納品前の整備2022/01/30

新品のチェコ製ボタン式アコーディオンの整備を行っています。
これはお渡し前に行っている修正作業です。
輸入した楽器は新品であっても不具合が必ずあるので必須の作業です。
中国製は勿論ですが、イタリア製でもフランス製でも有名ブランドでも同じです。
調律のずれを修正し、調律をご希望に合わせる為に全体の調律も行います。
このため、ご購入を決めていただいてもすぐに楽器をお渡しする事ができません。


全体の点検、不良部分の修正、リードの調整などを完了し、
最終的に調律を行いますが、調律の途中で異音が確認されたので修理を行っています。
右手のMリードで一番低い音で蛇腹を開く時に少し大きめの音を出すと
ノイズが混ざる現象です。
調律を中断し、該当リードのある木枠を楽器から外し、該当音のリードを外しました。
蛇腹を開いた時は木枠の内側にあるリードが鳴るので、リードを外してみないと
原因が分からないですし、対処もできません。
内側のリードや貼ってあるリードバルブに異常はありませんでした。



木枠内をよく見ると角の部分に木枠を作製する時に使う接着剤が
それなりに沢山はみ出ているのを見つけました。
内側のリードが大きく振動した時にこの部分と干渉しているのでしょう。



角度を変えて見ると内側に張り出しているのが分ります。
僅かな量ですが低い音はリードの幅があるので木枠内のスペースに余裕がなく、
リードと干渉する事もあります。

ある程度大きな音で鳴らさないと分らないという事もあり、
簡易な点検では見落とされる可能性が高く、
ユーザーが不具合に気付くのはそれなりに上達してからになるでしょう。
当店では全てのリードを調律しているのでこのような不具合の見落としも少なくなります。
それでも気付かずに納品される場合もあると思いますが、
そういう場合は保証修理で対応させていただいています。
保障が切れていても簡易な修理であればずっと無償ですし、
大変な修理や調律でも通常料金の3割り引きです。(新品をご購入の場合)



はみ出ている接着剤を取り除きました。
木の一部が欠けましたが合板の表面層なので問題ありません。
元通りにリードを取り付け、楽器に戻して異音が消えた事を確認しました。
その後は調律作業を続行しました。

冒頭にも書きましたが、お渡し前の点検、修正、調律を行う事で
完全な状態の楽器をお渡しする事ができます。
実施しているのは外観や鍵盤、ボタン、スイッチの作動などは勿論ですが
リード一つずつの発音、調律を実施しています。
実施しない場合、弱い音の発音が悪い箇所、強い音で発音が止まる箇所が出ます。
弱い音の発音が悪い箇所はMリードの高音域やHリードで起き易く、
強い音で発音が止まるのはMリードの低音域やLリードで起きやすいです。
リードが1つだけ鳴るスイッチ(Hのみ、Mのみ、Lのみ)にした状態で
蛇腹を開く時と閉じる時、とても弱い音、とても強い音で全ての音を試してみます。
問題がある箇所は販売店に相談して修理してもらいましょう。
但し、程度というものがあります。
電子楽器ではないので多少のバラつきは許容する必要があります。

調律のズレはMLやHMリードのスイッチで波が付く、M、L、Hの単リードの音で
オクターブ違いの同音を2つ鳴らした時に波が付く、MMリードで蛇腹の開閉で
波の速さが違って聴こえるなどの症状が出ます。
リードは蛇腹を開く時と閉じる時で別の物が鳴るので両方で比較する必要があります。
ベースの方ではベース単音を鳴らすとざわついた感じの音が出る場合、
調律がずれています。
同じベース音で蛇腹の開閉での音の違いが出る時もズレがあります。
和音の方では分りにくいのでベース単音で行うのがコツです。

空気漏れもアコーディオンにとって大きな問題ですが、この場合のチェック方法は..
1.左右共に一番沢山のリードが鳴るスイッチを選択し、
2.空気ボタンを押して蛇腹を開いて少し空気を貯め、
3.鍵盤もボタンも何も押さない状態で大きな音を出す要領で蛇腹を閉じてみます。
これで蛇腹をある程度閉じる事ができたり、音が鳴る場合は空気漏れがあります。
初心者は強く蛇腹を閉じられないのでうまく判断できないかも知れません。

何も押さないで蛇腹を閉じると故障するという事を聞くことがありますが
これは都市伝説で、実際に壊れる事はありません。
実際、それで壊れたというアコーディオンを見た事もありませんし、
聞いたこともありません。
本当にその程度で壊れるようなアコーディオンは奏者がff(フォルテッシモ)で
演奏したら壊れますので最初からダメな楽器です。(実際には壊れません!!)
常人よりかなり筋肉を鍛えている人がffで演奏する以上のパワーで閉じたり、
50年以上経過した古い楽器の場合は壊れるかも知れません。
蛇腹を開く方で空気漏れの度合いを測る事もできますが
閉じる方で検査する方が問題がよく分かります。

新品の楽器を購入した場合はこのような事に注意してみると
楽器の状態が把握できますので手元に届いたら確認してみる事をお勧めいたします。