鍵盤のバルブ2023/03/28

イタリア製の古いアコーディオンの修理を承りました。
50年以上経過した楽器と思いますが、la melodiosa という名前が付いています。
現在は無いメーカーと思います。


演奏はできる状態ですが、鍵盤を離した時の音が大きくなっています。
プロの歌手の方が使っているもので、レコーディングの時に
鍵盤が戻る時の音が入る事が気になっているとの事です。
楽器自体はとても気に入っているので長く使って行きたいという事です。


鍵盤のバルブですが、赤い部分が経年で劣化して薄くなっています。
バルブの後ろより前が薄くなっている事からも、経年の劣化である事が分かります。
均等に薄くならないのは、バルブが繋がっているアームと鍵盤が軸で固定され
軸を中心に円運動をしているからです。
新品の時は均等な厚さだった筈ですが、鍵盤のバネで押され縮んで薄くなり、
バルブが下がって前部分の方が薄くなったという事でしょう。
赤い部分の下には革が貼ってありますが、経年で硬くなっています。
バルブ材が薄くなった事と、革の硬化で閉じる音が大きくなっています。


バルブ材が縮んで薄くなるとバルブの位置が下がりますが、
軸で固定されている鍵盤側は、シーソーのように上がります。
結果として、鍵盤の高さが高くなり、鍵盤が深くなります。
この楽器も鍵盤のストロークが大きくなっている事が見て取れます。
鍵盤が深くなると、バルブが高く上がるので閉じる時の音は更に大きくなります。
鍵盤も弾き辛くなります。
楽器は長く使って行きたいという事ですので、費用は掛かりますが
鍵盤のバルブ材を交換する事になりました。


まずは鍵盤を全て取り外します。
鍵盤の下には経年で溜まった埃があります。


バルブが当たる面にバルブの革が劣化した物?が付着しています。
鍵盤を外してスッキリした本体の掃除も併せて行います。


鍵盤からバルブを取り外し、バルブ材、革、ロウを綺麗に落とします。
バルブ自体は再利用するので、綺麗にしておく必要があります。


バルブに新しいバルブ材と革を貼りました。


新しく貼ったバルブ材と革です。
新しいので柔らかく、指で押すと凹みます。
当たりが柔らかいので鍵盤を離した時の音は小さくなります。


鍵盤を外した本体部分の清掃を行いました。
これで鍵盤を戻す準備ができました。


鍵盤とバルブを本体に戻しました。
この作業はとても難易度が高く、時間が掛かります。
鍵盤の高さを揃え、鍵盤の深さを所定の範囲に入れ、
バルブの位置を正確に配置し、バルブの面を本体の面と平行に..
これらの事項を全て満たすようにセットして、ロウでバルブを留めます。


ロウでバルブを接着しますが、誤って溶けたロウをバルブ材に流してしまうと
バルブ材の作成からやり直しになります。
見た目の美しさも要求されるので簡単ではありません。

バルブ材が新しくなり、鍵盤を閉じる音も小さくなりました。
鍵盤の深さも適正になり、演奏もしやすくなっています。


バルブから剥がした古いバルブ材と革です。
バルブ材は一般的にはフェルトを用いますが、この楽器では
発泡ウレタン?のような合成樹脂でできていたようです。
なので、経年劣化で落雁のように固くでボソボソの状態になっていました。

この後、部分的な調律、胸当ての取り付け、ベースストラップの交換を行い
お返しする予定です。