バンドネオン修復のご依頼2021/03/16

バンドネオンの修理を承りました。

バンドネオンの修理が来る時はとても古くて使い倒したような
物の時が多いですが、この楽器は外観を見る限り、
酷く傷んでいる感じはありません。
象嵌細工などの装飾はありませんが悪い物では無さそうです。


塗装にひび割れがありますが剥がれてくるような感じはありません。
AAのマークが入っています。
AAが重なっている物は戦後、ドイツで作られた物らしいですが
私には詳しいことは分かりません。

鳴らしてみると殆ど音が出ません。
大抵の楽器は傷んでいても音が出ますが、蚊の鳴くような音か
雑音のような音しか出ません。
しかも殆ど全てのボタンでそのような感じです。
外よりも中の方が大変なことになっている予感がします。


中がどうなっているか確認してみました。
リードに貼ってある薄い革の部品、リードバルブは劣化して
反りが激しい状態です。
向かいのリードバルブに干渉するくらい反っています。
これは全数交換の必要があります。


リードに錆が出ています。
リードプレートも白く粉を吹いたようになっています。
バンドネオンのリードプレートは亜鉛でできていて、
これがバンドネオン特有の音を作っている理由のひとつですが、
亜鉛の表面が酸化して(錆びて)表面が曇っている状態です。
音がきちんと出ていない原因は恐らくリードと
リードプレートの錆でしょう。
リードの錆とリードプレートの表面を磨けば
音が出るようになると思います。


ボタンやバルブのアクションはしっかりしていて
作りも良い物ですが、ボタンの下にあるクッションが
ダメになっています。
一般的にはフェルトや革を使う場所ですが発泡ウレタンが敷いてあり
劣化して柔軟性はゼロでボロボロに崩れています。
これは取り除いてフェルトに交換する必要があります。


ボタンの別の位置にもウレタンが使われて劣化しています。
このような比較的新しい素材を使っていて、
材料の長期の特性も分かっていないので、
やはり戦後に作られた楽器と思います。
アコーディオンでも合成樹脂やウレタンを使って後に
劣化で問題が出る楽器をよく見ます。
大抵、昭和30~50年あたりの物です。
もっと古い楽器では金属以外のところは、
木、革、紙といった天然素材が使われています。


蛇腹と蓋部分の合わせ目にある革のパッキンも劣化しているので
改める必要があります。
空気漏れが多少、改善するかも知れません。
空気漏れが少しありますが大部分は蛇腹からのものと思います。


バンドネオンは蛇腹に蓋をするような格好で1枚の板があり、
板の内側にリード、外側にバルブやボタンがある構造です。
コンサーティーナなども同じ様な構造ですが、
その板の部分に亀裂があります。
この板はバルブ以外の所からの空気を遮断する役割があるので
亀裂があると空気が漏れます。


ボタンを押してバルブを上げると亀裂はバルブの下まであります。
これは亀裂を修復する必要があります。
このような亀裂は何箇所か確認できました。

内部はかなり傷んでいて相当の修復が必要な楽器です。
バンドネオンは修理、調律が大変なので費用と期間が
とても掛かりますが、修復を行う事になりました。

この楽器の修理を依頼された方は元々、この楽器の持ち主ではなかったそうです。この楽器の元の持ち主は、修理を依頼している方の先輩という事です。その先輩は大学時代にアルゼンチンタンゴのギターアンサンブルでリーダーをされていたとの事です。その先輩が1970年より以前にアルゼンチンで手に入れてきた楽器がこのバンドネオンです。

その先輩にあたる方は何かのご病気になり、長い闘病の末に亡くなられたそうです。修理のご依頼をされた方は大学時代の後輩という間柄で、昨年の一周忌の時に先輩の奥様から譲り受けたのがこの楽器という事です。長い期間使われずに、居間の食器棚と天井の間のスペースに置かれていたと聞きました。内部の錆は日本の高温多湿の環境で閉じた空間に使われずに長く置かれた事が原因と思います。

修復費用がかなり掛かりますが、それでも楽器を復活させたいという想いがとても伝わってきます。亡くなられた方はさぞかし無念であったと思います。この楽器を修復して使える物とする事ができれば関係者方々の気持ちの整理の一助となるかも知れません。
この楽器本来の音を取り戻すために尽力させていただきます。