修理見送り2023/10/01

インターネットオークションで購入したという楽器の
修理の相談を頂きました。
まずは点検、見積りをさせていただきました。


楽器はとても大きな物で、HMML、MLチャンバー、
フリーベースというフル装備の物です。
フリーベースは最近では作られていない、スタンダードベースの奥に
フリーベース専用のボタンが並んでいる物です。
操作時に手を奥まで入れる必要があり、操作が難しいので
現在は切り替え式のコンバーターになっています。

フリーベースのボタンの1つが戻らない事が分かりました。
ベースボタンは一番外側の列から順に分解して行くので、
修理する場合、この位置はかなり分解を進めないと
手を入れる事ができないので、困難な作業になります。


チャンバーのリードを固定している金具です。
固定方法は一般的ですが、ロック機構がとてもユニークな楽器です。
固定金具が衝撃などで解除されないようにネジなどを使って
ロックしている楽器が多いですが、この楽器は接着剤で固定されています。
このような楽器は初めて見ました。


金具部分だけではなく、木枠の端にも接着剤ロックがしてあります。
この楽器は調律や修理でチャンバーの木枠を外す時は
接着剤を破壊するしかないという構造です。


リードを点検すると錆が出ている所がありました。


小さなHリードの高音部分にも錆が出ています。
小さなリードの錆は調律を大きく変えてしまうので影響が大きいです。


これもHリードの高音部の錆です。
この楽器は全体に調律の狂いが大きく出ている感じの音でしたが
原因の一つはリードの錆と言えます。
リードの錆を全て除去した後に全体の調律を行う必要があります。


リードの錆以外にも気になる事があります。
リードを留めているロウの劣化があります。
ロウとリードのフレームとの界面に隙間があります。


小さなリードでもロウ留めの隙間が確認されました。
このリードにはリードフレームのアルミニウムの腐食もあります。


ロウ留めのロウにヒビが入っている箇所もあります。


ロウ留めが完全に割れている所も..


リードがロウ留めから離れて浮いている所もあります。
ロウが劣化して接着力が落ちているのでしょう。

ロウの劣化でリードをきちんと留められていないと
リードフレームが振動してしまい、発音時に雑音が出たり
調律が不安定になります。
この楽器の状態では、全てのリードを木枠から外して
古いロウを取り去った後に新しいロウでリードを留めて行く
作業が必須という判断になります。


ロウの色が途中で変化している木枠があるので、
以前からロウの劣化がある事を把握できていた筈です。

この楽器はとてもリードの数が多いので、楽器として使えるようにする為には
時間と費用がとても掛かります。
今回は修理を行わないという判断となり、楽器をお返ししました。
ネットオークションでは中の状態を詳細に知る事ができません。
全ての音が出ている、というだけでは良品の判断にはなりません。