専門店の中古?2023/04/04

購入したばかりの中古楽器に内蔵マイクを取り付けて欲しいという事で
楽器を送っていただきました。
マイクを付ける前に一通りのチェックを行いましたが、かなり悪い状態の物と分かりました。
まず、鳴らしてすぐに分かる程の調律のズレ。
そして、少なくない空気漏れです。


楽器はPIERMARIAのボタン式でMM、80ベースの物です。
スイッチが右ボタンのすぐ上にあるので、最近のフレンチデザインの物ではありません。
恐らく、40年程度は経っていると思います。
不思議なのはボタンの印が一般的なCとF以外にGにもある事です。
恐らく、元々は何も印が無かったボタンに後で加工したのだと思います。
印が3音もあったら訳が分からなくなると思いますが..

調律は測ってみるとA=444~445Hzあたりとかなり高めです。
日本に入ってくる新品楽器は442Hzが普通ですし、世界基準は440Hzです。
元より、全体の調律のバラつきが大きく、少し弾いただけで???な感じです。


購入して間もないという中古ですが、かなり汚れが目立ちます。
オークションか個人売買なのか?と思いました。


蛇腹の中も埃があります。
専門店で販売する中古であればこのような事は無いと思います。


ベースの点検をする為に蓋を開けましたが、クモの巣がありました。
まあ、古い中古で未整備の物ならある事でしょう。
中国製なら新品でもありましたので..

ベースストラップは、目一杯に締めてもまだ緩く、
切り詰めが必要な状態でした。


右手ボタンの裏面のネジが2か所付いていません。
オークションの中古ならある事でしょう。


楽器の表にはフランスのアコーディオンクラブのステッカーが貼ってあります。
この感じから言って、海外から中古を個人輸入したのかな?と思いました。
ですが、確認してみると、国内のアコーディオン専門店から整備済み中古として
購入したという事で、信じられません。


調べて行くと他にも色々出てきました。
右手ボタンのカバーの隙間にフェルトが挟んであります。
恐らく、ボタンの操作でカバーに干渉して音が出るのを止めたのでしょう。


ボタンのメカニックとカバーの間にフェルトが入れてある部分の拡大です。
ここに物を入れると、ボタンの可動部分になるので、動きに支障が出ます。
専門店の中古では、このような処置はしないのが普通です。


更に、右手ボタンのメカニックで針金を巻いて修理してある所がありました。
これも、専門店なら行わないでしょう。
素人の応急処置レベルです。


右手のスイッチに改造があります。
スイッチの表示はMLですが、この楽器はMMでした。
3つあるスイッチは何故か、ML表示の所はMで、M表示の所はMMです。
MMのスイッチは2個あり、そのうちの一つが改造してあります。
矢印部分に木でできたストッパーが入っています。


ストッパーがあるので、スイッチを最後まで押し切る事ができません。
この事により、Mの片方のシャッターが半開きになります。
半開きになると調律がズレるので、もう片方の改造していない方のMMの時と
違った感じのMMの音になるという改造です。
このやり方は制御されたズレにはならないので、良い方法ではありません。
購入した方に聞いてみると、販売者の話として、同じMMではつまらないので、
2種類になるように改造したという事でした。
このような話しが出てくるという事は、それなりに知識のある専門店と判断できます。
なのに、この状態の楽器を整備済みとして販売している事がとてもショックです。
それと、この改造、木のストッパーの汚れ具合から判断して
ずっと以前からやってあったのではないか?という気がします。
真相は分かりませんが..


他にも色々出てきます。
右手のバルブの下に貼ってある革の一部に補修跡が見られます。
これは、空気漏れがあるからか、革が剥がれたからか、どちらかと思いますが、
空気漏れの問題なら全てのバルブで必要な処置ですし、
革が剥がれたのであれば、やはり全てのバルブで弱っている筈です。
手の届きやすい、前列の一部だけ処置しました..という感じです。
空気漏れが多い原因はこれかも知れません。


内部を点検すると更に酷い状況が分かりました。
古い楽器で起きる事ですが、リードを留めているロウが劣化しており、
ロウにヒビが出ています。
この問題はとても大きく、リードの固定が緩くなると、雑音が出たり
調律が不安定になるので、楽器として使えなくなります。
また、これを修理するには、全てのリードを木枠から外して
古いロウを除去した後に、新しいロウで留め直す修理が必要です。
時間と手間が掛かるので大きな出費となる修理です。


ロウのヒビは楽器全体にあります。
幾つかのリードではロウを補修した跡があるので、
既に何等かの問題が出ているのではないかと思います。


ベースリードの方も同様にロウにヒビがあります。


リードに貼ってあるリードバルブを押さえるバネも異常な曲げ方になっている所があります。
これだけ問題があると、専門店で購入した整備済み楽器とは思えません。
最低、調律はきちんとしてあるべきですし、
ロウにヒビがある物を売ったりはしません。
買って数日との事なので、返品対応を提案しましたが、
返品は受け付けてくれなかったそうです。
では、保証で修理してもらえば?と思いましたが、
間に入って揉めたくないので、それ以上は言いませんでした。


結局、リードの固定が不安定なので、整備を行っても先が見えている事をお伝えし、
内蔵マイクの取り付けも見合わせる事になりました。
取り敢えず、最低限の修理として、蛇腹と本体の合わせ目のパッキンシールの交換、
ベースストラップの切り詰めだけ行う事に。
ウチはマイクの取り付けも行わず、無料点検と少しの整備をしただけという事です。
あまりに汚いので清掃もしました。
グリルカバーが収まる溝部分ですが、大量の埃が堆積しています。


取れる範囲で埃を除去しました。
整備済み中古なら、最低限、これくらいにはします。
汚れているだけではなく、調律ズレ、ロウの劣化、空気漏れ..
専門店販売の整備済み中古とはとても思えない物でした。
何より、この事実がショック過ぎます。
安ければ仕方ないという範囲の物ではありません。

coba tour20232023/04/04


cobaさんの、「サムライ アコーディオン」と題した
ツアーが始まっています。
名古屋でも5月17日に行われます。
この公演のチケットはmonte accordionでも販売しています。
※当店での販売は終了しました。(5/3)
  各プレイガイドでの販売は継続しています。

ツアー詳細は下記サイトで見られます。


修理しない楽器2023/04/04

アコーディオンの修理をして欲しいという事でご来店がありました。
オークションで購入した中古品との事です。


楽器はヤマハの12ベースでした。
恐らく50年程度以前の物でしょう。
年代の割には緑のセルロイドが綺麗な見た目の良い楽器です。
ですが、楽器としては問題が出ています。
音は出ますが雑音があり、音が弱く、空気漏れしています。


右手のリードですが、革製のリードバルブと、リードを押さえる透明樹脂の
細い部品は経年で劣化して大きく反りが出ています。
この年代のヤマハのアコーディオンでは定番の症状です。
楽器内の全てのリードバルブを交換する必要があります。
全てのリードバルブを交換して、全体の調律を行えば新品の頃の音が蘇ります。


この楽器にはもう一つ、問題がありました。
リードの木枠の底部分が剥がれています。
リードを平行な部分のパーツと、木枠の底面になる部分のパーツが
剥がれて隙間ができているので、空気が漏れて音が弱くなっています。


2つある木枠のもう一つの方にも木枠剥がれの兆候が出ています。
この楽器を修理して使えるようにするには、それなりに費用が掛かります。
音域がとても少なく、できる事も限られている楽器に費用を掛ける事は
一般的には意味が無いので、この楽器は修理しない事になりました。
直せば中国製より良い物にはなりますが、できる事と掛かる費用が
釣り合わないという事です。

安く買ったのだと思いますが、使えないのであれば無駄な出費です。
中古を買う時は修理費が掛かっても、直す価値がある物を選ぶべきです。
高級な楽器でも50年を超えていれば問題が出てきますし、
高級な物ほど、修理費用も多く掛かります。
整備済みの中古でも、消耗品の全てを交換している訳ではないので、
問題が出てくる日は近いですし、既に問題があるかも知れません。
もし、完全に消耗劣化部品を交換した場合、新品と変わらない程度の金額になります。
それなら新品を買いますし、そうでない金額なら、寿命は近いという事です。


MORESCHI入荷2023/04/05

イタリアのMORESCHIというメーカーから新しい楽器が届きました。
モレスキと発音しますが、創業100年を超える老舗メーカーです。
2月に41鍵盤HMMLの黒が入荷しましたが、
今回は37鍵盤MMLの白です。


音域と扱いやすさのバランスが良い中型サイズです。
MMLとすることで、重さ、価格を抑えています。
Hリードは万人に必要ではありません。


セルロイドの白ボディーと馴染みの良いパール鍵盤です。
鍵盤幅は演奏しやすい標準幅です。
細い鍵盤の物は指の幅と同じ位になるので、
少しのズレで隣の鍵盤に触れて意図しない音が鳴り、お勧めしません。
複数楽器がある場合も持ち替えた時に違和感が出ます。


96ベースで、音の切り替えは3つあります。
蛇腹の内側は赤です。


このクラスとしては立派な胸当てが付いてきます。


中型サイズでMMLの楽器は普及機としての楽器が多いので
一般的には標準リードの物が多いですが、
この楽器にはハンドメイドタイプが使われています。
MORESCHIはリードメーカーがグループ会社にあるので
良いリードを安く入れる事ができます。
現在のアコーディオンメーカーは自社でリードを作っているので
どのメーカーもリードメーカーからリードを買っています。


重さは実測で9.0kgと、軽量です。
アコーディオンの重さは、カタログ値やメーカー発表値は誤差が大きく、
殆どの場合、実際には重くなっています。
カタログの値が軽い事で楽器を選定すると失敗します。
真相が気になる方は自分の楽器を計測してみてください。
落胆する事が多いでしょう。

修理する楽器2023/04/11

ネットオークションで購入したという日本製アコーディオンの修理を承りました。


メーカーはヤマハです。
現在はヤマハではアコーディオンを作っていません。
日本製のアコーディオンは合奏用を除いて現在はありません。

ネットオークションで購入したという楽器ですが、
ご覧のようにベースボタンが落ち込んでいる状態です。
音が出たままになっているので、実際の楽器の状態は確認できません。


オークションで表示されていた時は、ボタンに異常は無いという事なので
輸送中に起きたのでしょう。
これは、いわゆる輸送事故ではなく、発送する時の姿勢が悪い事で起きています。
アコーディオンは安全に輸送する向きが決まっていますので、
それを間違えるとこのような事になります。
アコーディオンの安全な送り方は下記リンクをご覧ください。

受け取り後に、こうなっていると宅配業者のせいにしたがる人もいますが、
これは輸送時の姿勢や梱包が問題なので、保証の対象ではありません。
無理に保証で直そうとすると、アコーディオンは宅配に向かない物という
扱いになり、一般の宅配で受けてもらえなくなります。
そうなると、遠方からの修理や通販をする場合、高額な
楽器専用などの運送方法を使うしかなくなってしまいます。
なので、安易に運送会社の保証を使う事を考えないでください。
但し、箱が凹んでいるなど、明らかに輸送時の問題と分かる場合は
主張しても良いでしょう。
それでも、アコーディオンは宅配できない物、に一歩近づくと思います。
多少の事では壊れない梱包にする事が重要です。


ベースリードを取り外したところです。
空気が通る四角の穴のところにあるバルブが開いている所があるので
音が出たままになっています。


ベースメカニックは酷く崩れていますので、
こうなると、ボタンを全て外して元に戻して行くしかありません。
メカニックに歪が残ると、ボタンが元に戻っても空気漏れが残る事もあります。


ご依頼はベースの修理ですが、内部の点検も行いました。
古いヤマハの楽器の典型ですが、リードに貼ってあるリードバルブと
樹脂製の部品が劣化しています。


革製のリードバルブと、樹脂製の細い部品が反っています。
この状態では雑音が混ざって綺麗な音は出ません。
調律もズレているでしょう。
楽器が届いた時にはベースが鳴ったままなので、
楽器の音の異常までは気づく事ができません。
購入した人はベースが直れば普通に使えると思っているでしょう。


ベース側の本体内側に、60と書いてあります。
これは恐らく、昭和60年製造という事でしょう。
38年前の楽器という事ですね。
40年程度経過すれば劣化する部品も出てきます。

ただ、この楽器はリードバルブなどを新品に貼り替え、
全体の調律を行うと、最近の安い中国製の楽器よりも良い物になります。
この楽器は37鍵盤、MML、80ベースという仕様なので、
修理費をかけても、新品の中国製より良い結果となります。
なので、今回は修理を行う事になりました。
先日、同じヤマハ製の古いアコーディオンの修理依頼がありましたが、
その時は、修理しないという判断でした。

この違いは、楽器の音域により決まります。
中古を買う場合は、費用をかけて直す価値がある物かどうか?が重要です。
40年以上経過した中古でそのまま問題なく使える事はありません。


ベースメカニックを修理しました。


ベースのバルブは全て閉じて、空気漏れによる発音もありませんでした。
後は、リードバルブを貼り換えて、全体の調律を行い、
ベルト類を新品にすれば、使って行ける楽器になります。