販売前整備2021/11/26

中国製アコーディオンをご購入いただけるという事で、お渡し前の整備を行っています。
楽器は当店で輸入している新品の物です。


この楽器は大きな物ではありませんがボタン式のMMLなので
音域が広く、リードの木枠が5本も入っています。
右手だけで246のリードが入っています。
殆どのリードには薄い革製のリードバルブという短冊状の部品が貼られています。
上の画像で黄色い短冊状の物がリードバルブですが、
天然皮革なので不適な品質の物がある程度混ざっています。
色が違っている部分は不良と判断して交換したところです。


こちらも右手側のリードです。
リードバルブを交換した所は色が違っています。

高音の小さなリードにはリードバルブが付いていません。
小さなリードでは弱い音の発音が悪い部分が多いです。
調整の為には一旦リードを木枠から取り外す必要があります。
リードはロウで接着されていますが、オリジナルのロウは薄い白色に近い色です。
リードを取り外して調整して再接着した部分はロウの色が濃くなっています。

リードの発音が悪いのは高音部分以外にも点在しますので
点検して不良部分は全て調整して発音を改善させています。

実際に修理を実施した画像を載せているサイトは少ないですね。
単に内部の画像だけを載せてやっている感を出す演出は見抜けます。
それならいっそ、何もしないで安く売っていますの方が正直です。
それもどうかと思いますが..


リードは1音で2本使います。
2本は逆向きに付けられていて表裏1対で1音分となります。
リードは片方からの空気の流れで鳴るように調整されていますので、
空気の流れの向きが変わると鳴りません。
蛇腹の開閉で空気の向きが変わった時にも音が出るように表裏1対となっています。
なのでリードが付いている木枠の内側にも表から見えるのと同じように
リードバルブが貼ってあります。
見えていない内側部分も不良部品はありますので交換します。
上の画像の矢印の所は色が変わっているので交換した部分です。

このようにリード周辺の不良を修正した後に全体の調律を行う事で
楽器としてきちんと鳴るようになります。
何もしていなくても音は出ますが、弱い音が出にくい、強い音が出ない、雑音が混ざる、
蛇腹の押し引きで同じ音でも違って聴こえるなど、様々な問題が残ります。


発音に関わる部分以外にも不良は存在します。
これはベース部分にある脚です。
楽器を置く時に地面に接する部分です。
ちょっと浮いて斜めになっていて、脚が繋がっている蓋の部分の隙間も多いです。


内側の部品と脚の裏部分の部品が干渉している事がわかりました。
干渉しないように部分的に削って修正しました。


これで正常になりました。
まだ脚が浮いてない?と思うかも知れませんが、これは正常な範囲です。
中国製の低価格な物ではこの程度の隙間は仕様の範囲です。
問題がある部分と仕様の範囲を見極める事が必要となります。


こちらはベース側の内部です。
ベースには左手を通すバンド(ベースストラップ)が付いていて、ダイヤルを回転して
バンドのきつさを調整する事ができます。
このダイヤル部分を内側から見たのが上の画像です。
ダイヤルを回してして隙間を狭くしようとすると何故か途中で止まってしまい
調整の範囲がとても狭いことがわかりました。
これは仕様の範囲ではなく不良と判断しました。
※上の画像は既に修理を完了した後の物なのでバンドが奥まで入っています。


異常の原因を探るため、ダイヤルの部品を取り外しました。


ダイヤルを外した状態でベースストラップのネジ部分を入れてみると
ネジの先端が凹型のへこんだ部分に当たってこれ以上先に進めない事がわかります。
このため、調整範囲が狭くなっていました。
ネジが当たる部分まで入れてもバンドの根元が本体の中に見えていません。
凹型の木を加工してネジが奥まで進めるように修正しました。
2つ手前の画像では修理した後なのでバンドの根元まで本体に入っています。


空気ボタンが斜めになっていました。
蓋を外すと、ボタンの位置とボタンの出る穴の位置にズレがある事がわかりました。
ボタンの位置を修正する事で空気ボタンが真っ直ぐになりました。

新品の楽器でもこのような様々な不具合が幾つも存在します。
これは中国製に限らず、イタリア製などヨーロッパの物でもありますし、
有名メーカーの物でも、高額な物でも必ず不良部分があります。
販売前にできるだけ不良部分を見つけ出し、修正した後に
お客様のお好みに合わせて全体を調律してお渡しとなります。
なので、すぐに楽器をお渡しする事はできませんが
楽器を良い状態で使っていただくには必要な事なのです。
それでも、見落としや新たに発生する不良が出ますので
その場合のために保証を付けて販売しています。
保障期間は1年ですが、その後の軽微な修理は無償にしています。

スイッチの修理2021/11/30

右手側のスイッチを押しても音が切り替わらず、全体に異常な音が出ている
という不具合の修理を承りました。
スイッチを操作すると確かに音はあまり変化せず、押した感触も変です。
音は調律が大きく狂っている感じの音で、全体として弱いです。
ちなみに、この楽器は中古として譲り受けた物という事です。


音の切り替えがうまく行っていない原因は内部ではなく、
スイッチ周辺にある事が分かったので、分解してスイッチ部分を取り外しました。
一部のスイッチで、スイッチから伸びるアームの根元部分の樹脂が割れて
アームが固定されずに指で動かせる状態でした。
赤矢印は割れている部分で、黄矢印は動いてしまうアームです。
本来はスイッチと直交する向きに固定されていてスイッチを押すと連動して
アームも傾き、そこに繋がる機構を押して音が切り替わります。

右上のスイッチは正常な物です。
良く見ると異常のある方は樹脂が溶けたようになっています。
恐らく、この症状は以前から認識していて、割れた部分を溶かして
接着修理しようと試みたようです。
この部分は大きな力が掛かるのでその程度では絶対に直りません。


アームの根元が割れているスイッチの裏面です。
亀裂が入っているのがわかります。
表面の樹脂を溶かしても亀裂は接着されません。
この部分は繰り返しの大きな力が掛かるので時々このような不具合を見ます。
メーカーによってはこのように樹脂部分が華奢で弱い物があります。
機種が変わっても、スイッチの形が変わっても傾向は変わりません。
近年の物は大丈夫と思います。


同じような問題があるスイッチは7個あるうちの3個で見つかりました。
中央の物は症状が酷く樹脂を溶かして修理しようとした痕がありますが
他の2つは割れていても修理痕は見られません。
修理は樹脂部分の補修、補強で行いますが面積が少ないので難しい修理です。
その後も繰り返し大きな力が掛かるのできちんと直さないと再発します。
同じ部品が手に入れば交換できますが、同じ機種や同じ形に見える部品でも
微妙に違っているので交換は現実的ではありません。


スイッチを受ける側にも異常がありました。
赤矢印の部分は他の同じ部品と同様に垂直でなければいけませんが
斜めに曲がっています。
音に異常があるのはスイッチの割れだけではなく、これが原因と思います。
金属部分を曲げて元に戻せば直る筈です。

この部分が曲がる原因は複数スイッチを強く押した時に起きます。
アコーディオンのスイッチは1つずつ押す仕様になっています。
意図して複数を強く押す人はいませんが、運搬中などに物に当てると
複数スイッチを同時に強く押した状態になり変形する事があります。
このような事故は表面への露出があるベース側で頻発します。
ソフトケースに入れていても何かに当てて壊す事があります。


分かりにくいですが、スイッチが載っている部品の中央が少し凹んでいます。
スイッチを貫いている心棒も少し曲がっていました。
これはやはり上から大きな力が掛かったということでしょう。


スイッチの土台部分、心棒を修正し、斜めになった部品を戻し、
スイッチの割れた部分も修理して元の位置に嵌めて行きます。
1本の心棒で7個のスイッチが串刺しになっているので端から順番に通します。
この楽器ではスイッチを押した後に元の位置に戻るようにバネが入れてあります。
黄矢印の所ですが、このバネの輪の部分にも心棒を通す必要がある為、
組み付けがとても大変です。
バネは変形する部品なのでスイッチの2つの穴とバネの輪、本体側の2つの穴を
同時に串刺しするのが難しいです。

このバネは中央のマスタースイッチだけに付いている楽器や、
全く付いていない楽器もあります。
この機種は全てに付いていますので押した後に元に戻りますが、
現在、何のスイッチが押されているのか分からなくなるという問題が出ます。
バネのある機種でも取り外せば戻らない仕様にする事ができます。
全てのスイッチにバネを入れる目的は恐らく、見た目がスッキリするから?かな..


スイッチを全て組み付け問題なく作動する事を確認しました。
押した感触もカチッとしていて良い感じです。
音も本来の音に戻りました。


内部を点検すると長く調律など行っていないという事でそれなりに問題が出ています。
音も調律が合っていない箇所が多く、調律の時期に来ています。
今回、使う予定があるという事なので一旦お返しする事になりましたが、
折をみて調律を行うと良いでしょう。


その他にはベルト類に問題が出ています。
ベースの手を通すバンドですが、見た目は本当に綺麗で新品のようです。
ですがとても硬くなっていて手の甲が痛くなるので新しい物と交換します。


ベースストラップが取り付けてある端を見るとネジが一つだけです。(矢印部分)
殆どの場合、2本のネジで留めているので1つ外れたのかと思いましたが、
ネジの位置が、ど真ん中なので1本留めのようです。


ネジを外してベルトを外すと穴は一つなので、やはりネジ1本留めでした。
これはとても珍しいです。
他にネジ穴の痕が無いので製造時からという事でしょう。
この部分は外れると演奏続行不能になるので2本留めの方が安心です。
上手な奏者の場合、とても大きな力が掛かる場所です。
2本あれば1つ外れた時に傾きが出て異常に気づく事ができ、
何とか演奏は継続できます。


新しいベルトと並べてみました。
下の物が新しいベルトです。
柔らかい素材が当ててあるので手当たりがソフトで適度な滑り加減になります。


取り付けは一般的なネジ2本留めにしました。


背負いベルトも傷んでいるので交換します。
元より、楽器の重さに対して少し細いので交換して幅広にした方が良いでしょう。


ベースストラップ、背負いベルトを交換しました。
胸当てが無い機種ですが新たに胸当ても取り付けました。
綺麗に使っていらっしゃるので新品楽器のようです。
ひとまずお返ししますが、時間が取れる時に調律をすれば完璧です。