修復完了2022/02/05

ネットオークションで購入したという古いアコーディオンの修理を行いました。
今はメーカーが存在しないSettimio Sopraniの超細鍵盤の楽器です。
なのでサイズは37鍵盤ですが、41鍵盤、120ベースあります。


リードバルブの総交換、全体の調律などを終え、お渡しするだけの状態です。
この楽器はオークションで購入した物で、恐らく50年程度は経過している物です。
ですが外観も機能的な部分も大変状態が良く、革製部品の交換と全体調律で
普通に使って行ける状態と判断し、作業させていただきました。



取り外した古いリードバルブです。
この楽器は41鍵盤ですがMLリードなので内蔵リード数が少なく
修復、調律の費用も抑えられました。
古い楽器にありがちな、リードの錆やリードを留めているロウの劣化、
蛇腹の角部分からの空気漏れは、使用上の問題が大きく修復費用が多く掛かります。
このような不具合が無い事が修理して使って行ける楽器の条件になって行きます。



ベース側のリードですが、取り外せないリードが1列残っています。
一般的には木枠にリードが取り付けられていて、木枠ごと本体から外せます。
この楽器もリード4列分の木枠2本は取り外せます。
残りの1列分は本体に直付けですが、直付けはリードバルブの交換や
リードの調整の為にリードを1つずつ取り外す必要がありますし、
調律作業も面倒になるので当店では費用が割り増しになります。
今回、直付けリードは発音しないように止めて、調整も調律も行わない事を
提案させていただきましたので、その分の費用も抑えられています。

この楽器は右がMLの2列リードですが、ベース側は5列あり、
切り替えスイッチが2つしかありません。
直付けの1列は最も高音のリードでスイッチ切り替えで止める事もできません。
右が2列の音に対してベースが5列で鳴るとバランスが悪いですし、
高い音は右手の音域とぶつかるので無い方が使いやすいです。
修理費用の節約と楽器としての使い易さの両方を得られる方法として
当店ではよく行っています。


ベースボタンですが、古い楽器ではCの位置にしか印が無く使い辛いです。
一般的なA♭とEにも印を付けました。
今回は奏者の拘りで赤いラインストーンを入れました。
ちょっとした事ですが楽器に愛着が沸きますね。



蛇腹留めも新品に交換しました。
これは外付けのアコーディオン用マイクのゴム紐を引っ掛ける意図もあるので
回転軸が本体ではなく、金具に付いているタイプに変更しました。



古い楽器なので革製部品は全て交換しました。
今回は状態の良い楽器でしたが、ネットオークションでは
状態が悪く修復が困難な物もあり、返品もできませんので
利用する場合は十分な注意が必要です。
修理、調律が必須な物が売られていて、場合によってはそれもできない物と
思っていれば間違いありません。


アコーディナの整備2022/02/07

アコーディナの販売前の整備をしています。


分解して一部のリードを外しました。
アコーディナはどのメーカーであっても初期の調整が不十分で
弱い音が出にくかったり、強い音が出なかったりします。
その為、輸入後にリードの調整、各部の修正、全体の調律を行っています。
上の画像は高音のリードを10個外していますが、この範囲は発音など
確認する事なく無条件に取り外して修正を行っています。



低音側の3つのリードも無条件に取り外して調整しています。
わざわざ発音の確認をするまでもなく調整が必要と判断しているからです。



アコーディナ(Accordina,アコルディーナ)はフランスで作られている
鍵盤ハーモニカと同様の原理の楽器です。
口で空気を吹きこみ、ボタン操作により音を選択し、リードを鳴らす楽器です。
ボタン操作はボタン式アコーディオンと同じになっているので
アコーディオン奏者が持ち替えで使う事もありますが、
鍵盤ハーモニカよりも楽器としての機能を高めているので、
この楽器を専門にする奏者もいると思います。

鍵盤ハーモニカは教育楽器という側面があり、価格を抑える事、軽量である事、
乱暴に扱っても壊れにくい事などが求められる部分がありますが
アコーディナは純粋に楽器としての機能を高める事に特化できます。
その為、高価である事と重量がある事が欠点となりますが、
弱い音から強い音の調整範囲が広い事、低音から高音まで音域全体で
均一な音質である事、ある程度の数までの和音は実用的である事、
コンパクトで音域が広い事などの特徴があります。



楽器の構造はとてもシンプルです。
ボタンに連結するバルブとリードが本体に付けられているだけという感じです。
リードは両側面の外側に付いており、この事により強くてクリアな音が出ます。
鍵盤ハーモニカは楽器の中にリードがあるので音が篭った感じになります。
リードが外にある事で演奏中の結露の問題も少なく、リードの乾燥が早く、
調律などメンテナンス面でも有利です。
アコーディナも穴の無い側面カバーを付けて篭った音にした機種もあります。



吹き込まれた空気は底面の空間に入り、円形のバルブが開いた時に
そこから空気が出て最後にリードを通って排出されます。
鍵盤ハーモニカは逆向きで、空気は先に全てのリードが並ぶ空間に入り、
リードよりも後ろにあるバルブが開いた時にリードを空気が通って
バルブから排出されます。
呼吸で得た空気には多くの水分があり、楽器内で冷やされて凝縮水となり
結露しますが、アコーディナはバルブ手前の空間で結露します。
鍵盤ハーモニカは全てのリードが付いた空間に最初に呼気が入るので
リードへの結露が多くなりますし、リードのある空間の乾燥が遅くなります。
これは発音への影響やリードの汚染や腐食の問題が出やすくなります。



ボタンを押すとバルブがこのように開きます。
丁度、レシプロエンジンのバルブと同じような構造をしています。
この構造はシンプルで軽量にできる事以外に良い点があります。
吹き込まれた空気の圧を受けてバルブが閉じる方向に力が働く事です。
これはバルブからの空気漏れを減らす事に貢献します。
鍵盤ハーモニカのバルブは空気の圧力が掛かる部分に外から蓋をするように
バネ圧で閉じていますので、強く吹き込むとバネ圧が負けて
空気が漏れる場合があります。
バネを強くするれば漏れにくくなりますが操作感に影響を与えます。

アコーディオンは蛇腹の開閉で空気の動きが逆向きになりますので、
空気がバルブを開こうとする時と閉じようとする時の両方が起きます。
先日も書きましたが、空気漏れのテストをする時は蛇腹を閉じる方向で
行う事でバルブを開く方へ圧が掛かるため、より厳しいチェックが行えます。



リードを外すと奥にバルブが少し見えます。
リードから近い位置にバルブがありますが、
3列あるボタンの真ん中の列はリードからバルブまでが少し遠くなります。
この事で高音域の小さなリードでは3列の中央にボタンがある位置の
弱い音が僅かに出づらくなります。
これはアコーディナの欠点ですが、当店ではリードを調整して
できるだけ影響が出ないように調整しています。
バルブとリードの距離が音程で変わらない鍵盤ハーモニカでは
この現象はありません。



ボタンを押すとバルブが下がって隙間ができて空気が通ります。
ボタン、バルブは矢印の向きに動きますが、空気は逆向きに出てきます。



ボタンとバルブの部品を取り出してみました。
この部分は修正する事は殆どないので普段は外す事はありません。
見ての通り、驚くほどシンプルです。
金属部分はアルミニウムなので軽量で、ボタン、ステム、バルブまでが
とても小さくて軽量です。
この事で最小の力で操作でき、ボタンを離した後の戻りが素早く、
キレの良い演奏が可能です。
前述の通り、吹いた空気はバルブを閉じる方向に働くので無駄にバネ圧を
上げる必要がありません。
鍵盤ハーモニカはシーソーの様な構造になっていて、鍵盤の操作部と反対の端に
バルブが付いています。
操作部が大きい事と、軸を中心に重さのバランスを取る必要があるので
全体が大きく重くなり、離鍵時の戻りはアコーディナより遅くなります。
バネ下荷重が重いという表現が分りやすい方もいるかも知れません。
この事はアコーディオンの鍵盤式とボタン式でも言えます。
ボタン式はキレが良いという事の根拠になる部分ですが
この事に言及しているのは見た事がありません。(日本語の範囲ですが..)



整備の方へ戻ります。
高音部のリードを外しました。
既にこれは冒頭で見た..と言われそうですが、これは冒頭部分と反対の側面です。
反対側の高音域のリードも同様に外して調整します。



そして、同様に反対面の低音部のリードも外して調整します。
外していないリードは殆どの場合、外さずに調整します。
外さないと修正できない場合は中音域のリードも外しています。
実際に詳細まで分解して作業していないとこのような画像は出せません。

アコーディナの欠点がここにもあります。
アコーディナではリードを側面に縦に並べている事で長さに制限があります。
アコーディナでは低音になるに従いリードは途中から全て同じ長さになります。
実際には低音では長いリードが必要ですが先端を重くして長さを抑えています。
ですが、その方法では限界があります。
このためにアコーディナの最低音付近は発音があまり良くなく、
強い音で発音が止まったり、ピッチが安定しないという欠点があります。
楽器を厚くすれば長いリードが入りますが本体が大きく重くなります。

アコーディナよりスペースに余裕が作れる鍵盤ハーモニカでは
長い低音リードを入れられるため低音部の発音が良いです。
どんな楽器にも一長一短があるのでどれが良いというものではありません。
自分が好ましいと思う部分がある物を選択するだけです。



リードの修正が終わり、本体内の細かい不具合の修正や清掃、洗浄が終わったら
裏蓋を戻してネジを締めて固定します。
この楽器は軸径が1.5mmという極細のネジ6本で留められています。
なので細心の注意を払ってネジの取り外し、取り付けを行っています。

ネジの扱いは簡単なようでとても気を遣う作業です。
間違った操作をするとネジを傷めたり、折れたり、元のネジ穴ではない所に
ネジを入れたり、元のネジの溝と違う溝にネジを入れてしまったり..
そんな場合、意外に修復が困難な時も多く、その事で楽器も使えなくなるという
状況になる事もあります。
なので、単なるネジの開け閉めという事はなく、わかっている人ほど
多くの神経を使っている作業です。
ネジを緩めるだけで簡単!などと表記しているのは何も分っていないと思います。
同様に多数のネジ留めで蓋をしているコンサーティーナも
不慣れな人が気軽に開閉しない方が良い楽器の一つです。
実際、ネジトラブルで持ち込まれた事が複数回あります。



アコーディナの底板を取り付けると気密が出るので発音できるようになります。
ここで初めて実際の発音をテストします。
一度外して調整したリードでも発音が気にいらない場合は再度外して調整します。
この2箇所は再調整のために外しました。
全ての発音に問題がなくなれば最後に調律をします。
発音の調整をすると調律が変わりますし、輸入後の調律は完全ではないので
最後に全体の調律を行うのは必須です。



調律を完了した後に改めて底板を外しました。
見ての通り、呼気から生じた凝縮水が楽器内に付いています。
吹く楽器から排出する水分を唾液と思う人もいるかも知れませんが
殆どは呼気中の水蒸気が内部の冷えた面に当たって凝縮した水です。
ガラス窓に、はぁ~とやると曇るあの現象です。

アコーディナの息が最初に入る部屋はこんな感じで、空間とバルブがあるだけです。
鍵盤ハーモニカではバルブではなくリードが並んでいます。
最初に作られたアコーディナはもう少し手が込んでいて
底板が二重底になっており、呼気は最初に二重底の下を通ってから
バルブのある方へ行きます。
殆どは二重底の中で凝縮が起きでバルブ以降での凝縮を減らす工夫があります。
近年のアコーディナではその構造は省略されています。
同じ時期に作られたクラビエッタ(Clavietta,クラヴィエッタ)という
鍵盤ハーモニカにも二重底構造がありました。
また、空気の通る順番もアコーディナと同じ向きで
一般的な鍵盤ハーモニカとは全く違う構造になっています。
HOHNERの古い鍵盤ハーモニカでも同じ思想の凝った構造の物があります。



本体内で凝縮した水分は端に付いているドレンバルブから排出できます。
普段のメンテナンスはここからの排水だけで、分解の必要はありません。
リードがある面は外に開放されているので早く乾燥状態になります。



調律の後は洗剤で洗います。
これは新品の調整後に行っていますが、修理で来た場合も同様にしています。
近年は新型コロナの事もありますが、それ以前からこの作業は実施しています。



このアコーディナは側面にステンレスのカバーが付いていて切り抜きで
模様がデザインされています。
開口部が多いのでリードの音がダイレクトに外へ出ていきます。

この部分ですが、金属の断面が直角で、尖ったデザインも多いので
演奏で手で持つと指当たりが痛いです。
なので当店では鋭利な部分の淵を削ってからお渡ししています。
両面の作業をするとかなり時間が掛かりますが自分で使ってみて気になるので。
同じ物を同じように売っていては意味がありませんし、
当店を選んでいただいたからには..という気持ちもあります。



側面のカバーには網が張ってありますが、接着は一部のみで
ご覧の通り、中央部はフリーで簡単に浮きます。
隙間から指が入ると網が内側に入りますし、内側にたるみが出ると
直下にあるリードと干渉して発音に影響します。
なので当店では網を接着補強しています。



ここまでの修正、調律を行って完了です。
これだけの作業を行ってやっとお渡しできる状態なります。


ネットオークションの楽器の整備2022/02/08

ネットオークションで購入したというアコーディオンの修理を承りました。
当店ではどこで購入した楽器でも修理を受け付けています。
日本で有名なブランドの10年以内?の新しい楽器です。
修理と言っても状態が良く、大きな不具合はないので全体の調律程度です。

オークションで購入する場合、新しい事、価値のある物、
という2点が揃っていれば失敗する事は殆どありません。
20年以内の物であれば修理、調整の費用が大きく掛かる事はありません。
40年以上も前の物をイタリア製である事や有名ブランドである事を理由に
買ってしまうと消耗部品の劣化やリードの錆、リードを留めるロウの劣化など
修復に費用が掛かる問題が出ますので、そういう物を保障無しで買うのは
無謀な行為です。
費用をかけても使いたいという物であれば別ですが。



新しい楽器なのでリードバルブの反りなどはありませんし、
リードを留めているロウも全く問題ありません。
上の画像で1箇所だけリードバルブが変えられている所があります。
何かの不具合があり交換したのだと思います。
ただ、何故同じような薄い樹脂製の物に交換しなかったのか不思議です。
ここだけ発音が変わってしまう可能性があります。
また、良く見るとリードの根元に錆があります。



錆があるリードを拡大しました。
新しい中古楽器なので普通の使い方であればリードが錆びる事はまずありません。
また、一般的にはリードの錆が出るのは表ではなくて裏面です。
このように表側の面に錆があり、あるのは少数という場合、
考えられる理由は素手で触った事でしょう。
リードバルブがこの部分だけ変えられているので、
その作業の過程でリードを素手で触ったのかも知れません。

リードは素手で触れば汗や汚れが付いて錆が出やすくなります。
この事を知らない人もいるようで、ネット上で見た修理を教える?動画では
ベタベタと何も気遣いなしにリードを触っていました。
このような場合、後になって錆の問題がでてきます。
知らないというのは怖いです。
また、ネットで無料で見られるような情報はその程度と思いました。

無料や極端に安いというのは一番簡単に誰でも票集めできるつまらない方法です。
そういう物に群がる人は有料になったら来ません。
万人に良い情報を無料で与える事が発展に繋がると思う人もいるようですが、
そうではなく、例えばアコーディオンであれば、修理する人、販売する人、
演奏する人、教える人が、提供した内容に見合った報酬をきちんと得る事が
当たり前になる事が持続性のある真の発展と私は思います。
それはピアノや弦楽器、管楽器の世界を見れば理解できると思います。
ネットで簡単に情報発信できる時代故、よく考えて行わないとダメです。

話が逸れましたが...
私が修理を習ったCooperfisaで、リード関係、調律の担当をしていたシモーネは
いつも青いニトリル手袋をしていました。
これはリードを素手で触って汚染させない為です。
私も作業中はいつもこのことに注意しています。
サラリーマン時代は研究職でしたが、分析、観察、測定するサンプルは
素手で触らない、というのが常識なので言われなくても染み付いています。



新しい中古で明らかな故障や不具合はありませんがリードの調整は不十分です。
これは右手側のリードですがリードの隙間がバラバラです。
弱い音の発音に問題がある状態ですが、これは出荷当初からのものでしょう。
調律前に全て修正します。



ベース側のリードも同じように調整がバラバラです。
イタリア製の有名ブランドでも出荷時はこの程度です。
これは当店で輸入している物でも同じようなものです。
だからこそ、販売前の調整がとても大事なのです。


オリジナルのアコーディナ2022/02/11

1950年代と思われるAccordinaの初期モデルの修理を承りました。
アコーディナは1930年代に考案され1950年代に実際に製品化されたと
されている鍵盤ハーモニカと同じ原理で鳴らす楽器です。
当店では復刻版として現在制作されている物をフランスから輸入して
販売しているので、修理、調律も行っています。



少し前にアコーディナの空気の通り方などブログにて紹介いたしました。

その時、オリジナルではケースの二重底で呼気中の水分を手前で凝縮させる機構が
あるという事を書きましたが、まさにその機構を持つ楽器がやってきました。



分解したケース底部分です。
側面にある吹き口から入った空気は矢印のように二重になっている
下側の空間に入って行き、両端に設けてある隙間から本体のバルブがある
空間へ抜け、バルブが開いた所からリードへ向かって排気されます。
先に扁平で冷えた空間を通る事で大部分の結露が完了し、バルブからリードへ
行く過程では結露が減るという事を狙った構造です。
単純な構造ですがそれなりに効果はあると思います。

オリジナルのアコーディナやクラビエッタではこのような構造がありますが、
二重底の隔壁をケースに留めている接着剤が劣化している事が多く、
粉々になった接着剤の破片が内部で発生する問題が起きている場合が多いです。
この楽器も少し兆候があります。
該当する楽器をお持ちの場合、酷くなる前に対処を行うと安心です。



今回の修理ですが、折れたリードの修理です。
この楽器はオリジナルモデルでも初期の貴重な物で、真鍮製(銅合金)の
リードが使われています。
真鍮リードは錆にくく短くても低音域が出せ、柔らかな音が特徴ですが
使い続けると折れる欠点があります。
以前はアコーディオンにも使われていましたが折れるので今はスチールリードです。
アコーディナでは水分で錆が出るのでその後、ステンレスリードに変わりました。

ステンレスリードのアコーディナは現在でもフレーム付きで音程が確定した
リードが手に入るので外して交換するだけで済みますが、
真鍮リードは同じ物がないので、フレームからリードを外し、
同じ形状になるように手加工したリードと付け替えています。
これはとても時間の掛かる繊細な作業になります。



寸法が合っていなければリードが発音してくれないのですが、
最終的には音程も合わせないといけないので、なかなか大変な作業となります。
素材が柔らかくて加工しやすいのが救いです。
バンドネオンなどで同じ事をする時がありますがスチールの場合は硬いので
加工が大変になります。


ネットオークションの楽器の整備22022/02/12

製造から10年は経っていないと思われるネットオークションで
購入した楽器の調整を始めました。



右手側のリードですが、リードの調整がきちんとされておらず
発音が悪い個所が多くあります。
上の画像の矢印のところは左右の物と比較してリードの隙間が
多い事が見て取れると思います。
この隙間は多くても少なくてもダメで、最適な隙間量があります。
また、リードの大きさ(音程)によって適量が変化します。
同じ位の音域なら大体同じになっている筈ですが、このように
隣の音程と違っている箇所が幾つもあるので修正して行きます。
この修正を行うと調律が変わるので調律とセットで行う必要があります。



これは右手側のLリードの低音部ですが、やはり隙間の量が
揃っていません。
低音部は隙間が多くなりますが、矢印部分は狭すぎます。
この場合、大きな音を出そうとすると音がでなくなります。
これは大きな音で演奏できない初心者には気付きにくい不具合ですが
上達して大きな音が出せるようになると問題になってきます。
その頃には保障期間が過ぎているという事もありますが、
オークションは最初から保障がないのでどうしようもありません。



こちらは別の問題です。
実際に問題が起きている訳ではありませんが、後に問題になる可能性があります。
黄色矢印の所に白くて細い物が付いています。
これはリードに付いている薄い樹脂製のリードバルブの先を切り落とした時の残骸が付着したものです。
つまり、製造時からあるという事です。
この状態では何も問題ありませんが、演奏中に取れてリードに挟まると発音しなくなる問題が起きます。

先のリードの隙間も演奏で変化しないので製造時の調整不足です。
オークションで購入した楽器の問題ではなくて新品の時からある不具合という事なので、この記事のタイトルはちょっとズレているか..



同じように切り落としたリードバルブの先端がベースメカニックの中にも見つかりました。
これはリードより後ろの楽器の外側になるので、内部に残っていた物が演奏する事でベースリードを通過して外に出たという事です。
一歩間違えばリードに挟まって発音を止めるところでした。



この格子状の物はリードが並んで取り付けられている木枠を外した本体側の部分です。
この格子の向こう側に鍵盤操作で開閉するバルブがあり、この四角の穴を空気が通ってリードに出入りするようになっています。
この穴にはスライドして開閉するシャッターがあり、スイッチ操作で開閉してMやLといったリード列の鳴らす、鳴らさないを決めています。
画像で茶色に見える所はシャッターが開いている状態で、シルバーの所は閉じている状態です。2か所、3か所おきに閉じている所は常に閉じていて、これは白鍵の間に黒鍵が無い所で、リードが付いていません。

注目ポイントは四角い穴を縁取るように見える箇所で、これは本来シャッターが全開になっていなければならないのですが、調整が悪くて全開になっていないという事です。
殆ど開いているので音は出ますし、普通に使って行けます。
ですが、能力としては僅かに劣る事になります。
これは究極的な部分での差なので殆ど問題にはなりませんが、調整ができていない事に変わりありません。
同じ機種なのに他人の物と何か違うという時はこのような小さな問題の積み重ねで起きている事もあります。
この部分も通常は使用中に変化しないので製造時からのものです。
当店では販売前にこのような箇所も修正してからお渡ししています。
勿論、調律などで来た楽器もしっかりと確認、調整しています。



ベース側のリードです。
右手側と同様にリードの調整が不十分です。
赤い所は隙間が多く、黄色の所は狭いです。
隣り合うリードは半音違うだけなので大体同じになっているのが普通です。
ただし、隣り合うリードが同じ位の隙間であっても、その分量に問題があるれば調整が必要になります。
必要なのは適量である事です。



ベースリードの別のリード列ですが、この列でも隙間にバラつきがあります。
前にも書いた事がありますが、私がイタリアCooperfisaで修理を習っていた時にリード関係を担当しているシモーネが言っていた事を思い出します。
「この調整はやっていないメーカーもある」です。
この調整とは、リードの隙間の事です。
実際には、隙間だけではなくリードの形も調整が必要です。
とても大事な調整と思いますが、それで良いのでしょうか..



リード周りで別な問題を見つけました。
青い矢印は正常な部分ですが、赤い矢印の所には異常があります。
違いが判るでしょうか?



同じリードを別な角度で見たところです。
赤い方は右端が浮いています。
この部分は接着されているのでリードフレームにピッタリと付いていなければなりません。



問題の箇所を剥がしてみると浮いていた場所に接着剤が残っていません。この場合も音は出るので使用していても異常に気付く事はありませんが、他のリードバルブよりも開きが大きくなるのでここだけ音が大きくなったり、使用中に剥がれ落ちる心配もあります。

総じて、この楽器は製造時の調整が不足しているという感じがあります。今までに何度も書いていますが、この楽器が特別ではなくて新品の時から小さな問題を沢山持っているのがアコーディオンです。
なので当店では輸入後に時間をかけて修正、調整を行っています。
このような中古があるという事は調整不足のまま販売されている楽器があるという事です。
この楽器も有名ブランドで日本に正規ディーラーがある物です。
有名だから大丈夫な訳ではありません。