販売品の整備2022/01/23

ご注文により入荷したイタリア製の新品アコーディオンの整備をしています。
ボタン式の楽器でイタリア製ですが日本ではあまり名前を知られていない物です。
このメーカーが特別に悪いという事はなく、
全ての新品楽器には必ず何か問題が残っています。
なのでお渡し前の整備と調律は必須となります。
有名なメーカーや高額な楽器がきちんとしているという事はなく
どんな物でも調整が必要なのは同様です。


ベース側の蓋を開けて点検する時に小さな問題を見つけました。
発音に関係ない部分ですが、新品アコーディオンでも
開けられる所は全て開けて点検しています。
ベースの蓋を開けたところ、
ベースメカニックのすぐ上の部分に異物があるのを見つけました。
恐らく樹脂製の蓋を加工した時の屑でしょう。


取り出してみると20ミリ以上ありました。
ベースの部分にこれだけのサイズの異物がある場合、
バルブに挟まって空気漏れや音漏れが出る事が懸念されます。
そうなってから修理するととても大変なので早い段階で見つかって良かったです。


今度はボタンの裏側に異物を発見しました。
この楽器はボタン式で、ボタン式の楽器では背面に大きく開口する蓋が付いています。
その部分を開けて点検した時に見つけました。


取り出してみるとこちらも40ミリ近くある大きな異物です。
やはりアルミ製の蓋部分を加工した時に出たのではないかと思います。
内部の部品は加工した物を組み付けるので後で屑が出る事は少ないでしょう。
この異物もバルブに挟まると空気漏れや音漏れが出ますし、
バルブから内部へ入ってしまうとリードの発音を邪魔する事になります。
事前に取り除く事ができて良かったです。

このボタン裏のパネルを外す事はボタンやレジスターに異常がなければ
外して点検する事は一般的にはないと思います。
今回、発音やボタンの動作に問題はありませんでしたが開けて点検を行いました。
当店では異常の有無に関わらず、開けられる所は全て開けてみて
異常がないか確認し、このような加工屑が目視できていなくても
存在する事を前提にして清掃を行っています。


楽器内部の問題も見つかりました。
画像は右手側のリードが並んでいる木枠を外したところです。
レジスターの操作により開閉するシャッターが閉じきらずに僅かに開く事が
時々起きることが確認されました。(矢印部分)
この程度の隙間で音が出てしまう事もないので
楽器を鳴らした時の異常は何もありませんでした。
それでも場合によっては音が出る可能性がありますし、
この部分から空気漏れが起きているのでロスが生じます。
空気漏れには2つの種類があり、鍵盤、ボタンを押していない時に漏れる事と、
ボタンや鍵盤を押した時のみ、該当部分の空気が発音の経路以外に漏れて
余分に消費されるという事があります。
今回は後者です。
一般的に後者は気付きにくいので、このように目視できる異常により判る事が多いです。



レジスターが閉じきらない時がある原因は2つありました。
この楽器はMMLなのでレジスター操作で3つのシャッター制御されています。
この制御を行う元となる薄い板状のパーツが上の画像です。
3枚重なっているのが分ると思いますが左右にそれぞれスライドします。
一番上の板が右(矢印方向)にスライドすると小さな問題が出ます。


一番上の板が右にスライドしたところですが、すぐ下の板の部分と
上の板のカーブしているパーツが干渉しています。(矢印部分)
ここが触れると規定の位置に停止したパーツがずれてしまう原因になります。
結果、シャッターが少し開いたり、全開にならなかったりします。


パーツ同士が干渉しないように修正しました。
作業は単純ですが原因を見つける事は容易ではありません。


もう一つの原因は矢印部分で部品の干渉がある事でした。


分りやすいように、というか、修正作業のため、部品同士を繋ぐロッドを外しました。
3段になっている部品はそれぞれ左右に動きますが、一番上の部品は
一番右になる位置にすると隣のパーツにぶつかっています。(矢印部分)
まだ可動できるのに部品がぶつかる事で範囲を狭めています。
下の2つは最も右に動かしても隙間が空いているので問題なしです。


3段の部品を最も左に寄せた場合ですが、この時は何も問題なしです。


部品が干渉しないように部品の一部を削って可動範囲を広げました。(矢印部分)
これも作業は簡単ですが原因の特定が大変な部類です。



レジスターのシャッターは完全に閉じるようになりました。
通常は調整するだけで全開、全閉に設定できますが、
今回は調整では対応できず、別な問題があったという事例です。

この他には全てのリードの調整、リードバルブや木枠、ロウ留めの問題などを
点検、修正し、最後に調律を行います。
調律は予めお客様のお好みのMMの波の速さを確認しているので
それに合わせて調整します。
部分的な修正調律ではなく、完全な全体の調律を販売前に実施しています。
時間も手間も掛かりますが実施する事により、
弱い音でもきちんと出る、とても強い音で発音が止まらない、
蛇腹の開と閉で同じ音が出る、オクターブユニゾンで波が付かないなど
楽器として基本的なことが実現します。


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