コンサーティーナ修理 その22021/11/23

先日もコンサーティーナの修理を紹介させていただきましたが、
実は同じ方から2台の楽器をお預かりしていました。


こちらの楽器は前の物よりかなり古い物で、症状は同じように
空気漏れ、発音不良などです。
空気漏れの原因は多岐に渡る場合が多く、スッキリと完全に直すのが
難しい場合がありますが、この楽器では蛇腹と両面の本体が合わさる部分に
数ミリの溝状の隙間がある事が原因のひとつです。


こちらはもう片方ですが、本体のカバーにリードやバルブが載っている板が
入り込んで重なる部分に隙間があります。
この位置には蛇腹側の淵が当たるので面ができていないと空気が漏れます。


合わせ目部分にある木の欠格部分も空気漏れの原因となります。
これはは全て埋めて平らに削る必要があります。
コンサーティーナに限らず、アコーディオンでもそうですが、
空気漏れがある楽器は最初に購入対象から除外する事をお勧めします。
これは中古に限らず新品でもチェックが必用です。
「全て音が出て使えます」だけでは楽器として重大な欠陥を見落とします。
原因次第では直す事が困難であったり、費用が多く掛かる場合があり、
演奏上大きな問題になるのが空気漏れです。
「音が一部出ません」よりも問題が大きいという認識でいて欲しいです。


空気漏れのもう一つの原因はバルブを閉じているバネでした。
後で修理したと思われる綺麗な色のバネが幾つか入っているので、
問題は当初から認識されていたのでしょう。
ただ、問題が出ている箇所は新しく直してある方のバネが多いです。
また、古い方のバネは調整しようとすると折れてしまうほど弱っています。
なので新しくバネを作って入れ替えることにしました。


左側の銀色の方は新しく作製したバネです。
右の方は修理されたと思われるバネですが、色から言って銅合金です。
そもそも、銅合金はバネ製が弱いので適しません。
ベリリウム銅、りん青銅というものもありますが任意の線径の
針金を手に入れるのは困難です。

話は変わりますが、この楽器はビンテージという部類に入ると思いますが、
長く使われていたのでボタンの下の部分とそれを受ける穴が磨耗しています。
矢印部分のボタンは下の部分が細くなってテーパーが付いていますし、
穴が広がって隙間ができています。
左側のボタンは使用頻度が少ないからと思いますが、隙間は少ないです。
この部分が磨耗するとボタンが斜めになり、押した感触が悪くなったり
最悪、ボタンが押せなくなったり、斜めになって中に入ったまま戻らなくなります。
ボタンは本体側だけではなく、蓋になる部分の穴でも動きをサポートしています。
古い物では蓋の方も磨り減っている事がありますが、
通常、フェルトが入っていて磨り減りは少ないです。
フェルトがなく、木の面だけでボタンを支えている場合は磨耗する事もあります。
勿論、きついからと言って削ってはいけません。
それは磨耗劣化を自ら行う事になります。

古い楽器は色々な部分に問題が出てくることを承知した上で
楽しむ物という認識が必要です。
言うまでもなく、これはコンサーティーナに限らずですが。


古い楽器なのでコンサーティーナとしてのリードが使われています。
このリードは根元部分に錆が出ています。


裏面を見るとこちらにも錆があります。
リードフレームは錆びにくい真鍮製ですし、錆びる場合は緑になる筈ですが
茶色の錆が出ています。


リードの錆を除去しました。
錆があると調律が狂いますし、残したまま調律するとすぐに変化して意味がないので
錆は除去する事が必須となります。


裏面も錆を落としました。
それで判りましたが錆はフレームではなく、貫通しているネジのものでした。
ネジはスチールなので鉄錆が出ます。
フレームは真鍮ですがリードとネジはスチールです。
錆はどちらもフレームとの界面にあるので異種金属の接触による
電蝕が原因かも知れません。
いずれにしても異種金属の接触だけで電蝕は起きませんので、
高湿度な環境にならないような注意が必要です。


調整して発音が悪いリードがあるので取り出しました。
真上から見ると、リードの周囲にある隙間が多い事がわかると思います。


リードの隙間を減らすように調整しました。
これで発音は改善する筈です。
ただ、いくら調整しても近年のアコーディオンリードのように精度が良い訳ではないので
全てのリードを必死で調整しない限りはアコーディオンリードが優勢です。
リードの形状もこの楽器は緩いテーパーが付いていますが、全くの長方形の物も多く
やはり、近年のリードには負けます。
楽器の性能という部分だけをみるのであれば、専用リードのビンテージより、
きちんと調整されたアコーディオンリードが入った楽器の方が使いやすいでしょう。
2回言います。
「きちんと調整された」が必須条件です。
これはコンサーティーナに限らずです。


リードの周囲に紙片が貼ってある箇所がありました。
如何にも怪しい臭いがします。


紙を剥がしてみるとリードフレームと周囲の木の間に大きな隙間が出てきました。
無論、紙を貼っても空気が通り抜けるので無意味な補修です。


隙間を埋めて面出しして補修しました。
いつも思いますが、書いたら簡単ですが、作業は時間が掛かります。
リード周りの修理、発音の調整など全て完了したら調律を行います。


全体の調律を行って作業完了です。
コンサーティーナやダイアトニックアコーディオンでは、
一般的な音域のアコーディオンより使われているリードは少ないですが、
調律の仕上げで、何度も楽器の組み立て、分解を繰り返しますので時間が掛かります。
バンドネオンも同様な上、リードも結構多量なので更に大変です。