オークションの楽器 ― 2021/08/28
オークションで落札した楽器の点検と整備を承りました。
落札後、実際に使う前に点検をして必要があれば整備をしたいというご依頼です。
結論から言うとこの楽器はとても悪い状態で整備に至りませんでした。
先日もオークションで購入した楽器の事を書きましたが、
一定数、使えない物を落札する方がいるということなのでしょう。
こちらが落札された楽器です。
見た目はそんなに悪くありませんが40~50年前の物でしょう。
この見た目でとても安くて、全部の音が出ますと書いてあったら
買う人もいるかも知れませんね。
実際、音は全部出ています。
楽器のケースの中に手製の使用説明書のようなものが付いており、
その中にオークションに書かれていた文面も入っていました。
内容を見ると、本当?という部分が幾つかあります。
その中で特に気になったのは黄色の枠で囲った部分です。
文面の後半には「素人ですので..」とありますが、素人はこんな事しないです。
まあ、「時間をかけて」行ったという作業の出来栄えを見てみましょう。
右手側のリードです。
反りや変形のあるリードバルブが目立ちます。
リードバルブはリードに貼ってある薄い革の部品ですが、先の文面の中にある
「革サブタ」のことです。
リードバルブが長くなる低音域では更に反りが酷くなっています。
ここまで酷いと発音に影響が出てきます。
こんな風に酷く変形している箇所もあります。
右側の物は酷い変形がすぐに分かりますが、左側の物も中央が凸に変形していて
このような変形は発音への悪影響が大きく出ます。
ベース側のリードですが、こちらは内側に巻いた変形が殆どのリードバルブにあります。
やはり外向きの反りよりも問題が大きな現象です。
これらは革の経年劣化によるもので、楽器の年代から考えて
全て交換が必要な時期に来ています。
経年劣化のことを除いても文面にある、時間をかけて修正したというのは
一体、どのことを言っているのでしょうか?
状況からみてハッタリですね。
この時点で、全てのリードバルブの交換、全体の調律が必要なので
費用としては10万円を越えます。
そして、最もダメな不具合があります。
リードを留めているロウが劣化して、ひび割れが起きています。
経年劣化でロウが硬く脆くなっていて、リードをきちんと留める事ができていません。
40年以上経過した楽器ではこの問題が出てきます。
この場合、リードを全て木枠から外して古いロウを除去した後に
改めてリードを木枠にロウで接着する作業が必須となります。
時間が掛かる作業になるので費用はとても大きくなります。
楽器の外見が良くても古い物は内部が劣化していると思ってください。
蛇腹と本体の合わせ目に入っているパッキンの劣化も激しいです。
空気漏れの原因になりますのでこれも要交換です。
外から見てすぐに分かる不具合もあります。
鍵盤の高さのバラつきがかなりあります。
ここまでバラつきが大きい時は何か大きな問題が起きている場合が多いです。
高くなっている所では鍵盤の深さが9ミリもります。
通常、鍵盤の深さは5~6ミリです。
この楽器では一番低い所でも6ミリを超えています。
勿論、このままでは演奏がとてもしづらいので修理が必要です。
グリルカバーを外してみました。
鍵盤の高さが高くなっている原因はこれです。
鍵盤から伸びるアームが開閉するバルブに連結されていますが、
この楽器ではゴムのような合成品の部品でバルブと繋げています。
ゴム状の部品は劣化して大きく変形しており、鍵盤のバネで押し下げられている
力によってゴム部品が変形し、アームの先端位置が下がっています。
その証拠にアームの上に隙間があります。(赤矢印の部分)
アーム先端の位置が下がると軸で固定している鍵盤はシーソーの様に上がります。
これが鍵盤の高さをバラバラに高く上げている原因です。
ゴム部品は既に手に入りませんので修理するにはイタリアの楽器で使うバルブと
入れ替え、アームをロウ留めしますがとても時間が掛かる作業なので
高額な修理費用になります。
楽器のベルト部分は金具と繋がる部分が劣化で弱っているので
内側から革で接着補強してありました。
つまり、劣化を認識していたということですね。
こんな状態ならベルトは無しでお渡しする方がマシです。
という訳で、オークションで書いてある事は真実ではないという実例でした。
この楽器は「いかなる理由があっても」返品はできないという条件ですので
安いとは言え購入金額は全て無駄になってしまいました。
送料や点検の為の送料、ゴミの処理の手間、費やした時間も無駄になってしまいます。
安く買う事が目的ではない筈です。
アコーディオンには最低限必要な金額というのが大体決まっています。
これは物や食品、サービスなど全てに言える事です。
そこから大きく外れる場合は普通の物ではないということです。
良い物を必要な金額で購入し、問題のない楽器で不安なく思う存分練習したり、
演奏したり、というのが理想ではないでしょうか?
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