中古の販売前整備 ― 2022/01/14
中古として販売していた楽器をご購入いただけることになったので
販売前の整備と調律を行いました。
楽器は新品で購入して8年しか使っていないイタリア製の物です。
あまりない不良を見つけました。
リード周りにある不良の検査と修理、リードの調整など行っている時に
異常に気付きました。
この楽器はチャンバーがありますが、チャンバーのリードの木枠に問題があります。
矢印の箇所ですが何が問題か分かるでしょうか?
拡大してみたところです。
リードが取り付けてある木枠の下部と楽器本体が接する部分に
目視できる程の隙間があります。
どの程度の隙間か調べるために細く切った紙を差し込んでみると
簡単に紙が入って行きます。
紙が止まるまで差し込みペンで印を付けました。
木枠を取り外して紙に書いた印と重ねると
中心部分にまで達している事が分かりました。
範囲も広くこのままでは問題が大きいので修理する事にしました。
この部分に隙間があると空気が漏れるために音が弱くなる、余分な空気を消費する、
隣接するリードが鳴ってしまうなどの問題が起きます。
隙間がある原因は恐らく加工不良です。
木が反って起きる場合もありますがその場合はもっと範囲が広くなりますので。
リードの調整を一つずつ全てのリードで実施します。
これは新品でも中古でも必ず行っています。
理由は必ず問題があるからです。
異常がある場合は修正を行いますが、実際、新品のイタリア製楽器でも
無数に修正を実施する事になります。
どのメーカーが良いとか悪いとかは殆どなく、一様にある程度の問題が残っています。
上の画像はリードではなくリードに貼ってある薄い樹脂製のバルブに
ちょっとした問題があります。
実際には音は出ますし一般には問題と判断していないレベルのものでしょう。
画像中に3対のリードがありますが、四角に囲ったところを注目してみると、
リード先端の位置とリードバルブの先端の位置に違いがある事が分かります。
一番左にあるリードはリードの先端とリードバルブの先端の位置の違いは僅かです。
リードバルブはリードより少し長くするのでこの位置は正しい調整です。
真ん中のリードと右端のリードではリードの先端よりリードバルブが長いです。
特に右端のリードではかなり長くなっています。
バルブがリードよりも長いと抵抗になりますので発音が弱くなりますので
リードの長さに合わせてカットします。
リードは音程により長さが変わりますがこの楽器の場合、
リードバルブは同じ位の長さに切っておいたものを貼って行ったというところでしょうか?
これを見て自分の楽器のバルブを調整しようとしないでください。
調律に影響しますので単に切るだけでは済みません。
また、実際には見えていない木枠の内側にも同じことが起きているので
表だけ実施すると蛇腹の開閉で音が不均一になります。
リードバルブを切ったり調整したりすると調律が変わります。
最後に全体の調律を行うので各部の調整ができますが調律を実施しないのであれば
リード周りを触ると調律がずれてしまうので部分だけ修理するという事が
できない楽器という認識が必要です。
ベースリードの方にも問題が見つかりました。
リードではなくて音の切り替えをするレジスターの機構に問題があります。
上の画像はレジスターの機構の部分ですが、スイッチを押した時のカチッとした
感触を作る事と、スイッチを押して決定したセッティングが振動などで
ずれてしまわないようにする為の機構部分です。
スライドする5枚の薄いアルミニウム合金の部分に2つの窪みが作ってあり
それに噛み合うように薄い銅合金の板バネを接触させる事でクリックを作っています。
このスライドする板とバネの位置がずれていてうまく噛み合っていません。
黄色の矢印部分は一番上のスライドする板にバネが掛かっていませんし、
一番下のバネは板に接触していないので内側に入り込んでいます。(赤矢印)
バネの位置を修正して固定しなおしました。
これで5枚のスライドする板とバネの位置が完全に一致しました。
こんな小さな事ですが使用上の問題が出ます。
ただ、初心者の方には異常に気付けないかも知れません。
気付かない程度の事ならいいのでは?と思うかも知れませんが、
知らないで使い続ける事は良いものを知らずに時間が経過するという事です。
練習の効果が出なかったり、本当の能力を知らずにやめてしまうかも知れません。
整備ができていない楽器を使うのは安く購入できても失うものが大きいです。
楽器を安く買う事が目的ではない筈です。
全てのリードと発音に関わる機構などの修理、修正が完了しました。
最後に全体の調律を行います。
お客様からMMの波の速さについてのご希望を事前に確認しているので
それに合わせた調律を行います。
調律を行うとリードが消耗するので最小限にしか行わないという事を言う
業者があるという話を時々聞きますが調律で消耗するのは僅かです。
リードの寿命に影響するような事は絶対にありません。
基準を440Hzから442Hzにする程度でも全く問題ありません。
余程不慣れな人が調律するというなら話は別ですが..
この楽器はそんなに古くないのでベースのバンド(ベースストラップ)は
見た感じの傷みは少ないですが新品に交換します。
蛇腹操作やベース操作の要となる重要な部品ですので。
ベースストラップを外す為にベースの底板を表向きにしてみると
小さな問題を発見しました。
板にある開口部に張ってある網が少し剥がれています。
小さな問題と書きましたが意外と大きな問題になる事もある部分です。
板を外して裏から見ると張ってある網の一部が浮いていることがわかりました。
内側に張ってあるセルロイドの端に亀裂があり剥がれている箇所も見つかりました。
このよう剥がれなどは大した問題ではないように思いますが
演奏中にベースの異常を誘発する事があるので実は問題が大きいです。
ベースの板の裏面の小さな剥がれ等が大きな問題になる理由は、
その直下にベース機構がギッシリと詰まっているからです。
ベースの板の裏面と機構に設けられた空間は
少ない所では5ミリ程度しかない場合もあります。
なので僅かな網の剥がれがベースの操作に問題を起こす事もあります。
演奏中に音が出たままで戻らないとか絶対に起きて欲しくない事象です。
空気ボタンの動きがあまり良くないという問題もありました。
これも戻り不良による空気漏れの問題が出る事があるので無視できません。
原因は板の穴の内側の加工不良です。
穴の内面が黒くなっている所はボタンと干渉している部分です。
網を張り直し、空気ボタンの穴の内面も研磨しました。
内側の剥がれたセルロイドも直しました。
これでベースメカニックへの干渉の不安はなくなりました。
新しいベースストラップを用意しました。
上の物が元々付いていた物です。
表から見ると綺麗でしたが内面は擦れて白くなっています。
金具類も全て新品にします。
ベースストラップは金具で固定されていますが交換のためには
金具を外す必要があります。(矢印部分)
この楽器は37鍵盤ですが120ベースあるので余白の空間が少なく
工具が入れにくいため金具の取り外し、取り付けに苦労します。
グリルカバーの網は剥がれなどの問題はありませんでしたが
銀色が目立ち過ぎて野暮ったいので少し濃い色の物に張替えました。
見た目がグッと引き締まりました。
内外の問題の修理、全体の調律を完了し、外観の整備も終えて
背負いベルトを新品に交換しました。
これでやっとお客様にお渡しする事ができます。
人が行う事ですので慎重に作業をしても問題が出ることがあります。
その為に保障を付けていますので安心してお使いいただけます。
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