イタリア製コンサーティーナの調律2022/09/10

イタリア製コンサーティーナの調律を承りました。


イタリア製ですが日本でも購入できる低価格な普及機です。
低価格な量産品故に調整は大体という感じなので
発音が悪い箇所や音程のズレなどが目立つ物です。
特に近年の物は状態が悪いですが、この楽器は少し以前の物なので
とても酷いという感じはありません。


アコーディオン用のリードを使っている楽器です。
面白いのはリードが2階建てになっているところです。
場所を大きく使ってしまうアコーディオンリードを
コンパクトに収めるための工夫でしょう。


上のリードは開閉するようになっていて、
下のリードを調整する時はこのような状態にします。
ユニークな構造ですが、調律の時などはちょっと面倒です。


弱い音の発音が悪い箇所が幾つかありますが、
原因の殆どはリードの調整が不十分である事です。


雑音が出るところもあります。
雑音の原因はリードバルブに起因する事が多いです。
矢印のある所は、内側に貼ってあるリードバルブの先端がカールしていて
これが雑音の元となっていました。
1箇所のリードの内側を修正したかっただけですが、
リードを剥がす際に3つ一緒に木枠から取れました。


リードバルブの先がカールしている原因は
リードバルブが長過ぎて木枠の内側の壁に当たっているからです。
このような事例はアコーディオンでもよくあります。
これは製造時のミスですが、販売店での修正もされないので
ユーザーにまで影響してしまいます。
調律を行えば全ての音を何度も鳴らすので異常に気付けます。
当店では全てのリードの調律をやり直すので、殆どの問題は解決されます。


長過ぎるリードバルブの先端切断しました。
本当にちょっとの事ですが、これ以上切るとリードの穴を
バルブが100%覆う事ができなくなってしまいます。
木枠の設計に余裕が無いというのが根本原因とも言えます。


これは別のリードですが、リードの隙間が広過ぎる事が
表からの点検で分ったので、リードを木枠から外しました。
手前のリードは明らかに隙間が大き過ぎます。
発音が遅れる原因になりますので修正しますが
内側なのでリードを外す事になります。
この調整を行うと調律が変わるので、後に調律が必要となります。


別の場所でもリードバルブが長過ぎて木枠の内側と干渉しているところがありました。


これもリードバルブがカールしていて雑音の原因になっているところですが
内側ではなくて外側です。
カールした理由が不明ですが、このままでは問題があるので修正します。
修正不能な場合は交換します。


高音の音域でも内側リードの隙間に問題がある部分を見つけましたので
修正のために取り外しました。
このような所は1台につき幾つも出てきます。
表側のリードであれば外さずに調整できるので簡単ですが、
内側は取り外して調整する事になります。


リードが2階建て構造で開閉する機構を持っているため、
開閉部分で空気の通り道が必要になります。
この部分は空気が漏れないように革製のパッキンシールがありますが
加工が雑で空気抵抗になっている感じがあります。


余分を切り取って抵抗を減らすようにしました。


2つある開閉機構の反対側も同様です。


こちら側も余分を切り取る処置をしました。


開閉機構の空気が通る部分ですが、部品の張り合わせの位置決めが悪く
穴にズレがあり、有効面積が減っています。
これは簡単にアクセスできないので調律で行う修正作業では行う事ができません。
これは仕様という事になりますが、実際の演奏時の影響は不明です。


リードの上段の開閉機構を止めているのは中心にあるネジと木の部品です。
木の部品を90度回転させるとロック解除で両側のリードが開くようになっています。
上の画像はロックしているところですが、木の部品を縦にすると
両側の木の部分がフリーになって開く事ができます。


この開閉機構のロック部分ですが、真横から見ると右側は隙間があり
きちんと押さえられていませんでした。
この状態では開閉部分から空気が漏れそうですし、
リードの固定が甘いので振動が吸収されて音への影響がありそうです。
ロック部分の調整を行い、きちんと両方が固定されるように修理しました。

ここまで行ってから最後に調律を行います。
この楽器では基準の周波数が440Hzなのか442Hzなのか判断ができない程に
全体に狂いが出ていました。
部分的には半音の1/4程度も低くなっている所があり、
全体の調律は必須という状態です。

コンサーティーナはアコーディオンよりリードが少ないですが
構造が簡単なことから繊細な部分が多く、調律作業はとても時間を要します。
これはダイアトニックアコーディオンやバンドネオンでも同じ事が言えます。


このメーカーの楽器は低価格な普及品なのでボタンの機構もそれなりです。
場所によって、高さの違い、傾き、バネの強さの違いなどありますが、
価格を考えたら仕方ない部分と思います。
ボタンの問題を除いても、
新品であっても調整が必要な楽器という判断で良いと思います。


お月見2022/09/10

今日は中秋の名月という事です。

という訳でスーパーで月見だんごを買ってきました。
遅い時間に行ったのでこれしか残っていませんでした。


月見だんごというと、一般的には白で球形のイメージですが、
中部エリアでは円錐のような細長い、しずく形と呼ばれるタイプが主流です。
色も白以外があるところが特徴です。
この商品はちょっと珍しく、中に餡が入っていますが入っていない物が普通です。


ウチでは月見だんごはアザラシだんごという認識ですが、
今回の物は餡入りで形もずんぐりなのでちょっと違う感じです。
一般的な餡なしの物はもっと細長いです。


今回の物はどちらかというと、バーバパパだんごでしょうか?
そういえば、主役の月の写真を取り忘れました..


イタリア製アコーディオンの調律2022/09/17

イタリア製アコーディオンの調律を承りました。
発音に関する部分や調律の狂いだけで、大きな不具合はないものです。


遠方からのものなので宅配で送っていただきましたが
ベースの音が出たままになっているという不具合がありました。
ベースボタンは全て出ていますが音が出たままのところがあります。


リードを外してみると1音のバルブが開いた状態でした。


ベースボタン1つに傾きがありますが普通に操作できるので
今回の件とは無関係のようです。


ベースの蓋を開けてよく観察すると問題箇所が見えてきます。
上の四角で囲ってある部分は通常の位置にありません。
問題箇所を少し触ると元に戻って問題は解決しました。
輸送の衝撃と、ちょっとした引っ掛かりが起きていただけのようです。


外周りから点検して行きますが、まず問題を感じたのはベルトです。
金具が当たる部分が消耗していますので交換時期です。
この状態ではいつ切れるか分りません。
切れたら演奏の継続はできませんし、最悪の場合、楽器の落下で壊してしまいます。
ベルトは数年は使えますので、年数で割ればコストは安いです。
必要経費と考えて早めの交換を推奨いたします。


ベースのバンドも劣化が進んでいます。
これが切れる事は滅多にありませんが劣化して見た目や
操作感が悪くなるので適当な時期に交換した方が良いです。
10年以上も使っている事がよくありますが、10年以内には交換した方が良いでしょう。


ベースボタンの裏側ですが大量の埃が付いています。
埃というより動物の毛のような感じです。
恐らく、犬か猫を飼っているのだと思います。


ベースメカニックの脇の部分にはクモの巣に毛が掛かった状態です。
当店では調律の時に楽器の内部の清掃を行います。
定期的な調律は内部の清掃の意味もあります。
埃が堆積すると何かのはずみでリードに引っ掛かり音が出なくなるなど、
トラブルの原因になります。


ベースのバンドを固定しているネジが1つ緩んでいました。
これもよくあるケースですが、最悪の場合、演奏中にバンドが抜けます。
そうすると演奏の継続ができなくなりますので本番中の場合は問題が大きいです。
バンドの取り付けはうまく施工されていないと、このようにネジが緩むことがあります。
この部分の取り付けは単純そうですが難しい作業の一つです。
問題が出た時の影響が大きいのでとても気を遣う作業です。


交換するベースのバンドの側面ですが、左は新品で右が付いていた物です。
厚さが全然違います。


作業中に貼ってあるエンブレムが取れました。
以前にも何回か記事にしたことがありますが、
この楽器は経年でエンブレムが取れるメーカーの物です。


背面にあるエンブレムは既に取れてありません。
両面テープだけが残っている状態です。


剥がれたエンブレムと本体に残った両面テープの粘着部を綺麗に取り除いた後に
新しいテープで貼り直しました。
使われているテープのスポンジ層が劣化して剥がれる訳ですが、
粘着層はしっかりと残っているので取り除く作業が大変です。
スポンジ層の劣化は15年程度後の事なのでメーカーは製作時に気付く事ができません。
恐らく、今は問題のない物に切り替わっているでしょう。


背面のテープの粘着層を取り除きましたが、楽器表面のセルロイドと反応して
跡が残っています。
背面なので目立つことはありません。


グリルカバーにもエンブレムがありますが、こちらは剥がれていません。
でも何か違和感があります。


手で剥がしてみると簡単に取れました。
接着剤で貼り直した跡があるので、一度は取れたのでしょう。


接着剤と古いテープを除去して貼り直しました。
違和感の理由は分りますでしょうか?
そう、向きが反対だったのです。
剥がれて貼りなおす時に反対向きにしてしまったのでしょう。


ベースリードの下のバルブへ通じる穴です。
音の切替のためのシャッターが全開になっていない箇所があるので修正します。


こちらは右手側の音の切替スイッチのクリック感を作っているバネの部品です。
ここにも動物の毛らしきものが沢山付いています。


バネを回転させて手が入るようにしました。
古いグリスと埃や毛が付いています。


綺麗に掃除して最適な位置へ戻しました。
新品の時はこんな感じだった筈です。
これでスイッチの操作感も改善します。


リードの隙間にも細い毛が挟まっています。
発音や調律に影響する事があります。


より繊細なHリードの高音部分です。
とても小さく隙間も狭いので、ちょっとした異物でも音に影響が出ます。
隙間が細いので埃などが詰まりやすい部分でもあります。
この部分も沢山の細い毛が入り込んでいるので全て取り除きます。


リードバルブは少し反りが出てきていますが交換時期ではありません。
修正で使って行けるでしょう。
部分的に交換された形跡があります。


ベースリードの方も右と同様にリードバルブの反りが出てきています。
こちらも修正します。


右手のリードで1箇所、外観がとても悪いところがありました。
リードが折れて交換した感じですが、周囲のロウは溶けきっておらず、
指で押し付けただけの感じもあります。
専門店が行った修理には見えません。


交換されたリードを外しました。
リードを留めるリベット部分が平らなので標準リードです。(右側)
この楽器は高級器なのでハンドメイドリードが付いています。
交換する為にハンドメイドリードを用意しました。
リベットは不規則な面を持っています。(左側)
これは手作業のハンマーで叩いた跡です。
安いリードは機械が打ち込むので平らな面になっています。


リードを交換しました。
ロウ留めも綺麗に仕上がっていて、パッと見では交換した事が分らないと思います。
下にあるのは取り外した物です。


蛇腹と本体の合わせ目にあるパッキンシールが劣化しているので交換します。
この楽器は少し空気漏れがあるので交換すると改善する可能性があります。


調整作業が終わり、調律に入る直前に気付きましたが、
本体にひび割れがありました。


割れた部分を確認すると内部にまで達していることが分りました。
空気漏れの原因の一つになっているでしょう。
このままだとヒビが進んで行くので修理を行います。
この部分に割れができる原因として、楽器の落下など以外に
楽器の分解作業での不適切動作によることがあります。
時々、ネットで楽器を分解したとか、分解してみましょう的な記述を見ますが
ちょっとした事でこのような大きな問題に発展する事もあります。
意味もなく分解は行わないようにしましょう。
分解してもできる事は殆どありません。
分解に興味がある人はジャンクを買って行うと良いでしょう。


割れた部分を修理して外観を整えました。
少し離れて見たら殆ど分らない程度になりました。
この後は全体の調律を行って完了です。


蛇腹の谷部分に埃や毛のようなものが堆積していました。
見た目が悪いので清掃しました。
修理、調整、調律を行い、内外の清掃を行う事で楽器を良い状態に保てます。
当店では全体の調律を行うという場合はこれらの作業も費用に含んでいます。
これは、ただ調律を行うだけでは良い結果にならないからです。
ピアノのように毎年の必要はありませんので、アコーディオンの維持費は
比較的安い方と思います。


新しいベルトに付け替え、楽器の試奏をひと通り行い、問題がなければ
後は梱包して発送するだけです。


コンサーティーナの調律2022/09/23

コンサーティーナの調律を承りました。


コンサーティーナ専用のリードを用いた本格的な物ですが
そんなに古い物ではなさそうです。
右手側のリードですが、長さがある程度あるリードバルブは反りが大きく出ています。



リードバルブの取り付けにズレがあって下の穴が出ている所があります。
修正のために貼り直しが必要です。

リード付近には数字が書いてありますがボタンとの対応を示しているようです。
恐らく、製造時には書かれていなかったと思いますので、
後にメンテナンス時に作業者が書いたのでしょう。
文字の筆跡がヨーロッパ的ではないので日本人によるものでしょうか?



緑色の丸いシールが剥がれかけているところがあります。
このシールが何の為にあるのか分かりませんでしたが
観察してみると、リードを留めているネジの先端の穴を塞いでいるようです。
何となく、これも最初は無かったもののような気がします。

リードの調整は全体に隙間が狭すぎる印象です。
強い音の時に発音が悪くなりますし、過度に狭いと弱い音でも発音が悪くなります。



リードバルブの取り付けに微妙な問題がある箇所が幾つかあります。
これはバルブの先端が隣のリードに触れそうになっている箇所です。
一旦外して貼り直す必要があります。



こちらのリードバルブは先端のスペースがとても狭くなっています。
ギリギリケースと接触はしていないので大きな問題にはなっていません。



リードバルブ先端のスペースに余裕がないところをめくってみると、
下の穴に対して必要以上にバルブが長いことが分りました。
これでも音は出ますが発音が弱くなるでしょう。



リードに錆が出ている所もありました。
古い楽器ではないので錆のあるリードは少数でした。



左手側のリードですが、右手側より低音なのでリードが長くなります。
なのでリードバルブも長くなり、右手より反りが出ている箇所が多いです。



同じく左手側のリードですが、面白いことに気付きました。
こちら側の面はリードバルブの反りが殆どありません。
右手側を改めて観察すると同じように片面のバルブの反りが大きい事が分りました。
また、右と左では反りが出ている面が反対になっている事も分りました。
右手側はボタンが付いている面と反対側の反りが激しく、
左手側はボタンが付いている面の方の反りが激しいという状態です。

ちょっと考えて理由が分りました。
これは楽器を保管している時の姿勢がいつも同じで、
右手のボタンを上にして楽器を立てて保管していると推測できます。
ソフトケースの形状がそのようにさせているとも言えます。
いつも右手側のボタンが上になるように立てて保管していると
下になる面だけ重力によりリードバルブが垂れ下がるということです。
コンサーティーナの場合、ボタンが左右になるように横向きで保管すると
重力によるリードバルブの反りは抑えられるでしょう。
アコーディオンでもこの事は意識して保管姿勢を考える必要があります。

リードバルブは薄い茶色の物と濃い赤色の物が混在していますが
恐らく、オリジナルは薄い茶色の物で、赤い方は後に交換された物と思います。
赤い方は少し薄すぎる印象ですが、今回は修正してこのまま使う事にします。



左手側のリードも隙間が少な過ぎる感じです。
全てのリードは適正な状態に修正してから調律を行いますので
調律後は発音状態が改善すると思います。