アコーディナ 3種2020/06/09

フランスからアコーディナ(Accordina)が入荷しました。
入荷した物と以前からある在庫で3種類揃いました。



アコーディナは1930年に考案され、1950年頃から1970年半ばまで製造販売された
楽器で、鍵盤ハーモニカの操作部分をボタン式にしたような楽器です。

鍵盤ハーモニカと同じ原理で発音する楽器ですが構造に違いがあります。
鍵盤ハーモニカは吹き込んだ息が楽器内部の空間に入り、そこにあるリードに達します。
リードの反対側に鍵盤を押すと開くバルブがあり、
マウスピース→リード→バルブ→排気という順を辿ります。

アコーディナの場合、吹き込んだ息は閉じた多数のバルブのある空間に入ります。
順番としては、マウスピース→バルブ→リード→排気という事になります。
これと同じ構造の鍵盤ハーモニカとしてオリジナルのアコーディナと同時期に生産された
クラヴィエッタ(Clavietta)があります。

アコーディナの構造では良い点が幾つかあります。
吹き込んだ息は楽器内で冷やされて結露しますが、鍵盤ハーモニカでは
最初に全てのリードが露出する空間に息が入るのでリードが結露水に晒されます。
アコーディナではバルブの後にリードがあるので結露水がリードに付きにくいです。
結露水がリードに付くと音程や発音が不安定になったり、リードの腐食や
汚れの原因になります。

その他、リードが楽器の外に出ているアコーディナでは、音が大きく出る、
調律やリード交換がしやすい、リードが乾燥しやすいというメリットがあります。
リードが内部の空間にある鍵盤ハーモニカでは結露水がいつまでもリードに残ったり、
楽器の内側にリードがあるので明るいシャープな音が出にくいというデメリットがあります。
調律では発音のために楽器を閉める、調整のために楽器を開ける、
を何度も繰り返さなければなりませんし、リードが折れた場合も交換のために
楽器を開ける必要があります。
と、色々な点で良い部分があるアコーディナですが、他にも特徴があります。

操作はボタン式アコーディオンと同じ配列なのでボタン式アコーディオン奏者が
持ち替えて演奏する事も多いです。
有名なところでは、アコーディオン奏者のリシャールガリアーノ、日本では
桑山哲也さんがアコーディナのプレイヤーとしては有名です。
ボタン式とする事で鍵盤ハーモニカよりも小さなサイズで広い音域を確保しています。
アコーディナは長さが30~33cmとコンパクトですが44音の音域があります。
例えばヤマハのピアニカの37鍵盤では48cmもあります。

音はハーモニカや鍵盤ハーモニカと似た感じで、息でコントロールする部分も似ています。
鍵盤ハーモニカとの違いは先述の通りですが、ハーモニカとの比較はどうでしょうか?
コンパクトさでは太刀打ちできませんが、任意の和音を演奏できる、広い音域がある、
半音も簡単に出せる、速い動きのメロディーも演奏可能という点で優れています。
クロマチックハーモニカでは半音も出せますが、吹く、吸うという操作に加え、
レバーの開閉が加わるので速い動きでは限界がありますし、任意の和音は作れません。
アコーディナは鍵盤ハーモニカよりもコンパクトで、ハーモニカより高度な演奏が
容易であるという特徴があると思います。
勿論、楽器にはそれぞれ特徴があり、単純な優劣で全てを判断できないのは
言うまでもありません。

アコーディナの欠点としては、重さでしょうか。
大体1.2kgの重さがあります。
鍵盤ハーモニカでは37鍵盤で800g程度、ハーモニカは更に小型軽量です。
片手で支えて演奏しなければいけないので1.2kgは少し負担ですが
演奏姿勢を工夫する事で負担を軽減できます。
この重さは実はメリットでもあり、高音から低音まで安定した響きを作るために
必用な重さという事になっています。
軽く作ることもできますが楽器として問題が出てくるので敢えて重くなっています。
最近は少し小型軽量化された楽器として1kg程度の物もリリースされました。

それでも子供が使う事も想定された鍵盤ハーモニカよりは重いですね。
それよりも最大の欠点は恐らく、価格と思います。
これは楽器としてきちんとした物であり、数が出ない手作りの物なので
仕方ない部分でしょう。


こちらは今回入荷したJoseph Carrel というメーカーの物です。

Joseph Carrel のアコーディナの特徴はとても柔らかい丸みのある音がする部分です。
その分、もう一つのメーカー Marcel Dreux と比較すると音量は控え目です。
マウスピースは手で取り外す事はできず、横向きのみです。
ボタンはアコーディオンの物を流用し、側面に木が付けてあるので
見た目の高級感があります。
長さはMarcel Dreuxよりも3cm程度長いですが重さはMarcelの物と殆ど同じです。

アコーディオンのように縦位置でベルトで背負うモデルもあります。

個人的にはやっぱり横向きで直接吹く方がカッコいいと思いますが..


こちらは在庫しているMarcel Dreuxというメーカーの物です。
今年で創業20周年になるということで、精力的に新商品を出しています。

Marcel Dreux は非常にシャープで力強い音が出ます。
マウスピースはオリジナルのアコーディナに近い扁平な物以外に
パイプ状の物に付け替えたり鍵盤ハーモニカのように縦位置につけることもできます。


こちらは同じくMarcel Dreuxの物ですが外装が木になっています。
木の外装で側面に開口部が無いので手前の金属外装の物より少し柔らかい音が出ます。
それでもJoseph Carrelよりは明るく強い音です。

このモデルでもマウスピースは付け替えできますが三角形の短いタイプだと
楽器の横幅が広いので吹いた時に鼻が楽器に当たってしまいます。
なのでパイプ状の長い物を使うか、縦位置に付けることになります。


3種類のアコーディナを縦側面を見たところです。
楽器の幅の違いが分かると思います。

在庫している物は試奏して比較する事ができます。
沢山の在庫は持たないので、3つを比較できる時は案外少ないです。

アコーディナもアコーディオンと同様に整備、調律を行い、保障を付けてお渡ししています。
どちらのメーカーのアコーディナも初期は発音が悪く、かなりの時間をかけて調整し
最終的には全てのリードを調律しなおしてお渡ししています。

在庫していない機種も沢山あります。
在庫のないモデルはメーカーに発注する事も可能です。
アコーディナは良い特徴が沢山ある面白い楽器です。
実は一番の特徴は奏者が少ないことかも知れません。
なので奏者になればとても目立てます。

ベースレジスターの改造2020/06/15

調律でお預かりしているアコーディオンのベースレジスターの改造を行いました。
レジスターというのは音の切り替えをするスイッチの事です。
右手側にもありますが、ベース側には無い機種もあります。


これはアコーディオンのベース側の中です。
1オクターブ、12音のリードが付いた木枠が3列並んでいます。
ちなみに、楽器はEXCELSIOR911です。


ベースリードを真横から見た状態です。
3列ある木枠ですが右から2列は両面にリードが付いていますので
実際には5列のリード列があります。
楽器によっては4列の物もあります。
画像に白い数字を1~5まで入れました。
1→5の順番で音域が高くなっています。
音程が低いリードは長いので木枠の高さも高くなっています。


木枠を2列取り外したところです。
木枠の下には穴が空いていて穴の下にはバルブがあります。
ベースボタンを押すとバルブが開いてその部分から空気が出入りし、
その真上にあるリードの音が鳴るというしくみです。
コードボタンでは3箇所の穴が開いて3重和音が出ます。
ちなみに、コードの音は高い方から3番目までのリード列だけが鳴るようになっています。


この楽器にはベースレジスターが4つ付いています。
一番左端のレジスターを押すとこのようになります。
5列ある穴の2箇所だけ開いて3箇所は閉じています。
黒く見えている所が開いていて、シルバーの所はアルミニウムの板で
ふさがれていて、下にあるバルブが開いても空気は通りません。
なので穴の空いている列のリードだけが鳴ります。
この場合、左端の数字から1と3のリード列だけが鳴ります。
1は一番低音の列で、3は真ん中の音域です。


次は左端から2番目のレジスターを押したところです。
このスイッチには触って分かるように丸い凸の印が付いていて、
マスタースイッチと呼ばれる物です。
マスタースイッチは全てのリード列が鳴るレジスターです。
なので1~5までの全ての穴が開いています。
ベースボタンを1つ押すと5つのオクターブ違いの同音が鳴るということです。
実際には3の列は上下のオクターブにまたがっていますので
4オクターブ分の同音が重なります。


左から3番目のレジスターを押した場合です。
2と4のリード列が鳴るようになっています。


最後の4つ目のレジスターを押した場合です。
4と5のリード列が鳴る組み合わせです。
5は一番高い列なので4、5では右手の音域と同じ位の音程の
ベース音が鳴るということです。


ベースレジスターと鳴るリード列を図にしました。
黒い●は鳴るリード列です。
音域は4オクターブで、真ん中に上下にまたがっているリード列があります。
この図を見るとよく分かりますが、この楽器ではマスター以外のスイッチでは
2列のリードだけが鳴るようになっています。

実際、アコーディオンの演奏でベース側を伴奏として使う場合、
右手の音域と重なると伴奏がうるさくなってしまいます。
右の音を邪魔しないで伴奏としての迫力を出す場合、
低音から3つ目までのリード列を鳴らしたい場合が多いです。
また、マスターは5列鳴ってうるさいので一般的には使えません。
一番高音の列をカットした4列の音が欲しいところです。


という訳で、この図は改造案です。
実際、ベースの低音から3列や4列の組み合わせは使う頻度が高く、
一般的にはこの組み合わせを持っている楽器は多いです。
何故かEXCELSIORはマスター以外は2列構成という機種が多いです。

ベースレジスターが8個もあってリード列が6本もある
EXCELSIORの高級機、コンチネンタルでもマスター以外は2列のみです。
以前にもこの事はブログで書いた事があります。


ベースレジスターの改造作業を開始しました。
レジスターの機構部品は繊細ですが大きな力も加わる場所なので
改造は簡単ではありません。


部品を外すと変形している物が見つかりました。
これはレジスターを2つ以上同時に強く押した場合に起きることがあります。
意図して2つを同時に押す人はいないと思いますが、
ベースレジスターは側面に飛び出ているので、
ソフトケースに入れた状態で何かにぶつかったり、
置いた楽器が倒れた時などに同時押しの状態になって不具合が出る事例があります。
今回は改造でバラす事で不具合がみつかりました。
変形を修正する事でレジスターの動きが以前よりスムースになると思います。


改造後の確認です。
一番左端のレジスターを押すと低音から3列が選択されました。


マスタースイッチは一番高い音が鳴らない組み合わせになりました。
マスターが無いのは何となく大丈夫か?という気になりますが
通常、5列全部鳴らすことはありませんので、4列に改造する方が実用的です。

ベースレジスターは(右のレジスターも)、組み合わせの変更が可能です。
機種によってはできない場合もありますが組み替えることで
より使いやすい楽器になる場合もあります。
ご興味ございます方は是非、お問い合わせください。
ベースレジスターがどういう状態になっているか分からないというご相談も承ります。


修理断念2020/06/22

古い日本製のアコーディオンの修理を承りました。
34鍵盤のMMの楽器で製造から40~50年程度経過した物です。
修理の前に点検と見積りをさせていただきました。


楽器の外観は酷くはありませんでしたが内部はこの通りです。
リードに貼ってある薄い革製のリードバルブという部品は硬化と反りが出ています。
このままでは綺麗な音が出ませんので全ての部品を貼り替える必要があります。
この部品は画像では見えていないリードの裏側にもありますので
見えている部分の倍の数があり、交換の作業は時間を要します。


リードバルブの交換と調律で済めばまだ再生できる可能性ありますが、
致命傷となる問題が見つかりました。
リードを木枠に留めているロウが劣化して脆くなっています。
ヒビが入っているのが分かると思いますが、リードの固定ができていないので
音にノイズが混ざったり調律が安定しません。

楽器として使えるようにするにはリードを全て木枠から取り外し、
古いロウを綺麗に取り去った後に新しいロウで木枠に固定する作業が必要です。
これには多大な時間が必要となりますので費用が高額になります。
楽器の価値に対して修理費用が掛かり過ぎるため、修理はしない事になりました。
楽器の価値は単純に物としての価値だけではありませんので、
このような状況でも場合によっては費用をかけて修理する事は可能です。

今回は新品で購入した物が年月を経て古くなったという事ですので
仕方がありませんが、古い中古楽器をオークションなどで手に入れた場合、
同様の事態が起きる事はよくあります。
1万円で買った物でも修理せずに捨てる事になれば損失です。
きちんとした音が出ていない事に気づかずに使い続けるのは
出費よりも大きな損失となります。


バルブ材交換2020/06/23

中古楽器の整備をしています。
この中古はそんなに古くないEXCELSIOR911ですが、
何故か鍵盤もベースもバルブの張り付きが起きているため、
全てのバルブ材を交換する必要があります。

バルブの張り付きとは、鍵盤やベースボタンを押すときに、普通に演奏する力で
押す事ができず、少し強めに力を入れると押す事ができるという不具合です。
原因は鍵盤やボタンの操作で開閉するバルブに貼ってある皮の表面に
粘着物が出てきて本体側と張り付いてしまう事です。
一度、操作すると直後は普通に操作でき、時間が経つとまた張り付くというのが
典型的な症状ですが、酷い場合には全く押す事ができないような事もあります。

先日は右手側のバルブ材を全て交換しましたが、今日はベース側です。
ベースのバルブは複雑な構造のベースメカニックの下にあるので、
殆ど全ての部品を取り外さないと手を入れる事ができません。
画像は部品を取り出してバルブも外して並べてあるところです。
楽器は箱だけの空っぽ状態ですが、ここまでやると気持ちよいです。
ここから張替えをして部品を戻すのが大変な作業ですが..

バルブ材を全て交換すると鍵盤を離した際の音が小さくなりますし、
部品を戻して組み立てる時に細かい部分の清掃、調整ができるので
新品同様の操作感と寿命が得られます。
という訳で、この中古品は外観もとても良いので
新品より安くて新品のような良い物が手に入ります。
ベルトは勿論、ベースのバンド、蛇腹留め、胸当ても全て新品に交換します。

中古楽器の情報はこちらです。

還元終了します2020/06/26


キャッシュレス・ポイント還元事業が2020年6月30日(火)をもって終了します。
当店の場合、クレジットカードをご利用の場合、5%が還元されるというものです。
まだ間に合いますのでこの機会に是非!