バンドネオンの調律2021/12/05

バンドネオンの整備のご依頼を頂きました。

最初に楽器を分解する時ですが、ネジを抜いても蛇腹部分と両側面の
機構とリードが載った部分を分離できずに苦労しました。
工具を差し込んでこじったりすると傷になるのでその方法は使えません。
なんとか分割しましたが合わせ目に入っているパッキンシールが劣化して
固着していました。
しっかりと固着していたので分解前のテストでの空気漏れは殆どなく、
今までみたバンドネオンの中では一番という感じでしたが、
一旦分解したらこのパッキンは使えないので貼り替えます。
見た目も薄くてペッタンコという感じですね。


右手側のリードですがとても良い状態です。
リードの錆もなく、リードバルブも大きな問題は無さそうです。


左手側ですが、こちらも良い状態です。
一部、蛇腹に巻き込まれて大きく反ったリードバルブがあるのと、
多分、右手側のリードバルブが1枚剥がれて落ちている程度で大きな問題はありません。
楽器が古い物ではないので状況から判断し、全体の調律だけで済みそうです。


リードプレートを外してみると亜鉛プレートの表面に酸化物が出ている事がわかりました。
特に木枠と接している内側の面は酷いです。
表面をマイナスドライバーで削ってみると粉が沢山出てきます。
幸い、今年修理したバンドネオンのようにリードに酸化物が干渉して
音に異常が出ている事はないので内面の革パッキンと接する部分だけ
除去すれば問題なさそうです。


酸化物を削るとプレート1枚の片面でこの程度の粉が出ます。


左手側の大きなプレートも同様でした。
これはちょっと大変そうです。
リードやリードバルブはとても良い状態です。

Cooperfisa入荷2021/12/06

イタリアCooperfisaから楽器が届きました。
と言っても、お客様のご注文による物なので在庫ではありません。

37鍵盤、HMML、96ベースの中型ですが、Cooperfisaのトップグレードである
Super Cesareです。
リードはハンドメイドで、内部の木材などはより良い物が選ばれています。

Cooperfisaは3段階のグレードがあり、標準の物はPerla、上位モデルはDiamante、
最上級はSuper Cesareとなっています。
それぞれのグレードに小型~大型、鍵盤式、ボタン式があるので
グレード違いで同じ音域、リードセットの楽器が存在します。
楽器にはグレード名は書いていないので正規代理店(当店)以外の物や
中古の個人売買ではグレードを確認できないですし、
間違っている可能性もあるので注意が必要です。


グリルカバーのデザインは標準のCooperfisaモデルとは違うパターンです。
今回はCooperfisaが持っている幾つかのパターンの1つですが、
全くオリジナルのデザインを作成する事も可能です。

白とびしていて分からないですが、鍵盤はパールタイプで、
スイッチは黒のパールです。


Cooperfisaのロゴは通常、金属製のクロームメッキですがお客様の要望で
茶色に塗装してあります。
焼付け塗装なので簡単には剥がれません。
筆記体の金属製以外に、ペイントとラインストーンでの表記も可能です。

蛇腹も文字に合わせて表はこげ茶色になっています。
Cooperfisaは外観を自由にカスタマイズできます。
自分だけのオリジナルデザインの物を作製する事もできます。

コンサーティーナ調律2021/12/12

コンサーティーナの調整を承りました。
少し古い物ですが大きな問題はなさそうな物です。


右手側のリードです。
コンサーティーナ専用のハンドメイドが付いています。
リードに錆が出ていますので調律の狂いが大きいでしょう。
錆の除去と調律は必須と判断できます。


同じく右側の裏面です。
アコーディオンリードのコンサーティーナはリードの反対面を確認するには
リードを外す必要がありますが、蛇腹の押し引きでそれぞれ独立したリードの物は
板の反対面に付いているだけなので、外す事なくオープンな空間で点検できます。
点検だけではなく、調律や修正作業も同様なので整備性がとても良いです。

リードバルブは白い革の物と茶色い革の2種類がありますが、
どちらかが後に交換された物です。
茶色の方が反りが大きく、厚みがあり硬いので、交換する箇所が多くなりそうです。


こちらは左手側のリードです。
やはり錆とリードバルブの反りが見られます。
調律前にリード周辺の問題を全て修理、修正する必要があります。


左手側の裏面です。
リードバルブの反りが激しいです。
雑音の原因になるので修正、交換が必要です。
全体としてはリード周りの調整だけで大きな問題はありません。
調律をすれば良い状態になりそうです。

その他、発音の改善の為にリードの隙間の調整は必要です。
これを「あげみ調整」と呼ぶ事がありますが、リードに挟まった異物を取る事と
混同している人もいるようです。
私はあげみ調整という言葉は習っていませんので詳しく知りませんが
イタリアでは単に、「リードの形状調整」です。
ネット上では専門的な用語が出て来るサイトやSNSがありますが、
書いている人の経歴として専門的に習ったりしていない場合、
ネットでかき集めた情報の転記に過ぎません。

リードバルブ、さぶた革、あげみ調整..普通に楽器を使っている程度で知りえない用語が
書いてあると信憑性がありそうに感じますが逆に疑った方が良い時もあります。
書き手の経歴が確実な事、或いは元となる情報先が明記されているかどうかで
大体判断できます。
管楽器や弦楽器、ピアノの修理を職業としている方から不必要に専門性のある
情報はでてきません。
何でも情報公開するような方は別な意図があるのでしょう。
情報が氾濫する時代に必要なのは読み取りと判断力です。


Giustozzi入荷2021/12/15

大きな荷物が届きました。
イタリアからです。


アコーディオンが2台という事はすぐに分かりました。
下に樹脂のパレットが付いて来る事は殆どないので
ある程度デリケートな楽器である事が推測できます。



届いた楽器はイタリアのGiustozziというメーカーの物でした。
Giustozziは日本ではあまり知られていませんが、1946年創業の老舗メーカーです。
ちょっと読みづらいですが、ジュストッツィと読みます。
家族経営の小規模メーカーなので年間に沢山の楽器を作る事はできませんが、
比較的低価格できちんとした作りの良い物を提供してもらえます。
今回は2台共、木目デザインの楽器です。



艶のある木目が美しい鍵盤式アコーディオンです。
鍵盤幅が18ミリの細い鍵盤なので41鍵盤、120ベースですが
37鍵盤、96ベースの中型に近いサイズで重さも軽くなっています。
鍵盤幅が18ミリは馴れればなんとか使い物になるサイズなので
大きな楽器は無理だけど音域は犠牲にしたくない方には良い物です。
使いづらい為、現在は作られていませんが17ミリ以下の鍵盤幅の楽器は
子供さん以外はやめた方が良いでしょう。


とても美しい木目調の楽器ですが、これは塗装仕上げによるものです。
もちろん、楽器自体は木でできています。
一般的なアコーディオンと同じように軽量で強度が確保できる合板が使われています。
その表面にセルロイドを張るのが一般的な作りですが、塗装で仕上げる楽器も
現在は多くなってきています。
塗装故に多彩な表現が可能で、今回は木目調で黒のグラデーションが付いています。
スイッチや黒鍵も綺麗に塗装されています。

グリルカバーは軽量化の為、アルミニウム合金ですが、塗装で本体と同じように
綺麗な仕上がりとなっています。
ちなみにグリルカバーは多くの楽器でアルミニウムにセルロイドが貼ってあります。
一部の楽器では全て樹脂という物や、この楽器のように木だけという物もあります。
セルロイドは単独でカバーに使われる事はなく、厚みのある樹脂の物はアクリル、
ABS、スチロールなどの樹脂です。
セルロイドでも他の樹脂でも、経年の寸法変化で大きく変形する事はありません。
大きな変形がある場合は外圧による損傷なので、よく見るとヒビ割れがある筈です。
そういう物は大きな衝撃を受けた楽器ですので注意が必要です。
或いは、熱による変形があると思いますが、一般にはあり得ないでしょう。


ベース側ですが、これが塗装?というくらい、綺麗に仕上がっています。
リアルウッドの表面仕上げより低価格ですが、十分に美しい外観です。
この楽器はお客様のオーダーによるものなので、在庫はありませんが
同じような物を作成する事もできますし、違った感じの木目や
全く別なデザインも可能です。


もう一台の方は在庫としてオーダーした物です。
アコーディオンは基本的にオーダーメイドなので、在庫もオーダーです。
なので、在庫にない物をオーダーメイドで作っても価格は変わらないので
時間に余裕がある方はオーダーメイドでお好みのデザインの物を作るというのも
選択肢に入れていただければと思います。

この楽器はリアルウッドの表面仕上げです。
一般的な合板ではなく、無垢の木材による本物の木目仕上げです。
この事による楽器の音への影響はあります。
また、重さは同じ仕様の合板+セルロイドより少し軽くなります。


リアルウッドの表面にクリア塗装して素材の木目を活かした外観になっています。
半艶塗装なので上品な美しさがあります。
グリルカバーも無垢材の切り抜きです。

楽器の仕様は、46音、HMML、MLチャンバー、120ベースなので、
制限なく色々なジャンルに使えます。
リードはハンドメイドです。
現在はゆっくりとしたMMの波の速さになっていますが、
お渡しの際はお好みの速さに調整してお渡しとなります。
全てのアコーディオン(MMのリードがある)では、
初期の音が楽器固有の音ではありません。
波の速さを調律で調整する事で同じ楽器でも全く違った音に変わります。
「この楽器は速い波なのでミュゼットにピッタリです」などの表現は
間違った認識です。
そこは調整可能な部分ですので。


ベース側です。
こちらも無垢の木材によるボディーです。
左右のボタン共にパールホワイトです。(右の♯は黒パール)
アイボリーなどの色にする事も可能です。

フルサイズのチャンバーモデルで無垢の木目仕上げの楽器ですが、
他社と比較してとても安価です。(価格自体は高額ですが..)
だからと言って、何も劣る部分はありません。

当店は輸入した時にメーカーに支払いをした金額とその時の為替レートで
売価が決まる時価方式です。
定価が決めてある販売方法は定価を高く設定して値下げするという商法が一般的です。
高額だから楽器として良いという単純なことではありませんし、
値引きされているから良い楽器がお得に買えている訳ではありません。
また、楽器は価格やメーカー(ブランド)で判断できる物ではありません。
可能であれば実際に試してみて音や操作感で判断する事をお勧めいたします。


Maugein入荷2021/12/17

フランスから楽器が届きました。
年末に入って急に楽器が届きはじめましたが、大抵の場合予定より遅れていて
各社このタイミングで入荷します。
複数のメーカーで同じような感じなので受け取りが集中して大変になります。
ヨーロッパでも年末に仕事を完了してスッキリと新年を迎えたいのでしょう。


今回届いたのはフランス、Maugeinのフレンチタイプボタン式アコーディオンです。


オリーブグリーンが2台、ライトブルーが1台ですが、メタリックの塗装仕上げなので
自動車のように見る角度、照明の具合により表情が変化し、高級感があります。

右手49音、MM、80ベースという仕様です。
Lリードはありませんが、49音もあるので音域は十分過ぎる程あります。
ベースも80あるので音域は96と同じですし、7thの和音に工夫がしてあるので
押し方でdimの音も出ます。

小型軽量な楽器ですがプロが使っても問題ない仕様で、リードはハンドメイドを使用し、
フレンチタイプの最大の特徴である釘留めリードです。
見た目がフレンチタイプでも標準リード、ロウ留めという楽器もあり、
そういう楽器ではフレンチのあの音は出ませんし、リードの性能もそれなりです。
それでも案外高価なので分かって選んでいるのなら良いですが、
知らないで選んでいるのは勿体ないです。
販売する方もきちんと説明すべきでしょう。

リードの留め方については下記の記事で実際の画像を見られます。


オリーブグリーンメタリックの外観です。
鮮やかなグリーンではなく、レトロな感じがする落ち着いた色です。


蛇腹を広げると表情は一変します。
花柄のカラフルなデザインの蛇腹になっています。


蛇腹の上(奏者の顎の下)部分を大きく広げたところです。
白をバックにカラフルな花が水彩画のようなタッチで描かれています。
カラフルですが色がきつくないので優しい印象です。
落ち着いた色調のオリーブグリーンの楽器ですが、
演奏を始めると華やかなデザインが見えてきて、
奏者は勿論ですが、聴衆にも視覚的に楽しんでもらえると思います。


もう一台の方のオリーブグリーンですが、こちらはパリをイメージするイラストが
淡い多色で描かれています。


蛇腹の上の部分を開いたところです。
レトロ調のデザインになっていて、PARISの文字、赤風車、切手、楽譜などが
描かれています。
フレンチタイプのボタン式でミュゼットやシャンソンなど演奏するには
ピッタリのデザインです。


ライトブルーメタリックの外観です。
どのボディーカラーも当店が独自に決めて依頼しています。
ニュアンスを伝えるのが難しいですがメーカーは応えてくれます。
クロームメッキのグリル、ミラータイプのボタンもこちらの指定です。

実は、今年からMaugeinはデザインを一新しています。
既に切り替えられていますが、従来のデザインの方が日本では
受け入れられると思うので無理を言って継続してもらっています。
新しいデザインもスッキリした癖のないもので、それはそれで良いものです。
Maugeinのロゴも新しく変わりました。
ロゴも従来の方がカワイイのでそのままにしてもらっています。
勿論、新しいデザインの物もオーダーで作成可能です。

現行デザインの一例です


ライトブルーの蛇腹の中はこんな感じです。
本体に合わせたブルーを基調としたデザインですが、
何が描かれているか分かるでしょうか?


蛇腹の上の部分を大きく広げたところです。
このデザインはフランスの印象派の画家として有名なクロード モネの睡蓮です。
モネの睡蓮は沢山の作品があるのでどれなのかは不明ですが、
何かの作品の一部です。
ライトブルーのボディーにモネの睡蓮という組み合わせは私の発想です。
それを具現化してもらいましたが、こんな風に色々な事ができるのがMaugeinです。
そしてこれはオプション扱いではなくて標準金額の範囲です。
蛇腹のデザインは生地を外部から調達しているので、なくなれば同じ物はできません。
ボディーカラーは内製なので何度でも同じ物を作成できます。

同じような音域の同じようなフレンチタイプでも中身、外観共にメーカーによって
違いが大きく出ますが、価格は必ずしも仕様を反映していません。
釘留めハンドメイドリード、メッキグリル、ミラーボタン、メタリック塗装、デザイン蛇腹..
これだけ揃っている事を考えるとMaugeinは安いです。


同じ機種の色違いの在庫があります。
MMの波の速さはお渡し時に任意に調整いたします。
色と同様、音も選択できるという事です。
そして、細かい不具合の修理、全てのリードを発音調整して全体を調律し、
保証を付けてお渡しいたします。

在庫としてオーダーした物は比較的、ライトな感じのデザインですが、
濃い色の物やダークな蛇腹デザインも可能です。
そういう系統の物はデザインの好みが分かれるので在庫が難しいです。
オーダーしても特別な事をしなければ価格は変わりませんので
在庫にお好みのデザインがなければオーダーもご検討ください。
細かい事が分からない場合、何となくのイメージや好きなモチーフを
お伝えいただければ幾つかの案を提案をさせていただきます。