フランスのアコーディオン2015/09/29

フランス製のアコーディオンの修理を承りました。


maugein という有名なメーカーの物ですが珍しい事に鍵盤式です。
フランスのメーカーの物は殆どの場合、ボタン式です。



ベースボタンですが、まるでフレンチタイプのボタン式
アコーディオンの様なボタンの形状をしています。
フランスのCavagnoloの鍵盤式でも同じ様な特徴がありますが、
後にイタリアで委託生産された物は一般的な鍵盤式のベースボタンです。



フランス製という事で、内部にもイタリア製と違う特徴が見られます。
右手のスイッチからリンクするロッドの部分ですが、板状です。
イタリア製は金属製の円柱で、ネジ部分があり、回転させる事で長さ調整が
できるようになっていますが、この楽器の部品には調整箇所がありません。
ドイツの楽器では同じ様に板状のロッドですが、途中に細くなったS字状の
箇所が作ってあり、この部分を曲げて全長が調整できます。
この楽器は調整が無いので、最初にきちんと位置決めして作れば
後の調整なんて要らない!というフランス的感覚?でしょうか??



スイッチの動きに問題があったので機構を取り外しましたが、
この部分の材質が真鍮です。
フランスのボタン式で、同じ様な作りを見る事があります。
イタリア製は殆どの場合、アルミニウム合金です。



蛇腹と本体の合わせ目ですが、これも特徴があります。
イタリア製は大抵、蛇腹側にパッキンシールがありますが、
これは本体側にあります。
イタリア製でも時々、この作り方があります。



蛇腹のパッキンは交換時期が近いでしょうか?
本体の方に細かい埃が入っていますので、かなり使われた楽器と思います。



ベースリードですが、やはり、フレンチタイプのボタン式と同じように
リードはロウではなくて釘で留めてあります。
これにより、独特の硬質な音が出るのが特徴ですが、
鍵盤式でこのようになっている物は少ないです。

リードバルブには軽微な問題が出ています。


リードの木枠の穴ですが、手作り感が漂っています。
イタリアの楽器ではきちんとした同じ穴が連続しています。
これは一つずつ微妙に形が違うので、手作業の加工でしょう。



リードバルブの上に貼ってある細い押さえの為の部品ですが、
よく見ると「26A,26B」などの文字があります。
これはカメラのフィルムですね。
不用なフィルムを細く切って流用しているのと思いますが、
何となく製造当初からの物のような気がします。
以前にロシアのバヤンでも同じ様に映写用フィルムを使っている事がありました。



偶然でしょうか?
ベースメカニックも前述のバヤンと良く似た構造です。



ベースの手を通すところのベルトは硬化してひび割れています。
これは交換時期ですね。
ヒビが無くても硬くなったベルトは手が痛くなるので交換をお勧めします。



ベースのベルトの調整をするダイアルですが、
取り付けているネジが緩んで浮いています。
ベースのベルトは繰り返しの大きな負荷が何度も掛かりますので、
ダイアルの留めネジや、ベルトを留めているネジが緩みやすいので
時々点検を行う必要がある箇所です。
演奏中に取れると問題が大きいので定期的な点検が必要です。
狭い所に華奢な作りの機構がギッシリ詰まっていますので、
見えている部分でも締めようとするとトラブルの元です。
簡単に見えても行うと難しく、大変気を遣う箇所です。



ベースのベルトが固定されている部分ですが、この楽器は斬新な方法でした。
ベルトの端に穴が2つあり、そこに太くて丈夫な金属棒が通してあるだけです。
本体の穴より金属が長いので引っ張ってもベルトが外れないという構造です。
なので厳密には固定はされていません。


ベルトを外してみると、こんな感じでした。
こういう構造は初めて見ました。
そういえば、フランスのCavagnolo も形は違いますが似た様な発想の方法です。

この部分の固定は一般的には2通りあります。
一つはネジ留めで、もう一つはベルトと本体に付けた金具同士が
チェーンの様にリンクしている構造です。
前述の通り、この部分は案外取り付け、取り外しが難しい箇所で、
狭い事もあり、下手をするとベースメカニックを変形させたり
メカニックの鋭利な部品で手を怪我します。
ベルトを詰める場合や交換はプロに任せる方が宜しいでしょう。
大した費用も時間も掛かりません。
ただ、時にプロでも苦労する箇所で、楽器により難易度が大きく変わります。
不十分な固定の場合、演奏中に外れて続行不能になります。