Claviettaの整備2022/10/18

1960年頃にイタリアで製造されていた鍵盤ハーモニカ、
クラビエッタの修理を承りました。


見た目は普通に鍵盤ハーモニカです。
製造していたのはオリジナルのアコーディナと同じなので
構造や部品が共通の部分も多いです。
外観は問題ありませんが、空気漏れがとても多く、
まともに使う事ができないような状態の楽器です。



空気室を分解しました。
クラビエッタや当時のアコーディナは吹き込みの後の空気の処理が
同じような構造になっています。
吹き込んだ空気は二重底になっている底の方を通って行きます。
上の画像の金色の部分は上下を分離している板です。
吹き口から入った空気は、この板の下の空間を最初に通ります。



二重底の下を通った空気は吹き口から一番離れた所の仕切り板の切れ目から
上の空間へ入って行きます。
上の空間の天井には鍵盤操作で開くバルブがあり、
バルブを抜けた空気は最後にリードを通って外に出ます。
なのでリードは一番外側の圧力がない空間に設置できます。
音が良く出てメンテナンスも容易です。
鍵盤ハーモニカではリードが先で最後がバルブなので
リードは本体内の空気室にあるので音がこもりますし、水が付きやすいです。
調律作業も大変になります。

クラビエッタへ吹き込んだ息は二重底の下の
冷えた空間を先に通る事で呼気中の水蒸気を凝縮水に変えて落とします。
バルブ以降のエリアで凝縮水ができにくいようにする凝った構造です。
当時のアコーディナも同じ構造を持っていますが、
現在のアコーディナでは省略されています。
二重底でも長時間吹くと内部が暖まって冷却効果が薄れるので
実際の効果がどの程度あるかは不明です。



鍵盤操作で開閉するバルブです。
形や構造、サイズまで当時のAccordinaとそっくりです。
このバルブはエンジンのバルブと似た構造をしており、
内圧でバルブが閉じる方向に力が掛かるので空気漏れしにくい構造になっています。
強く吹く程、バルブは閉まるように動きます。
現在の鍵盤ハーモニカでは殆どの場合、圧力が抜ける方へ動く構造なので
ある程度、鍵盤のバネを強くしないと空気漏れします。
あまり鍵盤のバネを軽くできない理由ですが、
空気の方向が演奏中に入れ替わるアコーディオンでも同じ事が言えます。



バルブは専用の特殊ネジで留められていますが、
僅か1.5ミリ程度の細いステンレスネジなので、少し無理をすると折れます。
このネジは鍵盤に繋がる長い物で、代わりの物はありませんし、
バルブのネジ内に折れた物が残り、それを抜くのが困難なので
どんな事があっても折りたくない部分です。
自分で分解してこの部分を折った楽器を今までに何度か見てきました。
年数が経っていて固着している時もあり、難しい作業になります。



今回の空気漏れの原因はバルブのゴム部品の劣化です。
バルブを全て外しました。
見ただけでは劣化が分かりにくいですが、
硬化と変形で役に立っていない状態です。



ネジ部分からバルブ材を外そうとすると簡単に割れ、この通りです。
薄いせんべいのように大変脆い状態です。



別で作っておいた新しいバルブ材と交換したところです。
もちろん現在では専用部品はありませんので手作りします。



古いバルブ材を全て取り外しました。



そして新しいバルブ材を取り付けました。
これを行うと手が痛くなります。



バルブを全て外したらバネで押さえられていた板がフリーになって
接着がダメになっている事が分かりました。
バルブを戻す前に本体の接着修理が必要です。
多分ですが、以前に接着修理をしたような跡があります。



空気漏れの主な原因はバルブですが、その他にもあります。
空気室の合わせ目に入っているパッキンシールも劣化して硬くなっているので
貼り替えします。



バルブを戻し、シールを貼り換えました。
バルブを戻すのはネジを締める作業なので、
外す時と同様、とても気を遣います。



空気漏れの原因はもう一つあります。
空気室の下にある凝縮水を抜くドレンバルブです。



ドレンバルブのバルブ材は革ですが、劣化していますので貼り換えます。



ドレンバルブの修理を行い、空気室を組み戻してバルブ周りの修理は完了です。
これで空気漏れは激減し、大きな音が出るようになりました。



本体の一部が破損しているので修理します。



後は全体の調律を行いますが、先だってリードの発音調整をします。
外さずに調整できるところもありますが、必要があればリードを外して調整します。
発音の調整などを行い、最後に調律を行います。



そして、調律完了!
これで楽器として普通に使える状態になりました。



今回、これで終わりではありません。
同じ物が複数あります。
Claviettaを愛用する方は壊れた時の為に予備を持っている事が多いです。
古くて手に入りにくい事や、プロ奏者が仕事で使う場合が多いためです。



2台目も全く同じ症状と内部状態です。
という訳で、同じ作業をもう一度おこないます。


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