鍵盤張り付き現象の修理2020/02/02

購入から15年程度経ち、鍵盤の動作に不具合が出てきた楽器の修理を承りました。
私のよく知る人の楽器です。


鍵盤の不具合ですが調律もかなり狂いが出てきているので
まずは内部の点検を行いました。
この楽器はチャンバーのあるアコーディオンですので、
木枠に取り付けられたリードの向きが90度違う物が2つずつ入っています。
画像の左側はチャンバーのLとMで、右側はチャンバー無しのMとHのリードです。



購入から15年、調律も何もしていないです。
チャンバーのLリードのリードバルブが重力で反っています。
チャンバーのリードは楽器を置いた時に地面と水平になるため、
Lリードの低音部分の長くて重いリードバルブが重力で開いたままになり
反り癖が付いてしまいます。

リードバルブは重力の影響がない場合でも演奏により開閉するので
使っていれば段々と反りが出てきます。
経年で反りが出たり、開く時の抵抗が下がると音は良く鳴るようになります。
楽器を使って行くと鳴りが良くなるというのは殆どの場合、
リードバルブが開きやすくなる為です。
偶に、リード自体が変化した結果という人がいますがそれはありません。
金属が変化して鳴りが良くなる程の変化があれば
調律が大きく変わってしまう筈ですので、リード自体の慣らしが進むとか
金属疲労による変化という事はあり得ません。

リードバルブが開きやすくなる(反りが出始める)と鳴りが良くなるのであれば
好都合と考えられますが、実際にはそれによる弊害が出るので簡単ではありません。
具体的には調律のズレと蛇腹開閉時のノイズ発生や弱い音での異音などです。
ですので定期的に調律を行い、同時にリードバルブも修正を行います。
内部の清掃などもできるので定期的な調律は必要です。
この楽器のように15年調律していなくても演奏はできますが
気持ちよく使う為には必用な作業です。

調律はリードを削りますので消耗があります。
ですが、経年で音程を修正するような調律であれば削る量は極僅かです。
ですので、何度も調律しても問題ありません。
リードの消耗を気にして調律を控えるような必要は全くありません。
ただし、調律が不慣れな人(端的にに言うと下手な人..)の場合、
リードを削る量が増えますし、リードを変形させてしまい修正する事で
金属疲労がおきてリードを傷めてしまいますので要注意です。



鍵盤部分の不具合を修理する為にグリルカバーを取りました。
15年何もしていないので埃が沢山あります。
時々、グリルカバーを外して演奏する人がいますが
埃や異物を楽器内に引き込む可能性が高くなるので行わない方が良いです。
実際、カバーを外しても音の変化は僅かですし、
何かにぶつけて内部を損傷する機会を増やしますし、
僅かですが調律も変化してしまいます。



演奏する時は鍵盤の高音部が下になるような姿勢になるため、
鍵盤の最高音の下に埃が溜まります。



鍵盤を全て取り外しました。
鍵盤の下の部分にも最高音のところに埃が滞積しています。



15年分の埃を綺麗に除去しました。
画像の木の部分の上の扁平な長方形の空間がチャンバーです。
チャンバーのあるアコーディオンは、こんな風な空間が
リードの空気の出入り口に設けられています。
意外と狭いという感じではないでしょうか?
チャンバーは音を共鳴させて響かせるという人もいますが、
実際、これを見るとバイオリンやギターのような共鳴を期待する事はできません。
共鳴する音域もかなり狭いと思いますし、
どちらかというと音の出口を曲げて高音成分を遮断しているだけという方が
合っていると思います。



チャンバーのあるアコーディオンは、リードの数は同じで鍵盤の数も同じなのに
とても高価です。
何故でしょう?
それは組み立て、調整が難しく手間が掛かる為です。

チャンバーの楽器には鍵盤の先のアームが2つに分かれ、
空気の出入りを止めるバルブがそれぞれに付いています。
画像のようにY字型になった先にバルブが2つあります。



楽器に鍵盤が付いている状態で見るとこんな感じです。
下段はチャンバーの中にバルブがあり、上段通常の楽器のように
オープンな空間にバルブが出ます。

このバルブはリードへ繋がる四角い2つの穴のある面に対して
完璧に平行でなければ空気が漏れてしまいます。
また、2つあるバルブは1つの鍵盤に繋がっていますので
両方が完璧に同時に面に着地しないと
遅れて着地する方は隙間が空いて空気が漏れてしまいます。
なのでバルブ面を完璧に平行に保ちつつ、両者が同時に面に当たるように
調整しながら組み立てて行く必用があります。

更に、バルブの当たる位置により、鍵盤の高さも変化しますので、
鍵盤の高さを他の鍵盤と同じにしつつ、鍵盤の深さを適正にしつつ、
2つあるバルブの着地を同時にしつつ、バルブ面を平行に着地させる、
という沢山の事を同時に実現するように組み立てる必要があります。
これがとても大変なのでチャンバーの楽器は高額になります。

出来の悪い楽器は蛇腹を閉じる時に影響が出ますので、
アコーディオンの空気漏れは蛇腹を閉じる方向でテストします。
よく蛇腹が段々開いて行く..という不具合がありますが
これはバルブの良し悪しを判断できていませんので、
空気漏れをきちんと判断するには閉じる方もチェックする必要があります。



さて、今回の不具合ですが、鍵盤のバルブの皮から何か粘着性のある物が出てきて
バルブが張り付いてしまう現象です。
鍵盤を押そうとすると抵抗があり押す力を増して行くと突然、
コクンという感触と共に鍵盤が下がるという感じです。
これは時々ある不具合ですが、意外と新しい楽器でも起きる時があります。
一度、鍵盤を押してしまえば2回目からは普通に押せてしまうので
そのまま使っている人も多い気がします。
暫く放置すると再び張り付いて鍵盤を押すのに力が必要となります。
このままでは弾き辛いので修理が必用です。

この原因はハッキリ分かっていませんが、皮を貼る時の接着剤の成分が
皮を通過して染み出て来る説、皮自体から何か粘着成分が出てくる説などありますが
本当のところは分かりません。
比較的早い時期に出る場合と10年以上経過してから出る場合があります。
今回は15年なので後者ですね。

画像の右のバルブの皮表面にシミが出ている部分が粘着の不具合です。
左のバルブは正常です。
今回、不良部分は全体の1/4程度の数ですのでまだ良かったです。
最悪の場合、全ての鍵盤、更にベースのバルブにまで不具合が出る時があります。
そうなると全ての皮を張り替えるので大変なことになります。
先のバルブの調整で説明したとおり、バルブは完全に平行で当たっている必用があり
高さが変わると調整が狂うので張り替える時は調整も同時に行う必要が出てきます。
特にチャンバーの楽器はシビアですので大変な作業になります。



背負いベルトですが、金具と接する部分が消耗しています。
これも15年替えていないという事なので交換です。
ベルトは切れると演奏不可になりますし、楽器を落として壊す原因になるので
早めに交換する事をお勧めいたします。



左手のバンドですが、これは見た目にも傷んでいませんし、
切れる心配もないので通常なら交換しませんが、
このバンドは力を入れると僅かに伸びる癖がある物なので
新しい物に交換する事にしました。
アコーディオンのベルト類(背負いベルト、ベースのバンド)は伸縮性があると
蛇腹に加えた圧力が逃げるので、演奏で急峻な変化を付けても
マイルドになってしまい音のアタックが弱まります。
柔らかいベルトは当たりが良くて気持ちよい感じがしますが
良い演奏の妨げになりますので全くお勧めしません。
ちょっと引っ張ってみて伸びる感触があるベルトは硬い物に交換しましょう。
蛇腹のコントロールがダイレクトに音に出て良い感じになります。

今回は鍵盤の修理とベルトの交換だけを先に行いましたが、
日を改めて全体の調律を行うことに決めていただきました。
15年経過ですから本当なら2、3回はやっていてもおかしくありません。
ピアノのように毎年の必要はありません。


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