スイッチの修理2021/11/30

右手側のスイッチを押しても音が切り替わらず、全体に異常な音が出ている
という不具合の修理を承りました。
スイッチを操作すると確かに音はあまり変化せず、押した感触も変です。
音は調律が大きく狂っている感じの音で、全体として弱いです。
ちなみに、この楽器は中古として譲り受けた物という事です。


音の切り替えがうまく行っていない原因は内部ではなく、
スイッチ周辺にある事が分かったので、分解してスイッチ部分を取り外しました。
一部のスイッチで、スイッチから伸びるアームの根元部分の樹脂が割れて
アームが固定されずに指で動かせる状態でした。
赤矢印は割れている部分で、黄矢印は動いてしまうアームです。
本来はスイッチと直交する向きに固定されていてスイッチを押すと連動して
アームも傾き、そこに繋がる機構を押して音が切り替わります。

右上のスイッチは正常な物です。
良く見ると異常のある方は樹脂が溶けたようになっています。
恐らく、この症状は以前から認識していて、割れた部分を溶かして
接着修理しようと試みたようです。
この部分は大きな力が掛かるのでその程度では絶対に直りません。


アームの根元が割れているスイッチの裏面です。
亀裂が入っているのがわかります。
表面の樹脂を溶かしても亀裂は接着されません。
この部分は繰り返しの大きな力が掛かるので時々このような不具合を見ます。
メーカーによってはこのように樹脂部分が華奢で弱い物があります。
機種が変わっても、スイッチの形が変わっても傾向は変わりません。
近年の物は大丈夫と思います。


同じような問題があるスイッチは7個あるうちの3個で見つかりました。
中央の物は症状が酷く樹脂を溶かして修理しようとした痕がありますが
他の2つは割れていても修理痕は見られません。
修理は樹脂部分の補修、補強で行いますが面積が少ないので難しい修理です。
その後も繰り返し大きな力が掛かるのできちんと直さないと再発します。
同じ部品が手に入れば交換できますが、同じ機種や同じ形に見える部品でも
微妙に違っているので交換は現実的ではありません。


スイッチを受ける側にも異常がありました。
赤矢印の部分は他の同じ部品と同様に垂直でなければいけませんが
斜めに曲がっています。
音に異常があるのはスイッチの割れだけではなく、これが原因と思います。
金属部分を曲げて元に戻せば直る筈です。

この部分が曲がる原因は複数スイッチを強く押した時に起きます。
アコーディオンのスイッチは1つずつ押す仕様になっています。
意図して複数を強く押す人はいませんが、運搬中などに物に当てると
複数スイッチを同時に強く押した状態になり変形する事があります。
このような事故は表面への露出があるベース側で頻発します。
ソフトケースに入れていても何かに当てて壊す事があります。


分かりにくいですが、スイッチが載っている部品の中央が少し凹んでいます。
スイッチを貫いている心棒も少し曲がっていました。
これはやはり上から大きな力が掛かったということでしょう。


スイッチの土台部分、心棒を修正し、斜めになった部品を戻し、
スイッチの割れた部分も修理して元の位置に嵌めて行きます。
1本の心棒で7個のスイッチが串刺しになっているので端から順番に通します。
この楽器ではスイッチを押した後に元の位置に戻るようにバネが入れてあります。
黄矢印の所ですが、このバネの輪の部分にも心棒を通す必要がある為、
組み付けがとても大変です。
バネは変形する部品なのでスイッチの2つの穴とバネの輪、本体側の2つの穴を
同時に串刺しするのが難しいです。

このバネは中央のマスタースイッチだけに付いている楽器や、
全く付いていない楽器もあります。
この機種は全てに付いていますので押した後に元に戻りますが、
現在、何のスイッチが押されているのか分からなくなるという問題が出ます。
バネのある機種でも取り外せば戻らない仕様にする事ができます。
全てのスイッチにバネを入れる目的は恐らく、見た目がスッキリするから?かな..


スイッチを全て組み付け問題なく作動する事を確認しました。
押した感触もカチッとしていて良い感じです。
音も本来の音に戻りました。


内部を点検すると長く調律など行っていないという事でそれなりに問題が出ています。
音も調律が合っていない箇所が多く、調律の時期に来ています。
今回、使う予定があるという事なので一旦お返しする事になりましたが、
折をみて調律を行うと良いでしょう。


その他にはベルト類に問題が出ています。
ベースの手を通すバンドですが、見た目は本当に綺麗で新品のようです。
ですがとても硬くなっていて手の甲が痛くなるので新しい物と交換します。


ベースストラップが取り付けてある端を見るとネジが一つだけです。(矢印部分)
殆どの場合、2本のネジで留めているので1つ外れたのかと思いましたが、
ネジの位置が、ど真ん中なので1本留めのようです。


ネジを外してベルトを外すと穴は一つなので、やはりネジ1本留めでした。
これはとても珍しいです。
他にネジ穴の痕が無いので製造時からという事でしょう。
この部分は外れると演奏続行不能になるので2本留めの方が安心です。
上手な奏者の場合、とても大きな力が掛かる場所です。
2本あれば1つ外れた時に傾きが出て異常に気づく事ができ、
何とか演奏は継続できます。


新しいベルトと並べてみました。
下の物が新しいベルトです。
柔らかい素材が当ててあるので手当たりがソフトで適度な滑り加減になります。


取り付けは一般的なネジ2本留めにしました。


背負いベルトも傷んでいるので交換します。
元より、楽器の重さに対して少し細いので交換して幅広にした方が良いでしょう。


ベースストラップ、背負いベルトを交換しました。
胸当てが無い機種ですが新たに胸当ても取り付けました。
綺麗に使っていらっしゃるので新品楽器のようです。
ひとまずお返ししますが、時間が取れる時に調律をすれば完璧です。

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