新品の小型ダイアトニック ― 2023/02/28
イタリア製の小さなダイアトニックアコーディオンの調律を承りました。
届いた楽器はベースボタンが2つしかない小型のダイアトニックでした。
個人輸入で新品で購入した物という事です。
全く知らないメーカーで、昨年で創業140年らしく、これはその記念モデルのようです。
イタリアには小さなダイアトニックが各地の集落のお祭りなどで使われ、
小さなメーカーも沢山あるのでしょう。
分解前に音を鳴らしてみましたが、MMのずらしが多過ぎる事を考慮しても
全体の調律ズレが大き過ぎるという感じでした。
新品なのに調律を行うという時点で予想はしていましたが。
中を開けると、やっぱりというか、直付けリードです。
小型のダイアトニックではよくある構造ですが、リードが本体から外れないので
調律などのメンテナンスがとても大変になります。
新品とは思えない感じで多くのリードバルブに反りが出ています。
左上のリードバルブは斜めに付いていて、リードにぶつかっています。
これはかなり手を入れないと調律に進めそうにありません。
リードバルブにロウが付着して半分しか開かない所も。
新品ではよくある事ですが、製造時の加工屑が隅に溜まっています。
演奏すると飛散してリードに挟まって音が止まる原因になります。
当店では新品楽器は内部の掃除を行い、加工屑の飛散を抑えていますが
それでも、新品には音が止まるリスクがあります。
小さな楽器なので、そんなに沢山のリードはありませんが、また問題を見つけました。
リードバルブの上下が逆になっています。
表裏が逆というのは時々ありますが、上下が逆は珍しいです。
リードの隙間の調整もバラバラで、発音開始にバラつきがあります。
発音不良のリードを取り外しましたが、内側のリードバルブが傾いており
リードの固定で流れたロウが付いて開きが悪くなっていました。
この楽器は小さいですがMMLで、Lリードだけはリードの木枠が外せます。
Lリードにはストップ栓が付いていて、開閉ができますが
開閉するシャッターの調整が悪く、閉じるポジションでも僅かに隙間があります。
Lリードなのでこの程度の隙間で音は鳴りませんが空気漏れが生じます。
蛇腹容積が少ない小さな楽器では空気漏れの影響が大きく出ます。
リードを留めているロウの施工忘れもありました。
全てのリードの問題を取り除きました。
これでやっと調律へ進めます。
リードをよく見ると、高級品のBINCIでした。
140年記念モデルだから奮発したのでしょう。
ですが、作りが悪すぎてリードの良さが活かせていません。
あまりにも調律が酷いので、測定してみました。
MMLのうち、調律をずらしていないMとLをプロットしました。
ダイアトニックなので鳴らない(リードが存在しない)音程もあります。
この楽器はイタリア作成され、恐らく何も指定していないので
A=440Hzになっていると思いましたが、実際には全体がかなり低くなっています。
しかも音のズレが目立つ高音域にかけてズレが大きくなっています。
音がとても気持ち悪く聴こえたのはこれが原因でしょう。
単に低音にズレているだけではなく、バラつきも大きく、中国製の楽器のようです。
この状態を目指して調律を行います。
意図的に高くずらしてある方のMも、このタイプの楽器にふさわしい
多めのズレで作る速いビートを考慮しながら綺麗に整えて行きます。
調律が完了し、最終チェックでボタン操作に違和感があるので点検しました。
矢印の所のバルブが接触していましたので、修正しました。
全ての作業が完了しました。
これで楽器の能力100%で使って行けると思います。
それにしても、この感じの作りでこの先も大丈夫なのか心配になります。
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