落下修理2020/07/24

落下させてしまったアコーディオンの修理を承りました。

ベースボタンの殆どが落ち込んでいて周囲の板の部分が湾曲しています。
単にボタンが落ちただけの場合は簡単に直る事が多いですが
このような状態では簡単ではないことがすぐに分かります。


ベースの裏蓋を開けてみました。
ボタンの殆どが板の下に入っていて幾つかのボタンは
元の穴に戻れずに板を押し上げて湾曲させているようです。


dimと7thの和音のボタン40個を抜き取りました。
まだ問題が残っている感じです。


和音のボタンを全て抜き取りました。
この段階でもまだ問題が残っています。


結局、ベースボタン120個全て外しました。
板の湾曲が少し残っています。
幸い、バルブや他のベースメカニックに異常はなさそうです。


ボタンがなくなって色々な所がよく見えてくると別な異常が見える事があります。
ベースストラップを留めているネジの1本が無い事が分かりました。
ネジやワッシャーは見つからないので落下とは無関係に
以前から抜けていたものと思います。


ベースボタン周りの板を外しました。
少し湾曲しています。


この部分は汚れやすいですがボタンがあるので掃除しにくい場所でもあります。
外しついでに磨く事にしました。


磨いた後です。
それなりに白さを取り戻しました。


湾曲していた部分も修正しました。


ベースボタンを戻す前にストラップのネジも締めました。


外した時と逆の順番でボタンを戻して行きます。
この楽器はイタリアのきちんとした楽器なのでベースの組み立ては
ボタンを一つずつ戻すしかありません。
少し前に書きましたが全てのメカニックを一度に取り出せる楽器もあります。

今回のような大きなダメージがある場合は案外、
ひとまとめになった物よりも一つずつ組み立てるタイプの方が
修理がうまく行く事が多いです。


全てのボタンを戻しました。
楽器を元に戻してテストしましたが問題はありませんでした。
落下による故障のわりには軽症で済んだようです。


楽器を落下させてしまった原因ですが、ソフトケースのベルト破損によるものです。
ケースに楽器を入れて持ち上げようとした時にベルトが切れて落下するという事例です。
この事例は時々ありますが、このケースの場合は経年劣化で革のベルトが切れました。
ソフトケースは消耗品ですので古くなった場合はベルトの部分を点検して
亀裂がある場合は交換するようにしてください。
これはケースだけではなく、背負いベルトも同じです。


経年劣化と関係なく、ソフトケースの問題による落下事故があります。
この画像のような金属でベルトを留めているケースはとても危険です。
ベルトの金属部品が割れて楽器を落とす事があります。
これは経年と無関係で、金属部品中の欠陥により強度が落ちている事が原因です。
金属は一見、強そうに見えますが鋳造で作られた部品は欠陥が入って
脆くなる場合があり割れてしまう事があります。
このタイプのケースを使っている方は買い換えるか、
ベルトを繋いでいるところに別の丈夫なループをかけて2重にしてください。
できれば使わない方が安全です。


もう一つ別のタイプですが、これはケースのベルト連結部分が繊維強化樹脂の物です。
やはり樹脂製は無理があります。
昨年末にこのタイプの連結部破損で落下させてしまった楽器の修理をしましたが
落下した時の高さがあったので酷く損傷し、修理にとても時間が掛かりました。
ベルトの連結が金属や樹脂のケースは危険ですので、
ベルトが縫い付けてある物をお勧めします。
縫い付けの場合、一瞬で外れることは余程ありません。
それでも使っていれば傷みますのでいつも点検しておく事が大事です。

アコーディオンは落下させるととても大きなダメージを受けます。
外観の修復は難しい場合がありますし、チャンバーの付いた楽器などでは
修理不能になる場合もあります。
ソフトケース、ベルト類はいつも注意して早めに交換する事で
落下事故を防ぐ事ができます。