新品の整備2022/08/22

イタリア製の新品の楽器を購入していただけることになり、
細かい不具合の修理、全体の調律などを進めてきました。


最終点検で気になる症状があったので修理の為に分解しました。
これは楽器の背面にあるマスタースイッチ(パームスイッチ)です。
手のひらで押すスイッチです。
動きは比較的軽いのですが何か微妙に引っ掛かる感触が気になりました。
まあ、普通なら問題なしとして出荷されるレベルと思います。



背面のスイッチ機構が疑わしいので分解しましたが、
分解した事で本当の原因が分かりました。
スイッチを外した状態で残った機構だけを作動させても問題の感触が出たのです。
つまり、スイッチ機構ではなくて本体側に問題があるという事です。
詳細を調べてみると、パームスイッチから動きを伝達する部品が
本体の切り替えスイッチにあるバネの先に僅かに干渉している事が分りました。

パームスイッチを押すと最初に赤矢印の1の方向に金属部品が動きます。
その先にある赤矢印2の所が押されて指で押すスイッチの方へ
動きが伝わるしくみですが、1の金属部品が黄色矢印の細いバネの先端に
ぶつかっている事で動きの途中に変なクリック感が出ていました。
細いバネは右手スイッチを押した時に位置を元に戻すための物です。
1の金属部品を手前に少し曲げて干渉を避けるようにして問題はなくなりました。



パームスイッチを外した後の本体裏側ですが、
スイッチが当たる部分が擦れて傷になっています。



パームスイッチ側の方にも本体が当たる位置に同じような傷があります。
これはお互いが僅かに接触している事を意味しますので
パームスイッチ側にも動作フィーリングを悪くする原因があると判断し、
両者が接触しないように修理しました。



修理後にパームスイッチを戻し動作確認をすると、とても動きが良くなりました。
小さなことですし、元のままでも動作自体に問題はありませんでしたが
折角買っていただく楽器ですので、ベストな状態でお渡ししたいと思っています。


中古楽器の整備2022/08/08

中古楽器の1つを買っていただけることになりました。
製造から20年程度は経過している高級楽器で、
今は会社がなくなってしまったDallapeです。
楽器としての寿命はまだまだですが、それなりに古いので
しっかりと調整、調律を行ってお渡しします。


この楽器は問題が1つありました。
アコーディオンとしては問題が大きい空気漏れの症状です。
空気漏れにも色々な状態がありますが、この楽器は蛇腹に空気を貯めた状態で
鍵盤もボタンも押さないで蛇腹を閉じるテストを行うと漏れが大きくなります。
これは鍵盤やベースボタンの操作で開閉するバルブからの空気漏れを意味します。
このテストで楽器に悪い影響が出ることはありません。
とても重要なことなので必ずこのテストを行います。
詳細を調べるとベースのバルブからの漏れがある事が分りました。
恐らくですが、新品の頃からあった症状と思います。

という訳で、ベースのバルブを除いた全ての部品を取り出して
バルブの調整を行っています。
ベースの方にも右手と同じように開閉するバルブがあります。
全部で24個ですが、通常はバルブの上に大量の細かい部品があるので
目視する事は困難です。
上にある部品を全部取り出すと右手のグリルカバーの下にあるような
バルブが見えてきて修理を行う事ができるようになります。



バルブの修理が終わったら部品を一つずつ組み戻して行きます。
バルブを触ったので位置関係に微妙なズレが出ます。
このため単に部品を戻すだけではなく、調整しながらの組み戻しとなります。
まずはベースボタン40個を戻しました。



続けてmajとminのボタンを40個組みました。
文章で書いたら1行ですが、調整を行って戻すので
集中力と時間が多く掛かる大変な作業です。



majとminのボタンを入れ終わると細い仕切り板を部品の隙間に入れます。
この部品はアコーディオンの表面に貼られているセルロイドの余りを
細く切って使っていますが、見えない部分なので意外な色のセルロイドが
入っていることがあります。
この楽器では金ラメのギラギラしたものでした。
今では殆ど作られていないような色のセルロイドが出てきたりする事があります。
ベース部分の修理をする時の小さな小さなお楽しみです。



ベースボタンを全て戻して修理完了です。
左手を通すベースストラップも新品に交換しました。
この後、空気漏れのチェックを行い全く問題なしになりました。
後はリードの調整などを行い全体の調律、外観の修正を行って
全ての調整が完了となります。


未整備新品楽器の整備2022/08/03

未整備状態の新品アコーディオンの整備、調律を承りました。
新品で購入したという物ですが発音しない音や調律の問題があります。
購入したのは個人輸入からで、保障もないため当店が承ることになりました。



リードの調整ができていないので先端の隙間が場所によって違っています。
因みに、楽器はイタリア製のダブルチャンバー、120ベースで、
少し前に突然閉業してしまったメーカーです。
当店では開業当初から販売していましたが良いメーカーだったので残念です。



こちらもリードの調整のばらつきですが、前の画像より分りやすいかも知れません。
有名メーカーの新品でも輸入直後の状態はこんな感じです。
リードの調整が悪いと弱い音が出にくかったり、とても強い音が出なかったりします。

販売する人がどんなに調整済みなどと言っていても、
実際に音を出して問題があれば調整ができていないという事です。
言うだけ、書くだけは簡単です。
そんな時は保障があるなら早いうちにクレームで戻すとよいでしょう。
その時、新品だから暫く使うと段々良くなる、などと言う店や人は
単なる言い逃れなので、その後の付き合いは止めましょう。
古い中古だから..というのも同じです。
古い中古も整備してあれば問題なく使えます。
保障も無いような楽器であれば諦めて調整に出しましょう。
折角購入した楽器が不調では意味がありませんので。



リードバルブの矢印部分に折り癖が付いています。
少しのことですが、この状態は音に影響が出るケースなので修正か
交換が必要です。



こちらのリードバルブにも問題があります。
パッと見では分りにくいかも知れません。



リードバルブの先を持ち上げてみると悪いところが分ります。
矢印部分ですが、本来、接着されている所が剥がれています。
このような不具合を見つけるにはかなり注意して細部を調べて行く必要があります。
時間が掛かりますが必要な作業なので実施しています。



リードが付けられている木枠の穴ですが、接着剤の泡が破裂したような状態で
固まっています。
このままでも普通に音が出るので不具合の判断にはならないのかも知れませんが
数%のロスと風切り音が出る可能性があるので除去します。



作業はベース側へ移ります。
ベースリードを外しました。
この楽器は高級な物なので一番低音の大きなリードはL字型の木枠に
取り付けられています。
このような作りの楽器では低音の響きが豊かになりますが
調律やリードバルブの修正、交換が少し大変になります。



ベースリードを外した後の本体側ですが、
マスタースイッチを押しても微妙に全開になっていません。
このままでも普通に使えると思いますが、僅かなロスがあるでしょう。
当店では気持ちが悪いのでお渡し前に修正しています。



この楽器のベースレジスターの図です。
勿論、当店で作製したものです。
使っていて右手と相性の良いスイッチが見つからないということでしたので
今回、あまり使い道のないスイッチを1箇所改造する事にしました。



ベースレジスターの機構を分解して行きます。
スイッチのクリック感を作るバネ部分ですが、グリスが多過ぎて
周囲の機構に入り込んでいます。
この状態だと機構の動きが悪く、操作フィーリングがとても悪くなるので
分解ついでに清掃します。



ベースレジスターの分解が完了しました。
この後、組み替えの改造をします。



バネ部分ですが、他の部品が無くなったので全貌が見えます。
グリス付け過ぎですね。



グリスを除去すると小さな不具合が見えてきます。
矢印部分は下の部品と干渉している感じがします。
また、バネの位置がバラバラなのでバネ圧も均等になっていません。
全て修正して組み戻します。



レジスターの改造を行い、部品を元に戻しました。
マスタースイッチで全ての窓を全開にしたところです。
スッキリと本当の全開になりました。



ベースボタンですが、A♭、C、Eに印があります。
Eから4つ上の..何の音だったか..
ここには印がない事が多いですが、ここにも印が欲しいということで
付けることになりました。



という訳で、G#にも印を付けました。
古い楽器ではA♭やBに印がない時がありますが
そんな中古でも当店では印を付けています。
お持ちの楽器に印がない時も付けられますのでご希望の場合はご相談ください。

調整と不具合の除去、改造も終わりましたので後は全体の調律です。
ここまで行ってやっと本来の性能を発揮する事ができます。
当店では全ての楽器をこの状態でお渡ししています。


プロの楽器2022/07/29

演奏を生業としている方からアコーディオンの修理を承りました。
13kg以上ある重い楽器です。


ベースの4隅にある脚ですがネジが抜けて傾いています。
プロ奏者は楽器を持って移動する機会が多いので
重い楽器である事もあり、傷みが出やすい部分です。



脚を外してみるとネジ穴は広がっていて修復が必要な状態です。
抜けたネジが周囲に刺さった傷があります。



脚の別の位置ですが少し割れがあり、ネジを抜くと曲がっていました。
大きな力が掛かったのでしょう。



ベースストラップの傷みが激しいので交換です。
ここは消耗品なのでプロでなくても傷んできます。



ベースの蓋の開口部に張ってある網ですが、補修で重ねて張ってあるようです。
内側に出てくるとこの部分は隙間が少なく、直下にベースメカニックがあるので
干渉すると音が出たままになるなど、演奏中に大きな問題となります。
浮いている部分をきちんと貼る処置を行います。



ベースボタンが曲がっています。
一番端はぶつけて曲げやすいので要注意です。



ベースの内側に何かの部品が落ちていました。
ベースの機構に直接関係ない物のようですが、
これがバルブに挟まったり、ベースメカニックに入り込むと
演奏中のトラブルになるので除去しました。
古い楽器である事と移動が多いことで様々な小さな問題が出ていますが
この機会に分る部分は全て除去します。



ベース部分の修理を完了し、ストラップも新調しました。



右手側ですが、こちらも損傷があります。
外観だけならまだ良いですが内部機構に干渉すると問題が出るので
安心して使えるように修理します。



奏者の楽器は演奏頻度も高いので埃の堆積も凄いです。
これも吸い込むとリードを止めてしまうので綺麗に除去します。

この他、蛇腹の補修、パッキンシールの交換などを行い、
最後に調律を行ってお返しです。


ベースストラップの調整2022/07/27

在庫している楽器をご購入いただけることになり、細部の修正、全体の調律などを
進めてきました。
イタリア製の創業100年を超える老舗メーカーの物ですが
それでも内部を詳細に調べると修正すべき部分が幾つも出てきます。
調律も完全とは言えないので全てやり直しを行います。
なのでMMの波の速さも任意の状態にしてお渡しする事ができます。
これはアコーディオンではとても大事な事ですが、
どのようにしましょうか?以前に、調整できる事すら伝えられずに
売られている現状があります。
アコーディオンを買う時にMMの波の速さについて言及が無かったという人、
多くいると思います。


最終チェックでベースの左手を通すバンドをいっぱいに締めても少し緩いかな?
という感じだったので、後に伸びる事も考慮して切り詰める事にしました。
輸入楽器なので日本人には初期の調整が少し緩い場合があります。

このバンドの事をベースストラップと言っていますが、
アコーディオンの演奏ではとても重要なパーツです。
この部分が緩いと良い演奏はできませんし、演奏中に外れたり、切れたりすれば
その後、演奏を続けることができなくなります。
プロ奏者の場合、とても大きな力が繰り返し掛かっていますので
時々、固定状態を点検していないと本番でのトラブルになる事があります。