バヤンの修理22021/03/10

ロシアのアコーディオン、バヤンの修理を行っています。


右手側に続いてベース側のリード周りの修理が完了しました。
一般的なアコーディオンよりベース側のリードが多いです。


ベースリードを真横から見た状態です。
左側に小さな木枠があり、右に大きな木枠があります。
左の方は12音、2列のリードが並んでいて、
これは和音のボタンのみで鳴ります。
右の大きな木枠には12音、4列のリードが並んでいます。
分離不能な木枠に1音で4対のリードがあり、
共通の一つの穴からの空気の出入りで鳴っています。
こちらのリードはベースのボタンだけで鳴ります。

一般的なアコーディオンでは12音のリード列が4か5あります。
そして、ベースボタンを押すと全ての列が鳴り、
和音のボタンを押すとそのうちの2か3の列が鳴ります。
つまり、和音のリードとベースのリードは共通で使っています。
このタイプのバヤンでは和音は独立しているので
余分なリードが必要なので非効率な訳ですが、
ベースメカニックの機構はその分、簡略化できます。

メンテナンス時に問題となるのが、4対のリードが1つの穴の
空気の出入りで鳴っていることです。
調律する為には音を一つにする必要があるので残りの3音を
出ないようにする必要があります。
アコーディオンの様に穴が独立していれば塞ぐだけで済みますが
穴を共用していると調律作業はとても大変になります。
これと同じ苦労はバンドネオンにもあります。


リードの木枠を留めているのはL字の金具です。
バンドネオンのリードプレートを留めている物と似ていますね。


リードの木枠ですが、木枠を留めるL字の金具が掛かる部分が
傷んでいるので調律の前にこの部分を修復します。
それが済めば後はひたすら調律です。


という訳で、調律が完了し、ボタンのフェルトも交換し
全ての作業が完了しました。
こうして横から見ると独特のフォルムです。
バヤンはキーボードの後ろ側にもバルブがあります。
右手のバルブはボタンの段数分の3列ありますが、
最後の1列はボタンよりも背面のスペースにあります。
これはボタン式アコーディオンとは異なる部分です。
右手側のリード列はボタン3列分に分けられています。
この楽器はMMなのでリードの木枠は3本です。
楽器の厚みがあるのは右手のリードではなく、
ベースリードのボリュームによるものです。


バヤンの形状はフレンチタイプのボタン式と良く似ています。
フレンチタイプもボタンの3列でリード列を分けていますので
MMの楽器ならリードの木枠3本ですが、この楽器は
MMMLなので6本もあり、そのために楽器が厚くなっています。

全体の形状や蛇腹留めが無い事など、バヤンと共通部分があります。
ですが、リードの留め方やベースボタンの形は違います。


インターナショナルのボタン式はバヤンやフレンチボタンと
かなり違っています。
鍵盤式アコーディオンの右手部分のみを変えたような感じですので
リード列もMMなら2本です。
この楽器はHMMLなので4本です。
鍵盤式と同じような楽器の厚さにできます。
その分、上下の長さは長くなります。

バヤンとフレンチボタンは共通部分が多いので
どちらかが影響を与えたのではないかと思います。
どちらが先なのかは分かりませんが..


長年使った楽器の修復2021/03/10

若い頃に購入して40年以上使ってきた楽器の修復をしています。


リードに付いている革製のリードバルブは劣化により
硬化と反りがあるので全て交換です。
右手側は完了し、ベース側を進めています。


恐らく一度も交換していないベースストラップです。
切れてはいませんが硬化と縫い目が取れて2枚に分かれています。
このバンドは簡単には切れないので長く使っている方が多いですが、
5年程度での交換をお勧めします。
切れなくても硬化したり手の当たる所に亀裂ができて
手の甲が痛くなりますし、伸びて一番締めても緩かったり、
亀裂ができて外観が悪かったり色々出てきますので。
交換するだけで演奏がずっと楽になります。


空気ボタンが傾いています。
ここまで傾くと戻りが悪くなって空気漏れが起きる事も。


ベースボタンも複数個所で傾いています。
戻り不良で音が出たままになる事があります。


ベースの開口部の網が破れています。
埃や異物、虫の侵入がありますし、外観も悪いです。


長年使っていただけあって埃の堆積が凄いです。


右手のバルブ周りも埃が凄いことに。
調律を行う時にクリーニングもしますので、定期的に行う事を
お勧めいたします。


この楽器、40年以上経過していますが良い部分があります。
これは右手のバルブですがフェルトに虫食いが全くありません。
フェルトの虫食いは古い楽器にはつきものです。
バルブのフェルトに食害で穴が空くと空気漏れを起こしますし、
交換すると費用が大きく掛かります。
同様にリードの錆、リードを留めているロウの劣化は楽器として
使えない程の問題になり、修復費用も大きくなりますが、
この楽器はリードの錆もロウの劣化もありません。
なので年代の割りに修復費用が多く掛かりません。

30年以上経過した楽器であれば、フェルトの食害、リードの錆、
ロウの劣化などの問題が起きている率が高くなります。
安くてもそういう中古を買えば楽器として使えませんし、
修復するにも費用が多く掛かってしまいます。
そんな楽器でも音は出たりします。
音が全て鳴るというだけで楽器の中も見ず、音も聴かずに
購入するのは本当に止めた方がいいです。


グリルカバーが大きく凹んでいます。 鍵盤を押すと
持ち上がったバルブが当たってカツカツと音が出る程です。
鍵盤も高さにバラつきがありますね。

グリルの凹みは子供が座ったとか..
買った当時は山や海にキャンプに持ち出したり大活躍していた
そうです。
その後は子育てや体調のことで休止していた期間も。
年月分の思い出の詰まった楽器を当時のように使えるよう
修復作業を続けさせていただきます。