日本ブランドのイタリア製2022/02/15

TOMBOの中古楽器の調律を承りました。
リサイクルショップかネットオークションで購入した物だったと思いますが、何れにしても専門店で整備済みの物ではありません。


TOMBOのロゴが入っていますがイタリアGuerrini製の物と思われます。25~30年程度以前の物と思いますがその後、TOMBOではイタリア製Guerriniとして代理店販売をしています。最初の頃は日本人が知らないイタリアブランドよりトンボの方が売れると判断したのでしょうか?今はイタリア製を日本ブランドとして売るという事はあり得ないですが、中国製を各国のブランドで販売する事はあるので注意が必要です。判断材料は簡単で、安い物(30万円台程度まで)は中国製と覚えておけば間違いありません。

右手のレジスター(スイッチ)を外していますが、これは元々の見積りには入っていない追加作業です。右手のバルブに問題があり鍵盤を分解する必要が出たのでレジスターを外しました。



鍵盤のバルブの異常はリードの調整などの為にリードを本体から外した時に気付きました。上の画像の上の段の中央の四角の穴の右上の角にバルブ材の革がめくれて裏に貼ってあるフェルトが見える事に気付きました。



鍵盤を押してバルブを開くともう少し分りやすくなります。
元々、この楽器は空気漏れが少し多い感じがありましたが原因のひとつはこれでしょう。



問題のバルブが付いた鍵盤を抜き取りました。左は問題のないバルブで、右側は下の部分がめくれているのが分かります。めくれているだけではなくてバルブの端が四角の穴の淵と殆ど同じになっている事も問題です。
今回はめくれた所を修理して一旦バルブを鍵盤から外し、位置を変えて再度取り付けをしました。



ベースの蓋部分ですが、この楽器はベースの手が当たる部分に面白い特徴があります。矢印の所ですが、緩いカーブの盛り上がりがあります。一般的には平面ですがこのような楽器は初めて見ました。



蓋を開けた内側です。湾曲して盛り上がっている所は空洞で強度確保のためのリブが設けられていました。材質は合成樹脂(ABSかPS?)です。この部分は樹脂、アルミニウム、スチール、木材など色々な物が使われますが普通は平面です。軽量化のためにあまり厚くないので蛇腹を強く閉じる操作をすると凹む感じで歪みが出るのが気になる事がありますが、この楽器はアーチ状に膨らんでいてリブが入れてあるので手の力がダイレクトに蛇腹に伝わる感じがするので、それを狙ったものかも知れません。



調律前のリードの点検、調整をしています。
右手のリードですが、この楽器はあまりリードの調整ができていない感じがあります。矢印の内側面にあるリードですが他より隙間が多いです。弱い音の発音が悪くなっている可能性があるので修正が必要です。リード全体のうち、このような箇所が幾つもあります。



こちらはベースリードですが、やはり隙間が多いリードがあります。逆に隙間が少ない部分もあります。
少し前にも書きましたが楽器を使う事でこのような変化は起きないので製造時からの状態ということです。



これはベースリードが付く本体側ですが、5列あるリードの1列が直付けのため外せません。最近はあまりありませんが以前はこのような構造の楽器が時々ありました。今でも中国製の楽器やロシアのバヤンには直付けの物があります。
リードが本体に直付けされているとリードの内側面の修正、リードバルブの修正、交換などの時にリード自体を外さなくてはなりません。
また、調律も本体に付けたまま行うのでメンテナンス性が悪いです。
なので当店では調律費用が少し割り増しになります。



右手リードの内側ですが、革製のリードバルブが3箇所で反っています。時期的にそろそろリードバルブを総交換する頃になっています。今回は反った部分を修正して使う事になりましたが革製の物は古くなると硬化、反りが出て発音に問題が出るので早い場合は30年程度で交換になります。50年経った楽器では交換必須です。古い物は修正してもまたすぐに戻るので折角調律しても狂いがすぐに出ます。

リードバルブの交換作業は数が多く、その後の調律も必須になるので費用が大きくなります。中古楽器でリードバルブが交換されている事は、ほぼありませんので中古楽器で安く手に入れても案外、その後の費用が掛かる事になります。整備済みと書いてある楽器でもリードバルブが新品になっている事はまずありません。もし、全て交換したら中古でもそれなりに高くなっている筈ですし、それを売り文句にするでしょう。



こちらはベースリードの方ですが、内側のリードバルブに反りが出ている箇所があります。右手側と同様です。
やはり経年による症状が全体で起きているということでしょう。

リードバルブが反ると何が問題になるか?という事ですが、一つは弱い音を演奏した場合や、蛇腹の切り返しの時に独特のノイズが出る事です。酷い場合はバルブが閉じる音が聞こえる程になります。もう一つは調律に狂いが出ることです。

リードバルブに反りが出ると発音は良くなります。新品のうちはバルブが硬く、最初はピッタリと閉じるように施工するのである程度の圧力がないと開き始めません。楽器を使ううちにバルブが柔らかくなったり、反りが出てくると最初の頃より音が出やすくなります。この事でリードが馴染んだと言う人が多いですが、リードが変化した場合、調律は下がります。ですが、大抵の場合使って行くと調律は高くなります。これはリードバルブが開きやすくなり抵抗が減るからです。
アコーディオンを使って行くうちに鳴るようになるのはリードが馴染むとか、リードが変化する訳ではなく、リードバルブが開いてくるからです。このような事を言う人は何故かおらず、一様にリードが鳴るようになった..という話になりますが、現象を精査するとそれはあり得ません。変化しているのはリードバルブの方です。いずれにしても調律に狂いが出るので定期的なメンテナンスが必要です。



リードの錆も一部に確認されました。ある程度年数が経った楽器ではどうしても起きます。これも調律への影響があるので除去が必要です。ネットオークションなどの中古楽器はメンテナンスが必須の物という前提で購入しなければなりません。