チューブチャンバー2021/02/12

TITANOという今は無いブランドのアコーディオンの調律を承りました。

イタリアのVICTORIAが別ブランドで作っていた物です。
この楽器にはTITANOや以前のVICTORIAに特徴的な部分が幾つか見られます。


右手側のリードです。
これは通常、音域の下から上までが1本の木枠になっていますが、
ご覧のように途中で分割されています。
この楽器はMMLなので、通常3本の木枠ですが6個になっています。
長い物を両端で固定するより短い方が固定が確実にできるという発想です。

因みに、確実に固定というのはネジを強く締めるという意味ではありません。
リードの木枠はとてもデリケートな部分で、一度、固定したら
できる限り分解したくない部分ですが、ネジの締め具合も難しい部分です。
強くネジを締めずに確実に固定する為に短く分割する構造を採用していたのが
TITANOや古いVICTORIAです。
ネジの締め加減や微妙な木枠の位置の違いで調律が変化したり
空気漏れが起きたり、音質に変化が出ますので
この部分は自分で絶対に分解しないようにしてください。
時々、SNSなどで分解した様をアップしている方がいますが、
そういう事を知らない故の行いですのでマネしない事です。


この楽器はそれなりに古い物で、業者から中古で購入した物と思われます。
恐らく製造から30~40年程度です。
リードのロウに経年劣化によるヒビが見えます。
実際、リードの調整などで力を加えるとリードが取れる時がある位に
ロウが劣化してきています。
今回は部分的な補修でギリギリ何とか使える判断をしましたが、
問題が出てくるのは時間の問題でしょう。

ロウが劣化した場合、調律が不安定になったり、ノイズのような異音が出て
楽器として使うには厳しい状態になります。
修理にはリードを全て木枠から外し、古いロウを除去した後に
新しいロウでリードを戻して行き、最後に調律をやり直します。
時間と費用がとても掛かる修理になります。

古い楽器はその時代にしかない良い物もありますが、
劣化した部分は寿命がありますので、
その後の維持費が大きくなる事を覚悟する必要があります。
完全修復と言って売られている物も、リードのロウまで交換してある事は
一般的にはあり得ません。


この楽器にはもう一つ、特徴的な部分があります。
チューブチャンバーという機構が付いています。
これは、右手側のグリルカバーに施されている機能的な細工です。
見たとおり、一般的なアコーディオンのグリルカバーより、
開口面積が極端に小さいことが分かります。
楕円の細長い穴が20個程度あるのみです。


このグリルカバーを外して裏から見たところです。
黒い筒状の樹脂部品が表の穴の裏側に付いています。
これがチューブチャンバーと呼ばれるゆえんですが、
リードから発音された音(空気の振動)は鍵盤操作で開閉するバルブを抜けて
グリルカバーの裏にあるこのチューブの両端の小さな開口部からチューブを
抜けてカバーの表にある穴から出て行きます。
この時に高い周波数成分が減衰して丸みのある音に変化します。
一般的なチャンバー機構のある楽器と似た音が出せますが、
その機構はとても簡単で単純に済ませられます。
これはTITANO(VICTORIA)の特許なので他の楽器では見られません。


グリルカバーを外したら普通の楽器と何も変わりません。
ただ、カバーの細工による音響効果なので、
全てのリードの音にエフェクトが掛かってしまいます。
一般的なチャンバーであればLとMだけ音が丸くなり、
残りのMやHはストレートな音が出ます。
チューブチャンバーは全ての音に掛かってしまいます。
なのでチャンバーの丸い音を使いたくない時は、この画像のように
グリルカバーを外して演奏します。(カバーを外すと僅かですが調律がズレます)

アコーディオン奏者のリシャールガリアーノが使う古いVICTORIAも
チューブチャンバーですが、演奏する場面や曲によってはカバーを外して
音をシャープにしているのは有名です。
これを真似てカバーを外して演奏する奏者もいますね。
埃の進入や機構の保護がなくなる事のリスクがあるのでお勧めはしませんが..


この楽器、ベース側にもチューブチャンバーの様な細工が見られます。


ですが、これは見た目だけの飾りです。
この楽器はオーナーが使用中に、この飾りが取れてしまったのですが、
カバーの下に穴はなく、黒く塗ってあるだけでした。


ベース側の蓋ですが、こちらは穴が全くないタイプです。
この楽器は全体にソフトな音質を狙った楽器なのでしょう。
右のチューブチャンバーの音とバランスを合わせる為とも解釈できます。


ベースのカバーを外したのですが、取り付け方を間違っていました。
矢印部分の内側にある金属部分が本体の薄い部分に差し込まれるタイプですが、
そのまま上から被せてネジ留めされていました。
なので、金具の隙間が無くなって潰れていますし、
ベースの蓋も僅かに浮いて本体と段差ができていました。
少数ですがこういう留め方の楽器があります。
そして間違って付けられていることが多いです。
ユーザーが分解すると元通りに戻せていない事があるという事例ですね。


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