鍵盤の下2020/08/05

調律と併せて鍵盤の動作不良の修理を承りました。
またカビ臭がするので見て欲しいということでした。
アコーディオンは湿度が高い時期に演奏しないで放置するとカビが出ることがあります。
大抵の場合、蛇腹の内側にカビが出るのですが、点検してもカビらしいものは
みつかりませんでした。


一番低いソの鍵盤の動きが悪いということで鍵盤を外しました。
低価格なアコーディオン以外では鍵盤は心棒で支えられていますので
一つの鍵盤を外すためには心棒を抜いて行き、
該当箇所まで順番に外して行く必要があります。
心棒を抜いて行くと低音側から順番に外れます。
今回は低いソで2本目なので簡単です。
ただ、不具合の原因を確認する為にラまでは抜く必要がありますね。
それで、鍵盤を外すと意外な物が..


鍵盤の下になる部分に白い綿状の物がありました。
カビです。
カビ臭の原因はここにあったのです。
鍵盤の不具合がなければ見つけることはできませんでした。
原因が見つけられたので一安心。


という訳で鍵盤は全て外す事にしました。
この楽器は41鍵盤、チャンバーの楽器なので少し大変です。


鍵盤の下の部分で一番汚れる部分は演奏時に下になる高音部です。
ここでも白いカビと思われる物と沢山の埃がありました。
この楽器は古い物ではありませんがそれでも埃が溜まります。

古い中古楽器でメンテナンスもされていない物はとても汚れています。
カビは演奏する事で胞子が飛び散るので健康被害が出る事もあります。
オークションで購入した古い楽器はキケンな物かも知れません。


鍵盤下の部分を清掃しました。


鍵盤自体にも埃が付いていますので清掃して組み付けます。


鍵盤を高音側から順番にはめて行きます。
バルブなど点検しながら組み付けて行きますが、小さな不具合が見つかりました。
バルブに小さな木のかけらが挟まっていました。
微小な空気漏れの原因となりますので取り除いて戻しました。

アコーディオンは小さな部品の集合体なので様々な小さな問題が出てきます。
新品の時から元々ある不具合も多いです。
当店では新品でも可能な限り不具合を見つけてなくすようにしています。

キャッシュレス2020/08/08

monte accordionでは従来からクレジットカードによるお支払いができましたが、
新たに幾つかのお支払い方法に対応できるようになりました。
クレジットカードではお持ちのカードで可能な分割払いなど
各種お支払い方法に対応しています。


本当のフレンチ2020/08/14

フランスのアコーディオンメーカー Maugein(モジャン)から
フレンチタイプのアコーディオンが2台届きました。

ライトブルーのメタリックで塗装された美しい楽器です。
右手49音、リードセットMM、ベースは80です。
小型軽量ですが鍵盤式の大型の41音を超える音域です。
音域はEからEなので41鍵盤より下は半音1つ分低音から始まり、
高音は、A#,B,C,C#,D,D#,Eの7音多く出ます。
MMの楽器ですが41鍵盤のHリードの音域の半分以上が出せます。


こちらは昨年にも入荷したオリーブグリーンのメタリックです。
外観以外の仕様はライトブルーと同じです。
ちなみに、ベースは80ボタンですが押し方の工夫でdimの和音も出ます。
なので96ベースと同じように使えます。
フレンチタイプではないボタン式や、鍵盤式の80ベースや60ベースでは
押し方を工夫してもdimが出せない楽器もあります。
これは7thの和音構成に違いがある為です。


ライトブルーのボディーは水色というよりは少し濃い感じのメタリックです。
ボタンはミラータイプ、グリルはクロームメッキ。
この2つは費用割り増しのオプションですがやはり、
見た目が大事なフレンチボタンには外せないポイントです。


ベースボタンもミラータイプです。
フレンチタイプのボタン式の特徴であるキノコ型ベースボタン。
ボタンの下の板が階段状になっている部分もフレンチならでは。


蛇腹の中も凝っています。
青、緑、ピンクが並んだ花柄模様です。


蛇腹の下部は青系でピンクを混ぜながら上に向かってグリーン、イエロー系に
変化していくグラデーション的な効果もあるデザインです。


こちらは少しレトロな感じがあるオリーブグリーンのメタリックです。
案外珍しい緑系のアコーディオン。
緑系は野暮ったくなりがちですが中間色+メタリックで
飽きの来ない色調となっています。


ベースボタンもブルーと同じ仕様になっています。
この楽器は厚さがさほどありませんので一般的なアコーディオンと同じような
形状ですが、フレンチタイプに特徴的な厚さがある機種では
階段状の部分の角度がきつくなっており、厚さがあっても弾きやすいように
工夫されています。
この事はあまり知られていないと思いますが実際に色々な楽器を持って
演奏してみるとよく分かります。


こちらの機種の蛇腹内のデザインです。
レトロな色調に合わせて少し落ち着いたデザインです。


蛇腹の中のデザインはパリをモチーフとしています。
エッフェル塔、自転車、蝶、カバン、ハート、切手の消印などがデザインされていて
旅がテーマのような感じもあります。


さて、ブログタイトルに「本当のフレンチ」とありますが、
これはフランス製のフレンチタイプボタンアコーディオンだからという訳ではありません。
イタリア製でもきちんとフレンチタイプの特徴を持った良い楽器は沢山あります。

フレンチタイプの特徴は、楽器の縦が短く厚さが厚い、ボタンは小さめで間隔が狭く
塗り分けていない、音の切り替えスイッチが裏面にある、ベースボタンがキノコ型で
階段状の板になっている、蛇腹留めが無い..等々ありますが、
楽器として一番の特徴はリードが木枠に釘で留められていることによる、
一般的なロウ留めのリードのアコーディオンとは違うシャープで明るい音色です。
逆に言うと、そういう作りになっていない楽器は見た目だけの楽器とも言えます。

この楽器は上の画像を見ていただければ分かりますが釘留めのリードです。
また、小さな楽器ですがイタリア製の高級ハンドメイドリードです。
なのでアコーディオンとしての発音は最高の物になっており、
きちんとフレンチタイプの特徴を持った音の楽器になっています。


この画像は一般的なロウ留めのリードです。
フレンチタイプのボタン式の外観を持った楽器でも40~60万円程度で売られている物は
標準リードをロウ留めした物が殆どです。
安くはない金額ですが肝心な部分がフレンチタイプと異なっているのでは
勿体無い買い物と思います。
見た目がフレンチで音はソフトな物が好みという方には良いかも知れません。
フレンチタイプのボタン式を検討する場合、この事は知っておく必要があります。

因みに、鍵盤式でも釘留めリードを用いてフレンチタイプのようなシャープな音を
得ている楽器もあります。
cobaさんが使っていて有名なCavagnoloがその代表格ですが、
当店で扱っているCooperfisaでは全てのモデルで釘留めを選択する事ができます。

鍵盤式の楽器で時にロウ留めリードに釘も打ってある楽器がありますが
釘留めの楽器の釘よりもずっと短く、大抵の場合リード1つに1つか2つしか
打っていませんので、音としてはロウ留めと変わりません。
恐らく、ロウ留めの作業の時にリードを仮止めする目的で釘で留めていると思います。


鍵盤式のアコーディオンや、インターナショナルのボタン式より厚さがあると言われる
フレンチタイプのアコーディオンですが、この機種はMMなので19cm以内で
一般的な楽器と比べてそんなに厚くはありません。
見ての通り、楽器の中には余白がかなりありますが必要以上に薄くは作りません。
この理由は色々ありますが長くなるのでまたの機会にいたします。


こちらは偶々修理に来ていた34鍵盤のMMLの楽器ですが、
厚さは17.5cm程度です。
確かに鍵盤式の方が薄いですね。
19cmは鍵盤式のHMML程度の厚さになります。


Maugeinは楽器の軽さでも定評があります。
この楽器はMMですが49音あります。
楽器の重さは7.0kgなので34鍵盤の楽器よりずっと軽量です。


こちらは在庫しているオレンジメタリックの同じ機種です。
詳細は下記リンク先をご覧下さい。


今なら3色揃っています!
フランス製の「本当のフレンチ」はいかがですか?
価格に見合った満足の行く楽器と思います。
調律はお好みに合わせて調整してからのお渡しなりますので
クラシックな派手系ミュゼット音からモダンな落ち着いたミュゼットの音まで
自由に決めることができます。


コンサーティーナの調律2020/08/23

コンサーティーナの調律を承りました。


押し引き同音のクロマチック式で、音域はかなりあります。
そこそこ古い物のようですがあまり問題は無さそうです。


コンサーティーナは六角形で各辺にネジがあり、
蛇腹部分とボタンのある蓋部分を固定しています。
この楽器はきちんとしたコンサーティーナなので本体側の雌ネジに
金属製の受けがあり耐久性があります。
安い物の場合、木ネジみたいなネジで、
本体側は木に穴が空いただけというものもあります。
それなりに強く締めないと空気漏れしますし、
コンサーティーナの調律では蓋をしてネジを締めると狂いが出るので
調律作業では何度もネジを緩めたり締めたりします。
そういう場合、木ネジ方式ではすぐに傷みがでてしまいます。

木ネジ式では固く締まる事もあり、慣れないユーザーが開閉すると
ネジの頭の溝を壊してしまうこともあります。
そういう状態で調律に来ると交換する同じネジもないので大変困ります。


蓋を開けて内部を点検するとリードに錆が出ている事が分かりました。
これは少し大変なことになりそうです。
錆があると調律が狂うだけではなく、すぐに調律が変化して安定しません。
なので調律する前に錆を除去する必要が生じます。


調律を繰り返されてきた物なのかリードが薄くなっている箇所もあります。
きちんと教育を受け経験のある人が調律する場合、
余程調律を繰り返してもリードが極端に消耗する事はありません。
普通に使っている楽器で定期的な調律をするのであれば何度やっても
問題が出るようなことはありません。

慣れない人による調律を受けたり、基準となる調律のピッチを
大きく変更するような調律を何度か繰り返した場合に
リードが薄くなってしまうことがあります。
アコーディオンではあまり見られませんが
経験的にコンサーティーナやバンドネオンでこのような事が
多く見られる感じがします。


薄くなったリードを外してみましたが、薄いだけではなくて変形も
しているので不慣れな方が調律したのかも知れません。
ちなみに、当店での調律作業は私、店主以外の者が行う事はありません。
念のため..


消耗したリードの裏側ですが少し錆が出ています。
先端が薄くなってきていますがまだ使えそうなので
今回はこのまま使う事にします。


錆びたリードの画像です。
両面共に錆が出ています。
一つずつ手作業で錆を除去しますが、このコンサーティーナは
本格的な物ですので、このようにリードを簡単に取り外す事ができます。
なので、アコーディオンリードを使ったコンサーティーナや
アコーディオンの錆除去作業よりもかなり短時間で作業できます。
アコーディオンリードの楽器の場合はリードをロウで留めていますので
一旦ロウを溶かしてリードを取り外し、錆を取った後に
ロウで接着する作業が必要になる為です。

この楽器のように専用のリードを使っているコンサーティーナでは
本体側に薄い皮のリードバルブが付いているのでリードにバルブが
ありません。この事も錆除去作業を簡易にしています。
アコーディオンリードの場合はリードにバルブが貼ってあるので
錆を取る為にバルブを剥がし、貼りなおす作業が必要になります。


という訳で、こちらから順番に錆の除去とリードの調整を
一つずつ行って行きます。


片面が終わると反対面です。
こちらの面はオウムガイの断面みたいですね..
リードは片方からの空気の流れで鳴るように調整されているので
蛇腹の押し引きで鳴るように表裏2面に付いています。
なのでボタンの数の倍のリードがあります。


そして...右手側の両面が終わったら今度は左手側です。
小さな楽器ですがリードの数は100を超えます。
錆の除去とリードの調整が全て終わってやっと調律作業に入れます。
アコーディオン類の楽器は色々大変なのです。


Claviola2020/08/25

Claviola(クラビオーラ)という珍しい楽器の修理を承りました。

Claviolaは以前にドイツHOHNER社が作っていた息を使う
鍵盤ハーモニカに類似した楽器です。
息を吹き込んで鍵盤を操作して鳴らす物で、
音は笛というかクラリネットのような丸みのある独特な音です。
音色や楽器の形状から鈴木楽器の「アンデス」と類似の楽器と思う方も
いると思いますが、発音の原理が全く違っています。

アンデスは複数の笛を鍵盤で選択する楽器で、発音は笛(リコーダー)ですが、
クラビオーラはリードを使っています。
鍵盤で操作して息を吹き込み金属リードを鳴らすという部分までは
鍵盤ハーモニカと同じですがリードの後には音程に合わせた長さの
共鳴管が付いていて独特な音が出ます。
原理としてはクラリネットに近いと思います。
音はアンデスと似た部分がありますが、アンデスは笛の特徴である
風切りのノイズが少し混ざるのに対して、クラビオーラはクリアな音です。

今回の不具合は上の画像の付箋の貼ってある鍵盤の音が
ノイズ混ざりになってきちんと発音しなくなった事です。


幾つかのネジを外すと中が見えてきます。
空気が入る気密部分は透明なアクリル板の蓋になっています。
沢山のネジで留めてある透明な蓋を外すと
鍵盤操作で開閉するバルブが出てきます。


異常のある個所のバルブを外すとリードが見えました。
間違いなく金属リードで発音する楽器という事が分かります。
息で鳴らす楽器なので錆びにくい銅合金のリードです。

リードをよく観察すると僅かにズレがあり、リードとリードフレームが
干渉して発音に問題が出ている事が分かりました。
ちょっと狭くて深い場所ですが、これ以上の分解をせずに直すため、
金属の細い道具でなんとか位置を修正しました。


楽器を元に戻して試奏してみると異常は直って綺麗な音が出ました。
でもちょっと不安なので暫く吹き続けているとまた不具合が再発しました。
予感的中です。
なので再び分解することに。

分解すると透明な蓋の内側には水蒸気が沢山付いていました。
透明だと中の状態がよく分かって面白いですね。
鍵盤ハーモニカなどもこんな感じで息が結露しているのだと分かります。
ちなみに、当店ではアコーディナという息を使う楽器の販売や修理をしていますが、
販売する物、修理した物についてはしっかりと洗浄、消毒をしてお渡ししています。
これは新型コロナ流行の以前からずっとそのようにしています。


分解を進め、気密室、バルブを取り去るとリードがしっかりと見えてきました。
リードには音名がドイツ語で書いてあります。


シリコーンのパッキンを取るとようやくリードの全貌が見えます。
ここで意外な発見。
この楽器のリードの向きですが、一般のアコーディオンやハーモニカと逆向きです。
通常、鳴らない面から空気を送っているのですが何故か鳴ります。
リード単体では鳴りませんが共鳴管が付くと鳴るようです。

ここで以前から気になっていた事が思い出されます。
アコーディオンなどのリードは逆向きでは鳴らないように調整しているだけで
調整すれば逆向きでも鳴ることは経験的に知っています。
ですが、ネットでアコーディオンのWikipediaを見ると、
「フリーリードの1枚のリードは一方からの通気でしか発音しないため、」
という一節があり、以前から自分の中で引っ掛かっていました。
明らかにこの一節は不要です。
まあ、ネットなんて誰でも好き勝手に発言できるところなので
書いてある事に信憑性を求めること自体が不要なのかも知れません。
実際、アコーディオンの修理や練習方法などについて???な事は
山ほど見かけますので..


クラビオーラのリードですが接着剤で留められています。


接着を取ってようやくリード単体を取り出せました。
リードの修正と固定を行い元に戻して修理完了です。


修理したクラビオーラの共鳴管部分です。
リードには調律の痕が全くありませんでしたので、共鳴管の長さで調律しているようです。
金属の蓋が共鳴管に付いていてネジ留めされていますが位置の調整ができます。
この位置調整で調律するものと思いますが、不用意にずれないようにネジ留めと
併せて接着剤で留められています。

この不思議な楽器は今は作られていません。
持っている方は貴重な物になるので大事に使う事をおすすめします。
ためしに吸ってみると音が出ました。
フリーリードは一方からの空気だけで音が出るという規定はありません。