フレンチボタンの調律2023/02/12

フレンチタイプのボタン式アコーディオンの調律を承りました。
日本で購入した新品で丁度1年経過した物という事ですが、
MMの波の速さを変更する目的です。
日本では在庫楽器を購入する場合に調律を選べない販売方法が普通のようです。
この楽器はフレンチタイプなのでMMは速めの波になっていますが、
ユーザーの希望でゆっくりとした波に変更する事になりました。
当店ではMMの波の速さは、お渡し前に任意に調整しています。


ターコイズのセルロイドが綺麗なPiermariaのMMの楽器です。
1年使用の新品なので、リードバルブの反りは皆無ですね。
フレンチタイプのボタン式と書きましたが、実際には外観や操作系がフレンチで
中の作りは鍵盤式と同じように、リードはロウ留めされています。

フレンチタイプの特徴は、右ボタンが少し小さく、ボタンの距離が狭く、
右のレジスター(スイッチ)が背面にあり、ベースボタンがキノコ型などです。
音質が鍵盤式やインターナショナルのボタン式と違っていて、クッキリとした音が
特徴となっていますが、リードを木枠に釘で留めている事に由来します。

この機種はリードはロウ留めですが、以前は釘も打ってありました。
この楽器では釘が無いので省略されたようです。
まあ、ロウ留め楽器に釘を打っても音に変わりはないので、
省略しても問題なかったのでしょう。

以前に調律した同じ機種の記事です。


新品楽器でも調整は完全ではありません。
リードの隙間にバラつきがあります。


リードの隙間のバラつきは数ケ所程度という事はありません。
隙間が適正でないと発音のしやすさにもバラつきが出ます。


このリードにもバラつきがあります。
何となくリードフレームの表面が白っぽい事に気づきました。


綿棒で表面を拭いてみると表面が取れてアルミニウムの光沢が出てきました。
リード表面は汚れていないようなので問題はなさそうです。
原因は不明ですが、使用に伴うものであればリードにも付いていると思います。


リードを留めているロウにひび割れの様な物がある箇所があります。
幾つかのリードではこのようになっていました。
施工が悪かったのか、暑い環境に置かれたのか?
理由は分かりませんが、補修しておきました。


木枠の内側のリードですが、リードバルブの側面が壁に当たって
戻っていない箇所があります。
リードバルブが自由に開閉できないので雑音が出たり
調律が不安定になりますが、このような小さな不具合は新品の時からあるものです。
どんなに高級な楽器でもあります。
リードの数が大量にあり、手作りされている楽器なのでエラーが
あるのは仕方がないことでしょう。
販売前の検査と修正をきちんとすれば殆どのエラーは潰せます。
それでもすり抜けた不具合は保証でカバーします。
因みに、この楽器のリードは右手だけで188あります。
左は96ありますので、全体では300近くになります。


木枠の上に傷のような跡を見つけましたが、
案外深くて空気が漏れていそうな感じがしました。


内側から光を当てると穴が空いている事が分かりましたので補修しました。


本体背面にある右手のスイッチです。
動かすとMとMMを切り替えている事は確認できましたが、
動きのフィーリングが良くありません。


気になったので点検も兼ねて分解しました。
スイッチと連動して左右に動く鍵状の部品(手前)と、
本体側の真鍮製の棒が噛み合ってスイッチの動きを本体に伝えています。


本体側の切り替え機構ですが、見た目や動かした時の感じは悪くありません。


背面の板に付いているスイッチの方ですが、
こちらもこの状態で操作すると普通に動いている感じがします。


スイッチの軸部分はグリスが沢山付いていますが、
無駄に付けても埃を寄せるだけなので拭き取りました。


本体と繋がる鍵状の部分ですが、よく見ると..


可動範囲に相当する大きさの直線的な傷が背面パネルの内側にあります。
これは怪しい!


パネルを嵌めて組み立てた状態にすると、本体側の真鍮部品の先が
パネルの内側と干渉している事で傷が付いていました。
操作フィーリングが悪いのもそのせいです。
真鍮部品の先を削って問題はなくなりました。


ベースリードの調整を終えて本体に戻します。
勿論、ただ戻すだけではありません。
きちんとした状態でマウントされるように調整します。


リードを戻す時に異常を感じました。


リードの木枠の下の部分ですが、木枠の端(青枠)と中央部(赤枠)で
本体との隙間に差があります。


反対側の端と比べてみても同様ですので、傾いているという事ではなく
真ん中あたりが凹んでいるという感じでしょうか?


手元にあった2つ折りの紙の何かの取り説を入れてみると簡単に通りました。


今年届いた年賀状があったので1枚づつ差し込んでみると、
3枚は入りますが4枚は入りませんでした。


ハガキ3枚の厚さは0.7mm程度でした。
0.7ミリの隙間は無視できるものではありません。
空気漏れで必要以上に蛇腹が動いているでしょう。
これは、音を鳴らしている時にだけ起きる空気漏れなので、
何もボタンを押していない時に漏れる空気漏れと違って判断が難しい不具合です。


木枠と本体の間に隙間ができる時は殆どの場合、木枠に反りがあるからです。
木枠に定規を当ててみると僅かに反りがありますが、ハガキ3枚分という事はありません。


本体に定規を当てて、反対面から光を当ててみると隙間が見えました。
これで本体側が凹んでいる事が確定しました。
さて、どうやって修正するか..
色々と考えて対策を施しまし、問題は解決できました。
あまりある事ではありませんが、以前にプロ奏者の方の
同じくフレンチタイプのボタン式(Cavagnolo)で同じ事がありました。
その時は本体と木枠のどちらが反っていたのか忘れました。
ただ、驚いたのは演奏時にだけ起きる僅かな空気漏れに気付ける能力です。
問題提起からの不具合発見でした。
さすが、プロ奏者は違うなぁ..と思いました。


本体内部の様々な不具合を修理、調整し、あとは全体の調律を行うだけです。
その前に、ベースボタンの1カ所が傾いている事に気付いてたので修正しました。
これは一番端なので、ぶつけて曲げてしまったのでしょう。
大抵はDimの列(この機種は80ベースなので7th)の部分を曲げてしまいますが、
今回はベースの列でした。
機構的には一番奥になるので、一番手前のDimの位置より修正が大変です。