古いHOHNERの修理2022/04/03

1960~70年頃のHOHNERの修理を承りました。
主な症状は調律の狂いです。


オリジナルの蛇腹留めは縫い目が取れて2つに開いています。
これは新しい物と交換しますが、見た目はオリジナルと変わってしまいます。



本体と蛇腹を繋いでいるピンですがなかなか抜けませんでした。
理由はご覧の通り、錆びているからです。



鍵盤を離した際の音がとても大きいですが経年によるバルブ材の劣化が原因です。
このモデルでフェルト(緑のところ)の厚さがとても薄いので元々、
閉じる音が大きい楽器と思います。
鍵盤自体にもガタツキがあり、隣の鍵盤と触れて雑音が出ているので
閉じる音だけ直してもスッキリと雑音が取れませんので
費用が大きくなる事もあり、今回はこのままとなりました。



グリルカバーの内側で一番埃が溜まる場所ですが
楽器の年代のわりには酷く汚れていません。
全体の調律を行う場合、汚れの程度によらず清掃いたします。



蛇腹と本体の合わせ目にあるパッキンシールが劣化しているので交換します。
この楽器はやや空気漏れがありますので、交換する事で改善する可能性があります。



リードには錆が出ています。
経験的にHOHNERは錆が出ている率が高いです。
リードの合金組成がイタリアの物と違っているのかも知れません。
錆があると調律がすぐに変化して楽器として使えませんので
錆を除去した後に調律を行う事が必須となります。



こちらのリードにも錆があります。
全体の2割程度のリードに錆が見られます。
錆は大きな問題となりますが同じくらい大きな問題があります。
矢印部分ですが、リードとロウの境界に隙間があります。
リードと留めているロウが劣化してリードをきちんと留められなくなってきています。



こちらのリードにもロウとリードフレームに隙間やヒビが見られます。
リードの固定が悪くなると調律が変化したり雑音が出るので楽器として使えません。
全てのロウを除去して新しいロウで固定しなおすのが対処方法ですが
時間と費用が大きくなるのでロウの状況にもよりますが上から新しいロウで
補強する方法もあります。
今回は補強する事になりました。



ベース側のリードですがこちらも錆が出ています。
リードの錆とロウの劣化は修理費用が大きく掛かる上、
楽器として使う上での問題が大きいので余程の理由がない限り、
最初から分っていればそのような楽器を買わない事です。
中古楽器を購入する際は信用できる店で、できれば中を確認すると良いでしょう。

今回の楽器は34鍵盤、MMという小型サイズなのでリードの数が少なく、
修理費用がとても大きくはならないのが救いです。
リードの多い楽器で楽器のランクが低い物であれば修理せずに諦めるという事に
なりかねないのが、リードの錆とロウの劣化です。
オークションの楽器では常にこの問題がある事を知っておいてください。
専門店で買い取りを拒否をするのはこの問題がある楽器です。
そういう物がオークションで出回っています。



リードの調整が全くできていません。
画像の右二つのリードは一番左のリードと比較して明らかにリードの隙間が多いです。
楽器製造時からなのか、途中のメンテナンスでなってしまったのかは不明ですが
このままでは弱い音が出にくい箇所が多数あります。
ここまで酷いのは恐らく、製造時ではなくその後の調律操作でなった可能性が高いです。
調律も信頼できる所で行わないとかえって楽器を悪くします。



とても古い楽器ですがHOHNERは早くから樹脂製のリードバルブを用いており、
耐久性に優れているので反りは殆どなく、交換の必要もありません。
一部折り目が付いた物などありますが、これも調律などでなってしまったものと思います。



リードの木枠を外すと裏面に鉛筆書きでサインがありました。
漢字のように見えますのでドイツで製造された時のものではありません。
輸入代理店が初期の点検時に書いたものか、その後の調律の時に
行った人が書いたものと思います。



リードの木枠を外すと鍵盤のバルブを裏から見られますが問題を見つけました。
バルブの下にある空気が通る穴の端に隙間があります。
空気漏れの原因のひとつはこれでしょう。



バルブを押して開いてみると穴の外周からすぐの所にバルブの端があるのが分ります。



問題のバルブをグリルカバー下の方から見てみました。
こちらから見ても穴の淵がバルブから出ている事が確認できました。
修理すれば空気漏れを改善できる事は間違いありません。



鍵盤を押してバルブを開けてみるとバルブの淵の直下に穴がある事がよく分かります。



ベースメカニックを外しました。
この楽器は簡単にベースメカニックが全て取り出せる構造の物です。
外した理由ですが、ベースボタンの上に触って分る印が多数あるからです。
通常、A♭、C、Eの3箇所に印がありますが、この楽器は何箇所もあります。
製造時には無かった筈ですのでユーザーが熱した金属を押し付けて加工したのでしょう。

印が沢山あるとかえって何が何だか分らなくなるのでやらない方が良いです。
時々自分で色々な所に印を付ける方がいますが3箇所できちんと演奏している人が
いるわけなので、練習すれば3箇所で問題ありません。
印を増やす前に練習を増やしましょう。
恐らくそういう方は練習方法に問題があるのでレッスンを受けましょう。



という訳で、付いた印を除去しました。
トップが凹んでいたので修復が大変でした。


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