。


鍵盤の深さを調整する為に鍵盤を全て外しました。
今回は全て外すので任意の場所で取り外しができる鍵盤の
メリットは無しでした。


鍵盤の端の下の部分にフェルトが貼ってありますが、
鍵盤の端がここに当たる事で鍵盤の深さが決まっています。
このフェルトを薄くすれば鍵盤は深くなります。
貼り換えられた形跡はないのでやはり、
最初から鍵盤が浅い状態の楽器だったという事でしょう。


鍵盤が浅い方が演奏しやすくて良いという人もいますが、
あまりに浅いと弊害が出ます。
鍵盤を押し下げるとシーソーのようにバルブが上がります。
バルブが上がると下にある穴から空気が出入りできるので音が出ます。
鍵盤が浅いとバルブが上がる高さも少なくなります。
バルブが高く上がらないと空気の出入りの抵抗になるので音が弱くなります。
上の画像は鍵盤が浅い時のものですが、バルブは先端は大きく開きますが
後ろになる方は少ししか開きません。
この楽器は4セットリードなのでバルブの下の穴が4つありますが、
バルブの後ろの方の穴はバルブとの隙間が少ないので音が弱くなります。
なので、むやみに鍵盤を浅くすることはできないのです。


鍵盤下のフェルトを剥がしました。
細い方は黒鍵の下のフェルトです。


この楽器には別の問題がまだあります。
鍵盤のバルブに付いているフェルトの接着が弱くなっていて
剥がれてくる状態になっています。
完全に剥がれると音が出たままになりますので、
剥がれないように接着補強を行う事にしました。

少し前に修理したボタン式のPIERMARIAでも同じ事が起きていました。
フェルトも緑色でしたし、同じ時期に製造された物は
同じ問題が出ている可能性が高いです。


鍵盤下のフェルトを貼り換えました。
バルブのリフト量が上がっているのが分かると思います。


全ての鍵盤を戻して作業完了です。


鍵盤の深さは約4ミリになりました。
これでも少し浅めですが、急に大きく変化すると
演奏しづらいと思いますので、ほどほどにしました。


グリルの網も張り替えました。
見た目の違和感は全くなくなりました。


見た目だけではなく、音の抜けも良くなったと思います。
鍵盤のバルブのリフト量も上がったので、更に音が出ていると思います。


この楽器ですが、色々と他と違う作りがある物と思いますが
本体にも特徴がありました。
本体は一般的には木が使われていますが、樹脂の成型品のボディーでした。
厚さも一般的には薄い所で4mm程度ですが、6mmあります。
過去には金属ボディーの楽器など色々な物が作られましたが
今は木が殆どだと思います。


本体が樹脂製だからと思いますが、重さは11.6kgもありました。
この楽器はチャンバーの無い120ベース、MMMLですが、
11.6kgはチャンバーのある楽器の重さに近いです。
一般的には10~11㎏の範囲に入る仕様でしょう。
この楽器の公式に発表されている重さは分かりませんが、
楽器の重さはカタログやウェブ上の表記はあてになりませんので、
重さが気になる方は必ず実測値を確認するようにしましょう。