BeBe Medusa 22022/07/12

中国製Goldencupのボタン式アコーディオンのOEMである
BeBe Medusaの調律を行う事になり、点検に引き続き
調律前の修正作業を行いました。



点検で見つかった、リードの木枠を固定する金具のネジの緩み部分です。
金具は斜めになっているので木枠の固定も良い状態ではないと思います。



緩んでいるネジを締めれば終わり、と思っていましたが..
ちょっと締めたところで簡単に折れてしまいました。
ネジを最後まで締めていなかったのではなくて、
それ以上入らない状況だったのだと思います。
下穴が不十分だったのか、木の節が奥にあったのか、そんなところでしょうか?



一旦金具を外してきちんと取り付けし直す事にしました。
金具を外すと最初に取り付けたと思われるネジ穴が出てきました。
その部分にはベルトを留める金具のナットを付ける穴があって
ネジが有効にならなかったので位置を変えたようです。



ネジの位置を変更した事で金具が水平になっていない事が分りました。



金具を水平にする為に穴を加工します。



ネジが折れた所は折れたネジが残っていてネジを入れられないので位置を変えました。
最初から金具に予備の穴があったのでそれを利用。
リードの木枠3本をきちんと固定する事ができました。



リードの調整を行います。
リードの調整が不十分のため、隙間が音程によってバラバラです。
黄矢印部分は狭く、赤い所は広過ぎです。
この隙間は広くても狭くても問題が出ますので全てのリードに対して調整します。
具体的には弱い音の出始めが遅い、強い音で音が出ないなどです。
この調整を行うと調律が変わりますので必ず調律とセットで行います。
当店では調律の費用の中でリードの調整も含みます。

このような調整不足はイタリア製などのアコーディオンでも見られます。
高価な物でも中国製に近いような場合もあります。
また、これが原因で音が出にくい場合、どんなに弾いても時間が経っても
改善する事はありません。
使っていれば段々良くなるという事はありませんので、
そういうことを言ってその場を誤魔化す所は信用できません。
発音が悪い場合は早いうちに購入店へクレームを出すか
諦めて全体の調律を行うなどした方が良いでしょう。



表に見えているリードだけではなく、裏面にあるリードも調整が必要です。



裏面になっているリードも隙間がバラバラになっています。
これは内側から光を当てて見たところですが
リード先端の光の漏れ具合が均一でない事が分ります。
この方法はリードバルブが貼ってあるリードは光が通らないのでできません。
高音域の小さなリードにはリードバルブは付いていないので
この方法で確認する事ができます。



裏面のリードを調整する場合、木枠から取り外さないとできない場合もあります。
なので不良箇所が多い楽器ではとても時間が掛かります。



音がうまく出ていないリードではリードが偏って取り付けられている事があります。
これも裏から光を当てて見たところですが、リードの周囲の隙間に
偏りがある事が分ります。
このような場合も修正作業を行います。



Goldencupの癖として問題なのが調律によるリードの削り過ぎです。
リードの先を削り過ぎて短くなっている部分が全体の5%程度あります。
何故か裏面側のリードに限定しています。



撮影の露出を調整すると分りやすくなります。
リードの先端が斜めに短くなっています。
この場合、発音の開始が悪くなりますが、直すにはリードを交換するしかありません。
Goldencupの場合、これは楽器の仕様と判断し、交換までは行いません。
リードの調整を行いできる限り、発音を良くする事までで対処しています。
どうしても、という場合は実費でリード交換を検討するということになります。
発音を含め、良い楽器が欲しいという事であれば中国製を選ばないという
選択を検討しなければなりません。
費用を抑えた普及品なので多くを求めても無理な部分があります。

イタリア製などのアコーディオンではこのような事は殆どありません。
中古などで不適切な調律を行った物で見られることはあります。
古いバンドネオンなどでは時々ある事です。
通常の調律ではこのような事はありませんので
調律は何度でも繰り返し行っても問題ありません。



木枠固定金具の修正、リードの隙間調整、リードバルブの修正を行い、
右手側のリードの調整を完了しました。



これはベース側のリードです。
右手側と同様にリードの隙間調整ができていない事が分ります。
ベース側も全てのリードに対して調整を行います。



低音のリードは長さが長くなって行きますが、リードバルブも樹脂ではなく
革製になり、より長いリードでは金属製の細いバネで押さえるようになっています。
このバネは強く押さえ過ぎると発音が悪くなります。
また、水平にリードバルブに沿っている必要があります。
矢印部分のバネは中央が浮いているので修正が必要です。



ぱっと見では単に中央部分が少し曲がっているだけのように見えましたが、
バネの根元を少し持ち上げてみると、実際の湾曲はとても大きく
リードバルブを必要以上に強く押し付けていた事が分ります。
水平に見えるバネでも根元を持ち上げるとこのようになる部分もあるので要注意です。
バネも全て点検し、必要があれば修正します。



Goldencupのもう一つの癖ですが、革製のリードバルブの品質が悪く
全体の30~50%は最初から反っていて問題が出ます。
表側の修正は簡単ですが内側は取り外して行うしかありません。
これも時間が掛かる作業になります。



樹脂製のリードバルブでも問題はあります。
内側に貼ってあるリードバルブが長過ぎて木枠の内側の壁に当たっています。
イタリアの安いコンサーティーナでもよくある事例です。
このままでは問題が出るので先端を短くします。
これは樹脂だけではなく革の物でも起きる問題です。



リードバルブの先端を切りました。



ベース側も木枠を留めている金具に問題がありました。
木枠をベストな位置に調整しなおすと金具の調整範囲を超えてしまうので
穴を延長する必要が出てきました。



金具の穴を広げる作業を行いました。



これで全てのリード周りの修理は完了しました。
この後は調律ですが、他の問題もあるので少し修正が必要です。
つづきは次回。